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「ちゃんちゃら」61話
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「ちゃんちゃら」61話
それからというもの、海斗は出勤の際に流川と一緒にバスに乗ることが増えた。流川は相変わらず、ずっと止めどなく海斗に話しかけてくる。話の内容はカードゲームの話やその日食べたご飯の事など、多岐に渡った。
「海斗くんって、よく人の話を聞いてくれるよね。理解のある陽キャって本当にいるんですね。」
急に自分の話になったので驚いて流川の顔を覗き込む。
「陽キャ?」
「うん。海斗くんはダウナー系の陽キャですね。学生の時はそういうタイプ絡みづらそうだなって思ってたんですけど、海斗くんみたいな人もいるんですね。」
よく分からないが、流川から見て自分は好印象だったようだ。流川は引き続き今日のカードゲーム大会について話を始めていた。
ロッカーで着替えて職場へ向かうと、何やら話し込んでいる水城と池田先輩、奥にパソコンと睨めっこしている土中がいた。
「今週、大阪に旅行に出掛けるんですけど池田さん、オススメとかありますか?」
「金持ちの行きつけとか知らないんだけど。」
「んもう、池田さん、意地悪言わないで下さい!一般の方が行く場所を知りたいんです!」
海斗はショルダーバッグを置きながら水城を眺める。確かに水城は作業着を着てても身嗜みが整っていて上品さがあるのがよく分かる。手入れが行き届いた髪の艶や姿勢の良さはどこか金城家を彷彿とさせられる。
「あの、水城さんって」と小声で隣にいる流川に声掛ける。
「あー、水城さんですか?水城グループのご令嬢だそうですよ。なんでかうちで社会経験ってやつをしてるみたいですね、はい。」
水城グループ。金城グループとは知り合いなのだろうか、と素朴な疑問を抱いていると、池田先輩が面倒臭そうにスマホを弄り始める。
「婚約者とは、もう長いんだっけ?」
水城は人差し指を顎に当てて少し唸る。
「いえ、ちゃんとお会いしたのは数ヶ月前なんです。」と朗らかな笑顔を向けている。
「気をつけなよ。」
池田先輩からいきなり鋭い声を出されて水城の笑顔が徐々に消えていく。
「何に気をつけるんですか?」
水城の巻かれた髪が左右に揺れる。
「水城ってまだ二十歳っしょ?若くして結婚すると男はもっと遊びたかったって数年後に暴走するよ。」
棘のある言葉に水城はポカンと口を開けている。
海斗は思わず自分の指を触る。今まで一つも合わなかったジグソーパズルが、突然全てのピースが当て嵌まって完成したような、そんな感覚が海斗の頭で起きていた。
ーそうか、俺、怖いんだ。
もう十一月だというのに体が熱くなり、鼓動が速まる。
海斗は大地が好きだ。大地も海斗が好きだ。初めは想いが通じ合ったことに浮かれ、喜んでいた。
しかし、それが続くのは一体いつまでなのだろうか。大地は途中で自分に飽きないだろうか。今は奇跡的にお金も何も持っていない、育った環境も全く違う自分を好きになってくれている。
その奇跡はいつまで続く?
耳にスピーカーから大音量で響くラジオ体操の音に海斗は驚いて立ち上がる。辺りを見渡すと、水城以外は皆やる気の無い顔で体操を始める。海斗もそれに倣って体を動かす。
大地は大学時代、よく彼女が変わった。αだからというのもあるが、彼の自信のある振る舞いにみんな惹かれるのだと思う。よく大地は女性に呼び出されては告白されていた。それを泉谷たちは大層羨ましがっていた。ところが、大地はそれらの女性たちとは長くは続かず、すぐ別れていた。大地本人から彼女たちの話はあまり聞かず、彼女たちから遊びの連絡が来ても、どこか面倒事のような目でスマホを睨んでいたのを覚えている。
海斗は自分といる時の大地を思い出す。彼は自分といる時どんな顔をしていた?自信のある振る舞いだっただろうか?いや、いつも自分の顔を見て辛そうにしていた。喜ぶようになったのは、お互いくっついてからだ。
本当に、俺は、大地と結婚していいのだろうか。良いパートナーになれるのだろうか。
海斗は気怠く腕を広げながら水城たちを見る。水城は体操をしながらも静かに池田先輩に近づいていった。
水城は真剣な表情で池田先輩に聞き返す。
「では、どうしたらいいでしょうか?」
池田先輩は水城を一瞥すると、ポツリと独り言のように言い放った。
「答えはない。ただ、気をつけるってだけ。」
それからというもの、海斗は出勤の際に流川と一緒にバスに乗ることが増えた。流川は相変わらず、ずっと止めどなく海斗に話しかけてくる。話の内容はカードゲームの話やその日食べたご飯の事など、多岐に渡った。
「海斗くんって、よく人の話を聞いてくれるよね。理解のある陽キャって本当にいるんですね。」
急に自分の話になったので驚いて流川の顔を覗き込む。
「陽キャ?」
「うん。海斗くんはダウナー系の陽キャですね。学生の時はそういうタイプ絡みづらそうだなって思ってたんですけど、海斗くんみたいな人もいるんですね。」
よく分からないが、流川から見て自分は好印象だったようだ。流川は引き続き今日のカードゲーム大会について話を始めていた。
ロッカーで着替えて職場へ向かうと、何やら話し込んでいる水城と池田先輩、奥にパソコンと睨めっこしている土中がいた。
「今週、大阪に旅行に出掛けるんですけど池田さん、オススメとかありますか?」
「金持ちの行きつけとか知らないんだけど。」
「んもう、池田さん、意地悪言わないで下さい!一般の方が行く場所を知りたいんです!」
海斗はショルダーバッグを置きながら水城を眺める。確かに水城は作業着を着てても身嗜みが整っていて上品さがあるのがよく分かる。手入れが行き届いた髪の艶や姿勢の良さはどこか金城家を彷彿とさせられる。
「あの、水城さんって」と小声で隣にいる流川に声掛ける。
「あー、水城さんですか?水城グループのご令嬢だそうですよ。なんでかうちで社会経験ってやつをしてるみたいですね、はい。」
水城グループ。金城グループとは知り合いなのだろうか、と素朴な疑問を抱いていると、池田先輩が面倒臭そうにスマホを弄り始める。
「婚約者とは、もう長いんだっけ?」
水城は人差し指を顎に当てて少し唸る。
「いえ、ちゃんとお会いしたのは数ヶ月前なんです。」と朗らかな笑顔を向けている。
「気をつけなよ。」
池田先輩からいきなり鋭い声を出されて水城の笑顔が徐々に消えていく。
「何に気をつけるんですか?」
水城の巻かれた髪が左右に揺れる。
「水城ってまだ二十歳っしょ?若くして結婚すると男はもっと遊びたかったって数年後に暴走するよ。」
棘のある言葉に水城はポカンと口を開けている。
海斗は思わず自分の指を触る。今まで一つも合わなかったジグソーパズルが、突然全てのピースが当て嵌まって完成したような、そんな感覚が海斗の頭で起きていた。
ーそうか、俺、怖いんだ。
もう十一月だというのに体が熱くなり、鼓動が速まる。
海斗は大地が好きだ。大地も海斗が好きだ。初めは想いが通じ合ったことに浮かれ、喜んでいた。
しかし、それが続くのは一体いつまでなのだろうか。大地は途中で自分に飽きないだろうか。今は奇跡的にお金も何も持っていない、育った環境も全く違う自分を好きになってくれている。
その奇跡はいつまで続く?
耳にスピーカーから大音量で響くラジオ体操の音に海斗は驚いて立ち上がる。辺りを見渡すと、水城以外は皆やる気の無い顔で体操を始める。海斗もそれに倣って体を動かす。
大地は大学時代、よく彼女が変わった。αだからというのもあるが、彼の自信のある振る舞いにみんな惹かれるのだと思う。よく大地は女性に呼び出されては告白されていた。それを泉谷たちは大層羨ましがっていた。ところが、大地はそれらの女性たちとは長くは続かず、すぐ別れていた。大地本人から彼女たちの話はあまり聞かず、彼女たちから遊びの連絡が来ても、どこか面倒事のような目でスマホを睨んでいたのを覚えている。
海斗は自分といる時の大地を思い出す。彼は自分といる時どんな顔をしていた?自信のある振る舞いだっただろうか?いや、いつも自分の顔を見て辛そうにしていた。喜ぶようになったのは、お互いくっついてからだ。
本当に、俺は、大地と結婚していいのだろうか。良いパートナーになれるのだろうか。
海斗は気怠く腕を広げながら水城たちを見る。水城は体操をしながらも静かに池田先輩に近づいていった。
水城は真剣な表情で池田先輩に聞き返す。
「では、どうしたらいいでしょうか?」
池田先輩は水城を一瞥すると、ポツリと独り言のように言い放った。
「答えはない。ただ、気をつけるってだけ。」
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