幻を追い求めて2

三旨加泉

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「幻を追い求めて2」21話

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「幻を追い求めて2」21話


 まだ昼過ぎ頃、一人のスーツ姿の男が黒い扉の前に立っていた。扉の横にはゴミ捨て場なのか、大きなゴミバケツが置かれている。外の明るく眩しい雰囲気とは打って変わって暗く、息が詰まるような感覚さえ覚える。
 男は扉をノックして少し経つと、黒いベストを着た、無精髭を生やした彫りの深い顔の男が顔を出した。
「やあ、どうも。大瑠璃さん?」
 この店の店長と思しき男は微笑を浮かべ、大瑠璃を店の中に通した。

「急に大企業の人から連絡が来るなんて思わなかったからヒヤヒヤしたよ。」と店長は革製の椅子に腰を下ろして言った。
「企業のことは関係ありません。ただ、ここで少し前に働いていたホストについて聞きたいことがあるんです。」
 店長はまだ何も言っていないのに、引き出しを開けて"それ"を取り出した。
「気になってるのはこれでしょ?」
「話が早くて助かります。」
 大瑠璃は電源をつけ、メッセージアプリを探した。店長は聞いてもいないのにスマホを取り出した理由を話し始めた。
「ひょっとしたら彼、何かあったかなぁと思ってさ。ほら、あの子そんなに同伴とかアフターを進んでやらない子だったけど、人気高かったからね。」
 見つけるのは簡単だった。入っていたアプリがそれくらいしか無かったからだ。大瑠璃はこれ見よがしに佇んでいるメッセージアプリを開いた。
「一応、消さなかったんだ。彼が辞めても執着してくるお客はいるからね。」
 大瑠璃は眉を顰めた。暫くは色々な客からメッセージは届いているようだった。中には「寂しい。」「また会いたい」などの連絡が来てはいたが、返事が来ないことに気づくと、メッセージ数は日に日に減っていった。しかし、はるこという名前の連絡先からは、一壱が辞めた数日後からいくつかメッセージが送られてきてるのが分かった。
ーこの間、車から見た時もそうだったが、知り合いだから連絡を寄越したのか?

「聞いてもいい?」
 大瑠璃はハッと顔を上げた。思案に巡らせるあまり、目の前にいる燻銀の男の存在をすっかり忘れていた。
「ええ。構いませんよ。」と大瑠璃は急いで平常を取り繕った。
「一壱くん、元気?」
 遠回しに「なにかあった?」と探りを入れてきているのは分かった。
「ええ、元気ですよ。」と大瑠璃は微笑んだ。

ー今のところは。


 一壱は古い寂れた店内に足を踏み入れた。後ろから成瀬が慎重についてくる。
「竹田のことだから、てっきりもっとお洒落なお店で一杯やるのかと思った。」と小声で一壱に耳打ちする。
「えー、最近はレトロとかモダンの方が人気なんすよ。」
「そ、そういうものなのか?」
ー嘘だ。実際はあんまりお洒落な居酒屋に行くと元指名客に出くわす可能性があるからだ。
 二人はカウンター席に座り、成瀬はビール、一壱は日本酒を頼んだ。
「竹田は最近よく飲むな。またお兄さんと喧嘩したのか?」
「ずっと喧嘩してるようなもんすよ。」とお通しの冷奴に醤油を少々垂らした。

 ふと上に設置されてる古びたテレビからもう何百回とも聞いたことのあるキャッチコピーが流れる。
「小鳥も飛びつく潤しさ 竹田グループ」
 湧水をバックに小鳥が映るこのCMは自分が子供の時からずっと流れているCMだ。
「竹田グループって、竹田と同じ苗字だな。」と空気を読まずに成瀬は呟く。
 竹田は一瞬、顔を顰めたが、同時に長の言葉を思い出す。

ー「一壱には自由になって欲しいんだ。今まで俺のせいで我慢させて、すまなかった。」
 一壱は顎に手を添えた。
「俺、思ったより、怒ってたのかもしれないっす。」
「ん?竹田グループにか?」
 成瀬のキョトンとした表情に思わず一壱は吹き出すように笑った。

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