ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」番外編13話

「ちゃんちゃら」番外編13話


「でも、このままにしておけないだろう。落ち着くまで部屋で横になりなさい。」
「ダメっす!来ないで!!」
 空島は必死に鳥舟を突き返すが、泉谷の時と同様、ビクともしなかった。簡単に体が持ち上げられ、空島は小さく悲鳴を上げた。そんな空島の背中を鳥舟は優しく撫でた。
「大丈夫。何もしないから。」
 鳥舟は階段を上がり、襖を引く。そこには乱雑に敷かれた布団があった。
「僕がズボラで良かった。」と鳥舟は苦笑しながら空島を布団で寝かせる。
「薬、持ってきてる?」
「りゅっ、リュックの中に」
「じゃあ、水と一緒に持ってくるよ。」
 そう言って鳥舟は腰を上げて立ち去ろうとする。空島は視界が揺れる中、必死に鳥舟の裾を掴んだ。鳥舟は驚いてこちらを振り向く。彼の顔がさっきより紅潮しているのがボヤけながらもはっきり分かった。それを見て、空島は彼の腕にしがみついた。

「好きっ、好きです!」
 鳥舟の目が見開かれる。
「大好きです!!」
 鳥舟は息を荒げながら告白する空島の手を優しく撫で、布団にそっと寝かせる。鳥舟は紅潮しているが、相変わらず優しい瞳をしていた。

「その言葉、ヒートが治っても言ってくれたら信じるね。」


 羨ましかった。鳥舟のことが。自由にやりたいことをやれている鳥舟のことが。しかし、自分にとっての不自由さは、ただ自分が勝手につけている枷でしかなかったのだ。
 木待先輩も好きだった。それはαだからではなく、自分の為に何かをしてくれたことが嬉しく、笑顔が眩しかったからだ。本当に好きだったんだ。
 だからこそ、突き放された時、本当に辛かった。自分はずっと誰かを好きだという感情に蓋をしているだけだった。

 空島は心の中で、あの時の自分を抱きしめた。腰くらいまで伸ばした髪、お弁当にいつも入れていた砂糖たっぷりの卵焼き。投げたボールがグローブの中心に綺麗にハマった感覚。その全てが愛おしかった。

 気がつけば、空島は横になって涙を流していた。横にあるテーブルを見ると、水が入ったコップが置かれてある。覚えていないが、鎮静剤が効いたのだろう。あんなに靄が掛かっていた頭がスッキリしていた。
 空島は起き上がり、階段を下りた。辺りはもうすっかり暗くなっており、廊下が異様に長く感じた。本当に広い家だ。しかし、そのどれにも明かりは無く、まるで幽霊屋敷のような雰囲気だった。少し背筋がゾクッとしていると、一つだけ光が漏れている襖を発見する。その襖を少し開けると、鳥舟がパソコンを前に何やら入力していた。小説を書いてるのだと空島はすぐ察した。
「あの」
 集中していたのか、空島の声に一拍遅れてこちらを振り向く。
「やあ、落ち着いた?」
「はい。部屋、貸してくれてありがとうございました。」
 鳥舟はいつも通り笑いながらパソコンを閉じて手招きをする。
「空島くんがいいなら、今日はもう遅いし泊まっていきなよ。」
「俺、あんたが羨ましかった。」
 予想外の返答に鳥舟が目を丸くしている。
「自由なあんたが羨ましくて、冷たい態度取ってすんませんでした。」
 頭を下げる空島を見て、鳥舟は座布団に座り直す。
「実を言うと、僕が自由に色々出来るようになったのは最近なんだ。」
 今度は空島が目を丸くした。
「親は僕がαだから良い人と結婚させようとしたり、良いところに就職させようとしてきたんだけどね、全部上手くいかなかったんだ。どうも周りからは出来損ないのαだって見られるみたいでね。」と笑いながら頭の後ろを掻いている。空島は唖然としていた。
「だから、両親が亡くなってからは、趣味だった小説を書いて出版したり、お見合いとかも断ってたんだ。」
 鳥舟は空島の顔を覗き見するかのように首を斜めにして眺める。
「僕は君と初めて会った時、親近感が湧いていたんだ。自分の立場に不満を持っているところとかね。」
 空島は小さく笑う。
「じゃあ、俺たち、まだ自由人一年生っすね。」
「君はやっぱり面白いこと言うねぇ」

「えぇ、好きっすからね。」

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