ちゃんちゃら

三旨加泉

文字の大きさ
35 / 102

「ちゃんちゃら」35話

しおりを挟む
「ちゃんちゃら」35話


 三人が乗った車の姿が見えなくなると、大地と海斗は無言で家の中に入った。玄関で靴を脱ぎながら、目の前で同じように靴を脱ぐ海斗の背中を眺める。

 家の中で二人っきりになったのは、あの夜以降では初めてで、大地は神経を張り巡らせていた。
 マスターたちと話をして気付かされた自分の海斗への思慕は、たった数週間で頭の十割を占めるほどまでに増幅していた。今まではあんなに海斗を友人としてしか見ていなかったのが嘘のように、今では恋人にするような言動をしたいという欲求さえ生まれ始めている。海斗に触れたいし、なんなら抱きしめたい。
 しかし、これらは全て大地の一方的な思いであり、海斗からそうしたいという話は一切出てこなかった。本来なら、現在の状況を真摯に受け止め、いかに誠実な人物であるかを海斗に理解してもらうのが先なのだが、どうしても心が浮ついてしまっている自分に大地は苛立ちを覚えていた。
 頭に金庫が過ぎる。海斗が最終手段を使わないことを大地は祈るばかりだった。

 そんな物思いに耽っていた大地だが、ふと顔を上げると海斗の姿が無かった。客室に戻ったのかと思い、ドアを開けたが見当たらない。リビングのドアを開けたが、やはりいなかった。
 おかしいと思っていると、階段の方から二階のバルコニーの掃き出し窓が開く音が微かに聞こえた。
 大地の心臓が一回飛び跳ねた。南雲先生との会話を思い出す。海斗が子どもを供養した後に取った行動を嫌でも脳が映像を作り出そうとする。
 大地は階段を駆け上がった。二階のドアを勢い良く開け、バルコニーを覗くと海斗がバルコニーの手すりを掴んでいるのが見えた。

「海斗、そこでなにしてるんだ!」
 大地の大きな声に驚いたのか、海斗は勢い良くこちらを振り向く。そしてなぜか両手を小さく上げていた。意味が分からなかったので、大地は今度は違う意味で同じ質問をした。
「なに、してるんだ?」
 海斗は目を丸くしながら言った。
「なんか、警察が問い詰めてるみたいな言い方だったから。」
 なんだその解釈は。可愛いが過ぎるな、と呑気に大地は愛おしんでいたが、問い詰めてるという言葉に気づき、急いで訂正した。
「いや!なんか夜だし、暗いから、バルコニーは危ないかなぁと思って」と大地は手をモジモジさせながら視線を逸らして言った。すると、「ああ。」と納得した顔で海斗が手すりからすんなり手を離したので心の底から大地は安堵した。そんな様子を海斗は不思議そうに見つめている。

「さっき、雫さんたちを見送る時、空が綺麗だなぁと思ってさ。ここから見たら良い景色かもって思ったんだ。」
 大地はまた安堵した。どうやら自分の考え得る最悪の事態にはなっていないようだった。大地は気を取り直して手すりに手をついた。
 上を見上げると本当によく夜空の星が輝いているのが分かった。暫く黙って二人で眺めていると、海斗も手すりに腕を置いて、その上に顎を乗せた。
「最近ずっと下ばかり向いてたから、夜空見るのは久々な気がするな。」
 言われてみれば、大地もそうだった。顔も俯きがちで地面と睨めっこすることが多かった。
「なあ、どうだった?会社。」
 海斗から会社という言葉が出てくるとは思わなかったので、少し驚きつつも大地は笑いながら言った。
「まあ、前々から親父の付き添いで行くこともあったから、別にいつも通りだったよ。」
「そっか。」
 海斗は素っ気無い返事をした。さっきまで夜空に見惚れていたのに、視線は下に向けていた。
「なあ、やっぱり俺、手術受けようかな。」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

処理中です...