ちゃんちゃら

三旨加泉

文字の大きさ
92 / 102

「ちゃんちゃら」番外編8話

しおりを挟む
「ちゃんちゃら」番外編8話


「すみません。待ったっすか?」
 空島の言葉に鳥舟は首を振る。
「いいや。今日は付き合ってくれてありがとう。」
 鳥舟は薄手のジャケットを羽織ってカジュアルな服装をしていた。遠くから見てもスポーツマンのように引き締まった体なのは分かった。
「本当に良かったんすか?お詫びの内容がただの散歩の付き添いで。」
 鳥舟は柔らかく笑いながら頷く。
「うん。いつも一人でブラブラしてるからね。たまには人と関わって刺激が欲しいんだよ。書くネタになるからね。」
「ネタ?」
 鳥舟が歩き出したので、空島はそれに続く。
「うん。小説書いてるんだ、僕。」
「へー!」
 確かに、眼鏡をかけている姿は知的なイメージを感じさせる。しかし、マスター程ではないが図体の大きいその姿には想像できない職業だった。目を輝かせた空島を見ながら鳥舟は淡白に付け加えた。
「まあ、小説が売れたことはないんだけどねぇ」
「なんだ。」
 空島が両手を頭の後ろに持ってくると、ある一つの疑問が頭を過った。
「え、じゃあ、どうやって生活してるんすか?」
「親が都市部に土地持ってるんだよね。」
「うわぁ、脛齧りまくりっすね。」
 鳥舟は腕を組みながら「ハッキリ言うなぁ」とケラケラ笑っていた。空島はハッとする。あまりにも鳥舟が友好的過ぎてつい生意気な態度を取ってしまった。つい最近、会ったばかりで助けて貰った身だというのに。どうやら鳥舟には会った人間をすぐに友人にしてしまう能力を持っているみたいだった。
 普段、αが相手だと警戒しがちになる。実際、木待先輩が相手の時は緊張と高揚感を覚えながら会っていた。例え大地のような見知った相手だとしても、空島の気が緩むことはなかった。しかし、鳥舟はαのフェロモンが薄いからか気がつけば、すぐ隣で並んで歩けてしまうくらいには自然に接することができる相手だった。
 すぐに空島は心の中で被りを振った。それは自分がΩだからであり、本能でαに惹かれているだけだと自分に言い聞かせた。

「あ、珍しい。人がいる。」
 鳥舟の言葉に顔を上げると近くの公園まで歩いていた。鳥舟は公園のベンチで話をしている青年と小学生くらいの少年が並んで座っているのを見ていた。
「いつも人がいなくて寂れてるんだけど、今日は二人もいるね。」
 鳥舟はいつもと違う光景に恐らく興味を持ったのだろう。公園の中に足を踏み入れていく。正直、空島は気が進まなかった。理由は単純で、ベンチに座っている二人が知り合いだったからだ。二人は夢中で何やら話をしている。頼むから気がつかないでくれと願ったが、聡明そうな顔つきの少年がこちらに逸早く気がつく。

「あ、空島のお兄さん!」
「のってなんすか。のって」
 鳥舟は目を丸くして空島を凝視する。
「知り合いなの?」
「あ、はい。知り合いの弟の大知くんっす。」
 鳥舟が関心を持った様子で大知を眺めている。そして視線を大知のすぐ横で一人で慌てて帰り支度を始めている男へと移した。
「この方は?」
「知り合いの同僚の流川くんっす。」
「わー紹介しないで下さい!」
 流川は顔を隠しながら叫ぶ。まるで面が割れたらマズイ犯罪者のような反応に空島も鳥舟も笑ってしまった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

処理中です...