幻を追い求めて2

三旨加泉

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「幻を追い求めて2」14話

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「幻を追い求めて2」14話


 長は一つ罪を犯した。
 長はこっそり可愛い青い鳥が刺繍されているドアノブカバーを回した。開けると、棚の上に昔は自分が使っていた飛行機の模型や恐竜のぬいぐるみが棚の上に置かれてある。
 今日、一壱は母と一緒に英会話教室に行っている。長は息を潜めながら机の引き出しを開けた。運良く一番上にそれは置かれていた。
 心無しか、小鳥がこちらを糾弾しているように見えた。冷や汗が背中を伝う。長はそっとそれを手に取り、手に持っていた自分の鞄からもう一つのそれを引き出しの中に入れた。小鳥はずっとこちらを無表情に眺めていた。

 長は再びドアを開け、廊下に誰もいないことを確認すると、そっとドアを閉じ、歩き出した。
 長はオドオドしながら青白い顔を俯かせ、長い廊下を歩いて行った。

 それからというもの、一壱はまるで人が変わったかのように不真面目になった。あんなに自分がどれほど努力しても届かなかった成績も自分より遥か下へと落ちていった。
 初めは不思議に思ったし、何なら両親に甘えて図に乗っているだけではないかとすら思っていた。
 しかし、やはりどこかおかしいという疑念を捨てきれず、長は一壱をこっそり観察するようになった。一壱を陰でよく観察してみると、両親と楽しそうに話したり、自分と些細な会話を交わす際、たまに見せる憂いを帯びた表情に長は目を離せなくなった。

 一壱は喜んで今の道を進んだのではないと長は悟った。
 理由を直視したくなかったが、一壱がバカを演じるようになった時期と、自分がドリルをすり替えた時期が一致しているのをどうしても考えざるを得なかった。

ーバカだ。俺のせいじゃないか。一壱は俺に遠慮したんだ。

 恥ずかしいことに一壱は兄であり、養子である自分に気を遣って態と"息子の優秀枠"を譲ってくれたのだ。
 長は自分の身体の体温が上がるのを感じた。

 それから長の一壱の見る目は変わった。態と両親の前で間違った物言いをして長に訂正させたり、長の清廉なところが話題になろうものなら、だらしない振りをしたりと、思い返せば長の株は一壱によって上げられてるようなものだった。まるで印象操作されてるような感覚さえ覚える。

 しかし、通常ならここで長の立場の者は自尊心を傷つけられたと憤慨するようなものだが、長は違った。


「なあ、見たか?あのオンボロのアパートを。」
 大瑠璃は運転しながらこちらを一瞥する。
「一壱様の住んでいたアパートのことですか?確かに、大企業の社長のご令弟が住むには少々、分不相応のように思えますが。」
「そうなんだ。」
 長は再び景色を眺めた。これから会食をするグランメゾンの屋根が見えてきた。その先端には金属で出来た風見鶏がくるくると回っている。
「本当は両親に我儘を言って高級マンションにでも住んでも良いはずなのに。」
 風が強くなってきたのか、風見鶏はさっきよりも勢い良く回り始める。
「態とあんなアパートに住むなんて」
 大瑠璃が車を店の門の前に停める。

「可愛すぎるなっ。」

 大瑠璃はそんな顔を両手で隠して悶えている長を無表情で一瞥し、スマホを取り出す。
「さすがにあのアパート、怪しいので調べさせてもらいますね。」
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