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「ちゃんちゃら」46話
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「ちゃんちゃら」46話
「志望動機はなんですか?」
「えーと。」
海斗は椅子にぎこちなく座りながら答えた。
「おん社の企業理念を見て、たいへん共感できるぶぶんがあり、それは」
ここまで言って一気に息を吐いた。緊張して息継ぎが上手くできていなかったようだ。大原が冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「大丈夫ですか。一回休憩しましょう。」
海斗は希望する会社へ就職する為、面接の練習をしていた。大原が付き合ってくれたが、たとえ相手が知人でも海斗はうまく喋れなかった。
「大学には試験で入ったから、面接って初めてなんだよなぁ」
海斗は椅子にぐったり座り直した。だらんと上を見上げる。元々、敬語を使うのが苦手で、その代わり相手とはフランクな関係になりやすいのだが、逆に畏まった雰囲気を作るのは大の苦手だった。
頭を抱えている海斗を元気づけるように大原はグラスに入った麦茶をコースターの上に置く。
「海斗様の志望する会社が求めている人材は、検品作業をしてくれる方ですから、多少敬語が崩れてても大目に見てくれますよ。」
それでも海斗の中にある不安は拭えなかった。やはり、初めての面接。自分が相手にどう見られるのか、悪い方向にしか考えられなかった。
そんな虚な目をしながら麦茶を口にする海斗の顔を大原は覗き込んだ。
「練習すれば大丈夫ですよ。そうですね」と顎に手を当てる。
「社長がいれば良い練習相手になってくれると思うんですけどね。」
海斗はぼんやりとした頭をゆっくり回転させ始める。社長?ということは、大地の父親?ということは…
「え?金城グループの?」
「はい。」
大原の即答に背筋がゾッとした。
「ムリムリムリ!なに言ってるんだよ!あ、なに言ってるんですか。」
大原はクスクス笑っている。
「良いんですよ、私には遠慮せず喋って下さい。」
「それじゃあ練習にならないよ!」
頬杖をついて、唸りながらリモコンを持ち、テレビを点ける。本当に気分転換した方が良さそうだと海斗自身も思ったからだ。
テレビを点けると、ちょうど再放送なのか、昔のバラエティ番組をやっていた。ちょうど様々な企業の人気商品の歴史を特集していた。就活中だからか、企業という言葉に惹かれる。大原が廊下や部屋の掃除に出掛けたので、海斗はこっそりソファで横になって眺める。
すると、金城グループが手掛けている商品が紹介される。海斗もよく手にする文房具だった。金城グループは飲食チェーン店も手掛ければ、こういった文房具商品にも力を注いでいて、多種多様な経営をしていた。
一方、番組では、その文房具商品がなぜ出来たのか、番組のキャラクターが会社の社長に話を聞きに行くという流れになっていた。そこで燻し銀な白髪混じりの男が登場した。海斗はテレビ越しだというのに、その男の迫力に圧倒された。シュッとした体型にキッチリと固められた髪、そして鋭い目線が海斗を捉えているように感じた。思わずソファで畏まった格好になって座る。
ーこれが、大地の親父さん。
彼の喋り方は堂々として知性が溢れていて、聞きやすく、そして分かりやすかった。自分でも相手が賢い人間だということを海斗は理解できた。
番組に見入っていると、インターフォンが鳴った。海斗は大原が出るだろうと思って少し待機していたが、掃除機の音が上から薄ら聞こえる。どうやら気づいていないようだ。
ここで海斗にとって死ぬまで忘れられない出来事となる失敗は、彼の家にインターフォンなど無かったということだ。チャイムが鳴っただけだと思い、海斗は玄関まで早歩きで歩いていく。
そして、玄関のドアを小さく開ける。その隙間から紺色のスーツの裾が見えた。雫たちでないことはそこで察した。ひょっとして仕事関係の人かもしれないな、とその時は特に考えもせず「ちょっと待っていて下さい。家の人呼んでくるので。」とドアを閉めようとする。
「待って欲しい。」
低く威圧感を与えるような声に海斗は驚いてドアの取っ手から手を離してしまった。動かす人間がいなくなった為、ドアは前へ前へと開いていってしまった。
そこには、ついさっき液晶越しで見た顔の整った燻し銀な男が立っていた。
「志望動機はなんですか?」
「えーと。」
海斗は椅子にぎこちなく座りながら答えた。
「おん社の企業理念を見て、たいへん共感できるぶぶんがあり、それは」
ここまで言って一気に息を吐いた。緊張して息継ぎが上手くできていなかったようだ。大原が冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「大丈夫ですか。一回休憩しましょう。」
海斗は希望する会社へ就職する為、面接の練習をしていた。大原が付き合ってくれたが、たとえ相手が知人でも海斗はうまく喋れなかった。
「大学には試験で入ったから、面接って初めてなんだよなぁ」
海斗は椅子にぐったり座り直した。だらんと上を見上げる。元々、敬語を使うのが苦手で、その代わり相手とはフランクな関係になりやすいのだが、逆に畏まった雰囲気を作るのは大の苦手だった。
頭を抱えている海斗を元気づけるように大原はグラスに入った麦茶をコースターの上に置く。
「海斗様の志望する会社が求めている人材は、検品作業をしてくれる方ですから、多少敬語が崩れてても大目に見てくれますよ。」
それでも海斗の中にある不安は拭えなかった。やはり、初めての面接。自分が相手にどう見られるのか、悪い方向にしか考えられなかった。
そんな虚な目をしながら麦茶を口にする海斗の顔を大原は覗き込んだ。
「練習すれば大丈夫ですよ。そうですね」と顎に手を当てる。
「社長がいれば良い練習相手になってくれると思うんですけどね。」
海斗はぼんやりとした頭をゆっくり回転させ始める。社長?ということは、大地の父親?ということは…
「え?金城グループの?」
「はい。」
大原の即答に背筋がゾッとした。
「ムリムリムリ!なに言ってるんだよ!あ、なに言ってるんですか。」
大原はクスクス笑っている。
「良いんですよ、私には遠慮せず喋って下さい。」
「それじゃあ練習にならないよ!」
頬杖をついて、唸りながらリモコンを持ち、テレビを点ける。本当に気分転換した方が良さそうだと海斗自身も思ったからだ。
テレビを点けると、ちょうど再放送なのか、昔のバラエティ番組をやっていた。ちょうど様々な企業の人気商品の歴史を特集していた。就活中だからか、企業という言葉に惹かれる。大原が廊下や部屋の掃除に出掛けたので、海斗はこっそりソファで横になって眺める。
すると、金城グループが手掛けている商品が紹介される。海斗もよく手にする文房具だった。金城グループは飲食チェーン店も手掛ければ、こういった文房具商品にも力を注いでいて、多種多様な経営をしていた。
一方、番組では、その文房具商品がなぜ出来たのか、番組のキャラクターが会社の社長に話を聞きに行くという流れになっていた。そこで燻し銀な白髪混じりの男が登場した。海斗はテレビ越しだというのに、その男の迫力に圧倒された。シュッとした体型にキッチリと固められた髪、そして鋭い目線が海斗を捉えているように感じた。思わずソファで畏まった格好になって座る。
ーこれが、大地の親父さん。
彼の喋り方は堂々として知性が溢れていて、聞きやすく、そして分かりやすかった。自分でも相手が賢い人間だということを海斗は理解できた。
番組に見入っていると、インターフォンが鳴った。海斗は大原が出るだろうと思って少し待機していたが、掃除機の音が上から薄ら聞こえる。どうやら気づいていないようだ。
ここで海斗にとって死ぬまで忘れられない出来事となる失敗は、彼の家にインターフォンなど無かったということだ。チャイムが鳴っただけだと思い、海斗は玄関まで早歩きで歩いていく。
そして、玄関のドアを小さく開ける。その隙間から紺色のスーツの裾が見えた。雫たちでないことはそこで察した。ひょっとして仕事関係の人かもしれないな、とその時は特に考えもせず「ちょっと待っていて下さい。家の人呼んでくるので。」とドアを閉めようとする。
「待って欲しい。」
低く威圧感を与えるような声に海斗は驚いてドアの取っ手から手を離してしまった。動かす人間がいなくなった為、ドアは前へ前へと開いていってしまった。
そこには、ついさっき液晶越しで見た顔の整った燻し銀な男が立っていた。
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