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世界は俺を置いて進んでしまう・2

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 自分は結構図太いな。と、星來は思った。
 あれから、ベッドに寄りかかって床で眠ってしまい、気付いたら夜明けだった。
 
 その時は既に避難警報は解除されていたものの、特に新しい情報が無いらしく、テレビも、ネットも同じ話を繰り返し放送している。
 スマホを見ると学校から『子供たちはみんな元気にしています。今日の修学旅行は予定通り行います』と言う内容のメールが来ていて、星來は安心した。

 今日は昨日と打って変わって良い天気だ。
 今朝の朝焼けは異様に赤かったのに。
 前に「朝焼けは雨の前触れ」と聞いた事があったから雨が降るかと思っていたのに、そんな事は無かった。

 昨日は出来なかった洗濯を早々に済ませ、昨日作ったもので朝食を済ませる。
 やっぱり一人だと寂しい。
 
 しかし、流石に昨日は作り置きを作りすぎたと、星來は反省していた。
 今朝、改めて冷蔵庫の中を見たら、タッパーでパンパンだったのだ。
 そこでふと閃いて、金田にも分けようと、少しづつ取ってタッパーに詰め直した。
 
 エプロンを外して外へ出ると、虎之助が駐車場に止まっている車の上で日向ぼっこをしているのを見つけた。
 そこで「おはようございます」と声を掛けると、彼は辺りをぐるっと見回してから喋り始めた。
 
「虎之助さん、昨日は大丈夫でしたか?」
「ああ、オレは大丈夫だが、老人にはキツイな」
「佐々木さん、何かありました?」
「昨夜なかなか眠れなくてな、まだ横になってる。何かあった時は頼むな」
「分かりました」
 そんな事を話していると、声が聞こえたのか、金田がドアを開けて出て来た。
「二人共、ちょっと良いかな。昨日の事で、U&Eから大事な話があるそうなんだ」

 金田に呼ばれて、久しぶりに部屋へお邪魔すると、玄関の様子が変わっていた。
 下駄箱に考紀の身長位の金属の棒のが2、3本立てかけてあり、不思議な色合いの布の服が、前は無かったポールハンガーに引っかかっている。
 プロヴァンス柄の壁紙が可愛い台所にも、明らかに護身用だと思われる物がいくつも置いてあった。
 
 
 作り置きを渡してから金田の部屋へ入ると、モニターに老齢の男性が映っていた。
 ライブ映像らしく、彼は星來を見るとにこやかに笑う。
 金田に促されて、星來と虎之助はソファへ座った。
 
「博士、お待たせしました。管理人さん、こちらU&Eのエイベル・シアーズ博士だ」
(リヒトさんに似てる……、あっ!)
 そこで、星來はリヒトの外見は、彼の息子を真似ていると聞いたのを思い出した。
 似ていて当然である。
 
「皆さんおはようございます。星來さん、初めまして。そしてトランシルバニア・イル・トランディージョ君、元気そうで何より」
 博士は言語研究者とあって、日本語がペラペラだった。
 あと虎之助の本名が長すぎる。
 
「おはようございます」
「ふん、早く俺の名前を言えるようになれ。発音が違うぞ、気に食わん」
「あ、あの、羽根田 星來です。父と母がお世話になっています」
 ふん、と鼻を鳴らしてテーブルへ乗る虎之助を横目に、星來は深々と頭を下げた。
 
「こちらこそ、彼らはもう引退しているのに、引っ張り出して悪かったね」
「いえ、二人共喜び勇んで出掛けたので大丈夫です。そんな事より、昨日何があったんですよね。皆は無事なんですか?」
 星來は気が急いで、聞きたい事を聞いてしまう。
 それを金田も、虎之助も止めなかった。

「ああ、皆は無事だよ。昨日のは心配をかけてすまなかったね。星來さんにはその件で協力してもらわないといけないので、ちゃんと話します」

 昨日の騒ぎについて、博士は星來はにも分かるように説明してくれた。
 発端は先日の鹿と一緒にいた、クランカ星から来た二人なのだそう。

 二人はクランカ星の有力者の息子で、彬たちに追われていた時は地球へ無断で遊びに来て一度捕まったが、監視の隙を突いて逃げていたのだと言う。
 あの後、再び彼らを捕まえたは良いものの、有力者の息子と分かったので、流石に一般人と同じに送り返す事ができなかった。
 そこで、クランカ星に連絡を取ったところ、現政権反対派のクーデターが起きて親が失墜、引き取りを拒否されたそうだ。
 
 そこから彼らが『フェザーガーデン』に住む、住まないの話に繋がる。
 以前はU&Eにて、地球に住む為の教育を施していた後『フェザーガーデン』へ住まわせたいと言っていた。
 
 それが数日前、彼らの親が反対派を駆逐して政権を取り戻したと言うのだ。
 こちら側としては親が彼らを迎えに来るだろうと準備していたのだが、実際に来たのは反対派で、親の名を騙って二人の引き渡しを要求してきた。
 
 しかし、二人が確認すると、それが反対派だと直ぐに分かった。
 ゴタゴタに巻き込まれたくない地球側が、確認が取れるまで彼らは引き渡せない、とやんわり拒否すると、向こうは正体がバレたのが分かったのだろう。
 有無を言わさず攻撃を仕掛けてきた。
 その時、衛星をいくつか破壊され、通信関係などで混乱が起きたそうだ。
 
 そこに追いかけて来たクランカ星の現政権が追いつき、一触即発になった。
 このままでは地球周辺が紛争地になってしまう、と考えた地球側は『訪問者』と一緒に、クランカ星人たちと話し合いをする事にしたと言う。
 クランカ星人は力こそ正義なところがある。
 力で勝る他の星の者が話し合いの場にいれば、大人しく話を聞いてもらえると思ったのだ。

 結果、有力者の息子二人がいた事もあって、現政権側とは直ぐに話が出来た。
 
 しかし反対派の一部は最後まで反発、最後は内輪揉めの末に自爆してしまった。
 あの光はその時のものだったらしい。
 
 
 知らない星の見た事もない人々の事だが、彼らの最後の光を見たと知って、星來はとても怖くなった。
 星來が両腕で自身の身体をかき抱くようにしていると、顔を覗き込んできた虎之助が心配そうに「お前顔色が悪いぞ、大丈夫か?」と聞いてきたが、星來は返事も出来ない。
 暫くすると「星來さん」と、博士が優しい声色で話しかけて来た。
 
「星來さん、大丈夫。昨日の事は貴方とは一切関係のない事です。気に病まなくていいのですよ」
 ゆっくりモニターを見上げると、博士が穏やかな笑顔でそう言っている。
 どこかリヒトに似た表情を見て、星來は少し安心した。
 
「すみません、取り乱して。俺に用があったんですよね」
 星來が気丈に振舞うと、隣に座っている金田が労うように背を擦ってくれる。
 博士も心配そうに手を伸ばしていたが、届かないと気付いたのだろう、居住まいを正して話を続けた。
 
「ええ。その前に、今回の事件を世界へ公表する事になってね。それと同時に『訪問者』の存在も知ってもらう予定だと国際事務局から連絡があったんだ」
「早いですね」
 金田も知らなかったのだろう、驚いて目を見開いていた。
 そして、国際事務局と言うのが、地球が宇宙世界と交渉する機関であると星來に補足してくれる。
 こんなの、世界が混乱するとしか思えないと考えていると、博士が画面に写真を映し出した。
 
「実はかなりの数の映像が流出していてね、これなんか交渉に向かう途中だろうね。エリス星の乗り物がしっかり写っているし、こっちなんかは飛行機から撮ったのだろうね、遠くにリヒトまで写っているよ。攻めて来た方など天体望遠鏡でも見えたから、何日も前から騒ぎになっていたし、今回は衛星も破壊されている。もうオカルト現象でごまかす事ができないんだ。世界は既に混乱しているんだよ。地球側も今なら『訪問者』を功労者として紹介できるチャンスだと思っているらしい」
 そこで博士はため息をひとつ吐いた。
 
「しかしだ、星來さん。公表されればそちらに『訪問者』が住んでいるのを嗅ぎつけて行く者がいるかもしれない。私たちも極力気を付けるが、貴方にも迷惑を掛ける事になってしまう事もあるでしょう。しかし、彼らは貴方を信頼している。どうか、投げ出さずに協力して欲しい」
「もちろんです……でも、俺みたいな一般人がどうしたらいいんでしょうか」
「相手にしないで、金田か宮島か黒永に連絡を。後は今まで通りでお願いします。貴方には彼らの心を守って欲しい」
「心を……」
 
 どうしたらそれができるのだろうか。
 不安になっていると、虎之助が擦り寄って来た。
 言うと怒るので言わないが、こういう時の彼は本当の猫のように見える。
 きっと彼も不安なのだろうと思い、星來は先程金田がしてくれたように彼の背中を擦ってやった。
 
 
 

 ・・・・・・・
 
 11/20 読みにくいので少し直しました。
           
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