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「ちゃんちゃら」36話
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「ちゃんちゃら」36話
一度回避したはずの危機がすぐ自分の目の前に戻ってきたので、大地の声は上擦った。
「やっ、な、なにがいけなかった!?」
静かな夜にかっこ悪い自分の声が響いて余計にかっこ悪さが増した。海斗は申し訳なさそうにこちらを見ている。
「違うんだ。なんだか、無理してないかなって思って。」
「無理?」
海斗は力なく頷く。
「あんなに新しく会社立ち上げて、色々やっていきたいって言ってたのに」と困り眉で上目遣いでこちらを見ている。
「え、朝の話か?ずっと気にしてたのか?」
海斗はそのまま首を縦に振る。憂いを帯びた目は長いまつ毛が強調され、どこか艶っぽく感じられた。
まさかそんなに海斗が自分の話を覚えているとは思っていなかったので大地は驚いていた。
確かに学生時代、大地は海斗に家のことでたまに愚痴を言うことがあった。父から用意された会社の跡継ぎという役割を押し付けられてるようで嫌気がさしたことなど、くどくど話すことが多かった。
普段の海斗は特に何か発言するわけでもなく、ただ聞いているだけだった。しかし、その日は違った。
「じゃあ、大地が会社作ってみたら?」
正直言って今まで話を聞いていたかも怪しかった海斗からそんな言葉が出てくるとは思わず、大地は仰天した。
それまで大地はただ父への反発心で違う大学へ入学したりと父への嫌がらせのようなことをしていたが、その反発心というものに理由が生まれたような、そんな気がしたのだ。ただの父への抵抗ではなく、一つの目的、即ちやりたいことが出来たのである。それを気づかせてくれたのは他の誰でもない、海斗だった。
それからは初めて父に言われたこと以外のことを進んで行動してみるようになった。好奇心で他の勉強を始めたり、海斗とあまり行ったことのない定食屋やファストフード店なんかも行ってみた。その頃から、泉谷のような普段だったら関わらない連中とも話をしてみたり交友関係も広がっていった。
自分でもこんなに自身が行動的だったことに驚いていたが、今ならその理由が分かる。必ず自分の隣に海斗がいたからだ。恐らく一人だったら何もしようとは考えなかっただろう。
「俺さ、一人じゃ何にも出来ないんだ。」
海斗は大地の言葉の意味がよく分からず首を傾げている。
「今回もそうだけど、おまえを含めて色んな人に俺、助けられて生きてるんだって気づいたんだ。」
大地は再び無数の星が散らばる夜空を見上げた。
「だからさ、それに気づかせてくれてありがとうな。」
海斗はきょとんとしている。なぜ感謝されてるのか分からないといった顔だ。その表情が可愛らしかったので思わず吹き出すように笑う。
「親父の会社で経験積むっていうのは本当だ。悔しいけど、今までの俺が会社立ち上げたからって上手くはいかないだろうって気づけたからさ。」
海斗はどこか安心したように大地を見ている。すると、なぜか大地は頬を掻きながら辿々しく話し始めた。
「それに、その、ほら、会社立ち上げた時は、お前に見て貰いたいしな。」
それを聞いた海斗は満面の笑みで頷いていた。しかし、その笑みはどこか大事な番としてというよりは、まだ友人としてという意味合いを含んだもののように見え、大地は複雑だった。
「だから、俺から離れないで欲しい。」
意を決して口にしたが、言い切るや否や自分の耳まで真っ赤になっていることを大地は感じていた。
恐る恐る顔を上げて海斗の反応を確かめたが、海斗は何やら顎に手を当てて唸っていた。想像していた反応と全く違ったので大地は海斗の肩に手を置く。
「おい、どうしたんだ。」
「そういえば思い出してさ。」
「なにをだよ。」
「離れててもいいように」
「俺は離れたくないって言ってんの!」と今度は躊躇いもせずにはっきり言い放った。しかし、海斗は目をぱちくりしながらも続ける。
「雫さんが、番の相手が長期間、離れててもいいようにパートナーのなにか持ち物を手元に置いといた方がいいんじゃないかって」
「ちょっと待ってろ。」と番という言葉にあっさり大地は機嫌を直し、バルコニーを颯爽と出た。
一度回避したはずの危機がすぐ自分の目の前に戻ってきたので、大地の声は上擦った。
「やっ、な、なにがいけなかった!?」
静かな夜にかっこ悪い自分の声が響いて余計にかっこ悪さが増した。海斗は申し訳なさそうにこちらを見ている。
「違うんだ。なんだか、無理してないかなって思って。」
「無理?」
海斗は力なく頷く。
「あんなに新しく会社立ち上げて、色々やっていきたいって言ってたのに」と困り眉で上目遣いでこちらを見ている。
「え、朝の話か?ずっと気にしてたのか?」
海斗はそのまま首を縦に振る。憂いを帯びた目は長いまつ毛が強調され、どこか艶っぽく感じられた。
まさかそんなに海斗が自分の話を覚えているとは思っていなかったので大地は驚いていた。
確かに学生時代、大地は海斗に家のことでたまに愚痴を言うことがあった。父から用意された会社の跡継ぎという役割を押し付けられてるようで嫌気がさしたことなど、くどくど話すことが多かった。
普段の海斗は特に何か発言するわけでもなく、ただ聞いているだけだった。しかし、その日は違った。
「じゃあ、大地が会社作ってみたら?」
正直言って今まで話を聞いていたかも怪しかった海斗からそんな言葉が出てくるとは思わず、大地は仰天した。
それまで大地はただ父への反発心で違う大学へ入学したりと父への嫌がらせのようなことをしていたが、その反発心というものに理由が生まれたような、そんな気がしたのだ。ただの父への抵抗ではなく、一つの目的、即ちやりたいことが出来たのである。それを気づかせてくれたのは他の誰でもない、海斗だった。
それからは初めて父に言われたこと以外のことを進んで行動してみるようになった。好奇心で他の勉強を始めたり、海斗とあまり行ったことのない定食屋やファストフード店なんかも行ってみた。その頃から、泉谷のような普段だったら関わらない連中とも話をしてみたり交友関係も広がっていった。
自分でもこんなに自身が行動的だったことに驚いていたが、今ならその理由が分かる。必ず自分の隣に海斗がいたからだ。恐らく一人だったら何もしようとは考えなかっただろう。
「俺さ、一人じゃ何にも出来ないんだ。」
海斗は大地の言葉の意味がよく分からず首を傾げている。
「今回もそうだけど、おまえを含めて色んな人に俺、助けられて生きてるんだって気づいたんだ。」
大地は再び無数の星が散らばる夜空を見上げた。
「だからさ、それに気づかせてくれてありがとうな。」
海斗はきょとんとしている。なぜ感謝されてるのか分からないといった顔だ。その表情が可愛らしかったので思わず吹き出すように笑う。
「親父の会社で経験積むっていうのは本当だ。悔しいけど、今までの俺が会社立ち上げたからって上手くはいかないだろうって気づけたからさ。」
海斗はどこか安心したように大地を見ている。すると、なぜか大地は頬を掻きながら辿々しく話し始めた。
「それに、その、ほら、会社立ち上げた時は、お前に見て貰いたいしな。」
それを聞いた海斗は満面の笑みで頷いていた。しかし、その笑みはどこか大事な番としてというよりは、まだ友人としてという意味合いを含んだもののように見え、大地は複雑だった。
「だから、俺から離れないで欲しい。」
意を決して口にしたが、言い切るや否や自分の耳まで真っ赤になっていることを大地は感じていた。
恐る恐る顔を上げて海斗の反応を確かめたが、海斗は何やら顎に手を当てて唸っていた。想像していた反応と全く違ったので大地は海斗の肩に手を置く。
「おい、どうしたんだ。」
「そういえば思い出してさ。」
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「俺は離れたくないって言ってんの!」と今度は躊躇いもせずにはっきり言い放った。しかし、海斗は目をぱちくりしながらも続ける。
「雫さんが、番の相手が長期間、離れててもいいようにパートナーのなにか持ち物を手元に置いといた方がいいんじゃないかって」
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