【完結】紅の戦女神は世界を変える

斉藤りた

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ミコトに遅れる事数十秒、文字通り海上を駆けてきたユウトはその光景を前に思案していた。

「熱いんだよこのバカ弟子!早く解け!」

と身体を光らせるミコト、

剣先を素手で掴もうとするがミコトに羽交い締めにされている発光したアキラ、

魔物の口から生えたままグリグリと左右に動いているアイツの愛刀。

周囲の触手は二人に近づいては消され、オロオロしているように見えて何ともマヌケな光景だ。

「あー・・・」

状況を把握し、誰を手伝うべきか考えていると左右に動いていた剣先がピタと止まった。

一本の直線だった魔物の口がウネウネと動き出す。

出てこようとするツバサをまた飲み込もうとしているようだ。

二人の横に飛び移り、自身の黄金の剣を口から生えた剣に軽く当てる。

キンッと澄んだ音が響く。
自分もここに居るぞ。そう刀の持ち手に伝える。

フルフルと剣が小さく揺れ、ほんの二十センチほどしか見えていないのに喜んでいるのがわかる。

不意に刀身が鈍く光り始める。

あぁ、アレか。

「ミコト、アキラ、離れるぞ!」

「姉さん…!」

「馬鹿!その姉ちゃんが出てくるんだよ!」

ミコトと二人がかりでアキラを引き剥がし、海に飛び込む。

海中に沈み込むと頭上から鈍い爆発音が聞こえる。

爆発魔術。

ツバサが使える数少ない魔術だったな、とアキラとミコトを守るように抱えて海面を見上げながら思い出す。

海中からまた魔物の口付近に飛び辿り付いた時には爆発の煙も薄れ、魔物の口は爆発で半球型に二メートル近くが吹き飛んでいる。

魔物の口からはツバサが這い出し、左脚をちょうど抜いた所だった。

立ち上がったツバサは肩の下まである髪の毛をかき上げた。

銀色のインナーカラーを持つ黒髪は魔物の体液で濡れている。

身長は現世と同じくらいだが、胸の大きさが段違いに大きい。

腰の位置も高く細くなったのか、短パンが下がって腰パンになってしまっている。

空に向かってカーブを描く長いまつ毛に隠された大きな黒い瞳はよく見ると中心の瞳孔がボルドーのような暗い赤色をしている。

陶磁器のような白い頬に付いた魔物の血が艶かしい。

現世のツバサはボーイッシュな美少女だが、前世の姿や顔立ちはビスクドールのような正統派の美少女で、手に刀を持った姿はケルト神話のアンドラステを彷彿とさせる。

「姉さん!」

ユウトが左腕に抱えていたアキラが飛び出し、ツバサに飛び付く。

「姉さん、姉さん…」

「あぁ、ごめんね、心配かけて」

肩に顔を埋め泣くアキラの頭を片手で撫でた。

前世ぶりの再会。

アキラが先ほどよりも弱く光っているおかげで触手は近付けない。

が、一定の距離を保って蠢いている。

ツバサはウネる触手もヨダレのような体液が着いた自分も気持ち悪いなぁと呑気にアキラの頭を撫でながら考えているが、その手はぎこちない。

「こらぁバカ弟子!手ぇ貸しな!」

声の方を見ると、魔物の本体から十メートル程離れた海面に立ったミコトが両手で杖を掲げ、その先に光を集めている。

ミコトがブツブツと呟きながら集中し始めたので、ミコトを支えているユウトが叫んで説明する。

「結界を張る!予定より大きいから、本体だけの結界と触手まで入れた結界の二つ張る!アキラは触手まで入る方を張れるか!?」

ツバサの肩から顔を上げ、ふぅと一息付くとユウトの方を振り向く。

「余裕」

泣いていたとは思えない声色で一言返すとかがんでツバサの膝に手を入れ、ヒョイっと抱え上げた。

「@#& ・・・!え、あれ?」

慌てて呼ぼうとした弟の名前は理解出来る言葉にならない。上手く発音が出来ない外国語のような感覚だ。

「あぁ、もうあっちの言葉は話せないよ。後で説明するから、姉さんは僕に掴まってて」

そのままフワリと優しく浮き、ミコトの後ろにお姫様抱っこのまま降り立つ。

「姉さん、立てないでしょ」

そりゃ小難しい魔術が使えなきゃ普通は海の上なんて立てないのよ・・・と小声で文句を言いながら口を尖らせると、その表情を見たアキラの眉尻が下がる。

が、耳はしっかり聞こえていたようで前を向いてミコトの方を見ると

「師匠、最後のそれはこっちに変えた方が硬くなるよ」

と指先だけを振って空中に二つ光る文字を描く。

最初のは読めないけど、二つめは強固とかそんな意味だったはず。

「・・・クッソ生意気な弟子だねぇ!」

と笑いながらミコトの目の前で集めた光が弾けた。

「下がるぞ!」

とミコトの腰を抱えて守るように抱いたユウトが砂浜の方へと海の上を走り出し、アキラもツバサを抱いたまま水面から数センチの所を飛んで行く。

アキラの肩越しに魔物の方を窺うが、まだ光に包まれている。

海岸まで半分くらいの道のりを進んだ辺りで立ち止まると、金色の五角形や六角形の骨組みに、透明の結界。

角張ったドームのような形だけ見ると美しいガラスの温室のようだが、中にいるのは亜熱帯の植物でも色とりどりの小鳥でもなく、人喰い魔物である。

海岸まで伸ばしていた、結界に挟まれて本体に戻れない触手は、動きづらそうに結界の周辺でウネウネと動いている。

「団長、反対の手空いてる?」

とツバサを抱っこしたままのアキラが声をかけた。

「ん?ああ」

とミコトを抱いていない方の左手を見せると、海面に向かって杖を振り、氷のような足場を作った。

そこにツバサを降ろすと、ユウトの左肩に捕まらせた。

「あんまり触り過ぎないでね」

ジロリと睨むが、ユウトは慣れた様子で片側の口角を上げ、

「ハイハイ」

と笑っている。

先ほどのミコトと同じように両手で持った杖を前に出すと、無言のまま身体の光を両手に集め始めた。

ものの数秒で光が弾けるが、先ほどの爆弾のようなミコトの結界と違い、3人の周囲にもキラキラが舞っている。

二、三秒そのまま煌めくと、光が急速に魔物に向かって飛んでいき、蠢いていた触手を巻き込んで格子状の輝く結界を作った。ザルのような形でスッポリと温室結界を覆った。

師匠のミコトよりも短い時間で、触手も巻き取り、大きな結界を簡単に作ってみせたのだ。

「とりあえずしばらくはこれで持つはず。一旦戻ろう」

何事もなかったかのようにアキラが振り向いた。
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