【完結】紅の戦女神は世界を変える

斉藤りた

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四人が犬飼のいる波打ち際まで出てきて耳を澄ますと、確かに結界の方向からゴニョゴニョと地響きのような声らしき音が聞こえる。

「アキラ、あんたアレが喋るなんて言ってたかい?」

「いや、そんな記憶はないけど・・・確かに喋ってるね」

「散々勉強させられたがあの言語は聞いた事がないな」

「そっか、団長って貴族のお坊ちゃんですもんね!見えないけど!」

ツバサの頭が叩かれポカリと軽い音を立てた。

痛くない頭を撫でながらツバサも耳を澄ますと、

「あれ?何言ってるかわかるよ」

と呟いた。

三人と八尾が一斉にツバサの方を見る。

犬飼が魔物から目を逸らさないのはさすが軍人というところか。

「え、なんでツバサがわかるんだい?」

「姉さんにわかって僕にわからない事なんてあり得なくない?」

「お前、勉強から逃げ回ってなかったか?」

「高野さん、赤点の常連ですよね・・・?」

以前から監視されていたせいで八尾にも赤点のフルコースがバレている。

「失礼な!でも本当にわかるんだもん」

意味はないかもしれないが、両耳の後ろで手を開いて声に集中する。

「yg_na@nw ・・・あ、そっか。えぇっと・・・痛い、助けて、もうやめて、お腹空いた、苦しい、あと・・・コロして?って言ってる」

現世での言葉に翻訳する。

「殺して?死にたいって事か?」

「多分、そうなんじゃないかな・・・?」

自殺願望のある魔物?
人も動物も魔物も食べ尽くしたのに?

話していると、堤防でフラッシュの光がたかれ始めた為また作戦本部という名の海の家に戻って来た。

「アレは誕生からそれほど経ってないはずだよね。言語を使う魔物は知能の高さと長寿である事が必須、って条件があるんだけど・・・」

アキラが顎に指を置いて思案する。

「いや、例外があるな」

ユウトが剣技と同じようにアキラの思考を真っ二つに断つ。

「お前達には教える機会が無かったが、討伐しても詳細を報告しないようにしている魔物がいるんだ。王侯貴族や一部の人間に口頭でしか教えられていない事だが、元が人間だった場合だ」

「「元が・・・?!」」

「広く知られてしまうと、人工的に魔物を作ろうとする馬鹿が必ず出てくるからな。ただ、俺達も一度しか見た事がない」

「えぇ~って事はアレ、元々人なんですかぁ?そうなると人権団体とかがうるさくなりそう・・・」

八尾だけは別の心配をしている。

呆れた目線を八尾に向けると、ユウトは二人に向き直る。

「普通の魔物は魔素の濃い地域に生まれて本能的に魔術が使えるだけで、動物と同じく首を落とすなり致命傷を与えれば倒せるだろう?だが、元が人間の場合は違う。強い想いを持ったまま死に至った時に何かのきっかけで魂が魔核となり、魔核が身体を作るんだ。それを壊さない限り死に至る事もないし、どれだけ切り刻もうと時間が経てば元に戻る。人としての思考や感情はほぼ無く、その能力が死ぬ時の状況によって違うらしい。」

思い出しているのだろう、眉間にしわが寄る。

「俺とミコトが以前討伐したのは盗賊に妻子をなぶり殺され、家に火を付けて自殺を図った男の魔物だった。全てを無かった事にしようと燃やそうとしたんだろうな、火の玉のような見た目で周辺を発火させ続けるやつだった。会話は出来なかったが、ずっと家族の名前を呼んでた」

なんて悲しい・・・何と言っていいかわからず、思わず目を伏せる。

「だとするとですよぉ?」

素っ頓狂な声で八尾が割り込む。

「アレは何でも食べ尽くそうとしてるし、飢餓とか餓死とか死んだ可能性が高いって事ですよね?でも痛い、もうやめてというのはどういうことなんでしょう?」

美しいカーブを描く顎に桜貝のような爪を携えた指を添えて押し黙っていたミコトが口を開いた。

「アキラ、あたしらが死んだ後に帝国に、帝都に行ったかい?」

「あぁ、行ったよ。帝都というか、帝都のあった場所に、だね」

「城と研究施設には?」

「帝都は全部食われていたよ。研究資料とかは全部回収してたんだけど、帝都は建物まで食われたのか、ほとんど更地になって・・・え、師匠、もしかしてそういう事?」

「皇帝なら知識はあったはずだし、やりかねない、というよりおそらく間違いないだろうね」

二人の会話で何となく予想が付いた。

暴君と名高い皇帝は人工的に魔物を作ろうとした。
そして作り出した魔物に食べられたのだろう。自身と取り巻きだけでなく、帝都全てを犠牲にして。

「アレが作られた魔物だとして、喋る事と何か関係あるんですか?」

「喋る事って言うより、何でツバサにしかわからないのかって事だね。ありゃ多分ツバサと同じ南方の少数民族の言語さ」

「んあ?!」

突然名前を出されて変な声を出してしまった。

「私?民族??」

「あんた元は魔力なしの黒髪だっただろ?ありゃ南の方の民族の特徴さね。資源が豊富だし王国ほど魔術が発展していないからか、魔力のない子が多く生まれるらしい」

「えっ!?」

「はっ!?」

「そうなんですか!?」

アキラとツバサと、何故か八尾も驚いている。

「なんでお前さんがビックリしてるんだ?」

ユウトが横の八尾に尋ねる。

「いや、だってさっきツバサさんの髪、銀と黒じゃなかったですか?しかも剣も持ってたし、魔力無しって・・・普通の人間も使えるようになれるんですか!?」

「あぁ、魔力が多いのが銀で、金、茶と続くんだが、アイツは元々黒髪の魔力なしだったんだ。そのせいで剣魔術が使えず騎士団に入れなかったんだが、アキラが無理矢理魔力を分けたんだよ」

「分けるって、分けられるもんなんですか?」

八尾のつり目がキラリと光る。

おそらく、政府の元で魔術を使える人間を増やしたいのだろう。

「いや出来ない。出来ないんだが、アキラだからなぁ・・・ただ誰も理論を理解出来なかったし、アイツにしか出来ない芸当だぞ」

「はえ~じゃあアキラさんを説得出来れば可能性が・・・いや、アキラさんよりツバサさんの方が説得出来そうだな・・・」

そもそも前世の言語を喋れないし聞き取れないから無理なんだが、と思ったが面倒だったのでユウトは横目で見るだけで放置しておいた。

「で、でもそんな事言われた事なかったんだけど!」

「王国は他種族に寛容だったからねぇ。魔物も人を害しなきゃ容認してたし、誰がどこの出身でも別に気にしなかったのさ」

確かに騎士団員の誰がどこの出身なんて聞いた事も聞かれた事もない。

「別にもう生まれ変わってるしどこ出身でもいいんだけどさ。あの言葉は南の方で使われてる言葉って事?」

「そうだろうねぇ。だとしても、何で突然喋り出したのかはわからないけど」

「世界を超えたから?でも前倒した人の魔物は喋ってたんでしょ?」

女二人はう~んと唸りながら答えの見つからない思考に捕らわれている。

「そもそも人が魔物に成る事例自体が珍しいんだ。考えてもわからないさ」

「目的は変わらないし、喋る理由も倒す役には立たなさそうだからどっちでもいいよ。姉さんは姉さんだよ」

「まぁ下手に意思の疎通が出来るとそれはそれで困りますからね。人類を食べるけど会話が成り立つ、なんて状況より人類の敵の方がまだ方針は単純で助かりますよ」

男性陣から三者三様のフォローが入った。
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