ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」20話

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「ゼロから千まで」20話


「千歳ちゃん。千歳ちゃんは、もし男の人が好意を持って話しかけてきたら、どうする?」
 唐揚げが入ったおにぎりを頬張りながら千歳は考え込む。しかし、考えても考えても答えなど出なかった。当たり前である。千歳にとって、好意というものがよく分からなかったからだ。そんな千歳の様子を見て、百合愛はすぐに言葉を変えた。
「あー、ちょっと分かりづらかったよね。ストレートに言うと、下心の話なんだけど。」
 下心。あまり良い言葉ではないことは知っている。それがどんな状況なのかは頭に浮かんでこなかった。答えるのに考えあぐね、ふと顔を上げると、百合愛は優しく微笑んでいた。
「お母さんが私に男の人を紹介しようとするの。でも私、その人があんまり好きじゃなくって」
 百合愛は膝の上に持っていた弁当箱を置いた。百合愛はこちらを窺うように見上げてくる。その上目遣いが千歳にはどこか助けを求めているような気がした。
「私、好きな人は自分で決めたいな。」
 百合愛の声が窓の外へ消えていった。開いた窓から微風が入り、百合愛の髪が揺れる。
「じゃあ、もし困ったらうちのこと呼んで!」
 百合愛は目を見開いた。
「うちと一緒に遊ぶって言って、断ったら?」
 すると、百合愛はクスクス笑いながらお腹を抱えていた。薄らと瞳は潤い、涙ぐんでいる。
「本当に千歳ちゃんはいつも私を助けてくれるね」
「そう?」と首を傾げていると、教室のドアが勢い良く開いた。
「永遠!!またおまえ、木に登ったそうだな!職員室に来い!!」
 顔を上げると、大柄で赤いジャージを着た男がドアの前で仁王立ちしていた。教室では千歳を見て笑う者や、男を見て距離を置く者と別れていた。
「千歳ちゃん、防木先生呼んでるよ。」
「仕方ないなぁ」
「何が仕方ないだ!おまえも少しは須藤を見習え!!」と怒りの声が男から飛んできた。
 千歳はおにぎりの最後の一口を咥え、廊下に勢い良く出て行った。
 すると、廊下の背景がぐにゃりと曲がり、渦のように回り始めた。思わず千歳は目を閉じた。

 強い日差しに目が覚める。上を見上げると、白い天井ではなく木の天井だった。木目が妙にはっきり見える気がする。
「おはよう、千歳。お友達が来るんでしょ?早く起きなさい。」と襖から顔を少しだけ出した祖母が優しく声を掛けてくる。
 どうやら今日、百合愛と会う約束をしていたからか、百合愛の夢を見たようだ。
 千歳は無事に退院し、今は病院から実家で再び暮らし始めていた。窓を開け、外の空気を吸う。枯葉の匂いや陽だまりの匂いが千歳の鼻に入ってくる。やはり自分は建物の中にいるより、外にいる方が良いと改めて認識した。
 しかし、まだ自宅療養の為、学校には通えなかった。早くあの広い校庭を走ったり、木登りをしたかった。また木登りなどしたら風紀の防木に怒られるだろうか。千歳が苦笑していると、家のインターフォンが鳴った。二階の窓を上げると、玄関につい昨日会ったばかりのミディアムの髪型をした女子が立っていた。
「百合愛!」
 二階から声を掛けると、百合愛は顔を上げ、こちらに小さく手を振る。昨日とは違って目も腫れておらず、満面の笑みだ。その様子を見て千歳は心底安心した。


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