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U&E日本支部

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 秋も大分深まった頃、星來は子供二人と一緒にU&Eへ呼ばれた。
 久しぶりに電車へ乗って東京へ。
 アパートからほんの一時間位なのに、星來も、考紀も、もうずっと来ていなかった。

 東京の街並みを見て何か思う所があるかと思ったが、何も思わないどころか新鮮に感じる自分が意外で、星來はそっちに驚いた。
 考紀の方も同じだったようだ。

「そう言えば、楓も東京に住んでたんだよな。この辺?」
「ううん。少し離れたところ」
「そうなんだ」
 話しながら、楓と考紀は慣れた様子で人を避けて行くが、後ろを行く星來はぶつかりそうになる。
 
(もう都会には住めない……)
 
 星來が人に酔ってふらふらになった頃やっと到着したU&Eは、繁華街から離れた小高い場所にある、周りを白い高い塀に囲まれたガラス張りのビルだった。

 楓が柱に付いている認証カメラの前に立つと、ピッと音がして横の黒くて大きい門が自動で開いた。
 それに星來と考紀はすっかり驚いてしまう。
 楓の話だと、こちら側は客人専用の入り口だそうで、職員は専用の入り口があるそうだ。
 三人が中へ入ると、また軽い電子音がして、門が重い音を立てて閉まった。

「わぁ」
「すげー」

 塀の中は良く手入れされた美しい庭園だった。
 それほど広くはないが、真ん中に噴水まであり、水しぶきに虹が架かっている。
 もう直ぐ冬になろうかと言うのに、足元には色とりどりの花が咲き乱れていて、蝶や蜂が飛んでいて、空気も門の外より大分暖かい。
 不思議に思いながら、星來は上着を脱いだ。

 庭園を真っ直ぐ突っ切って、自動ドアを潜ると、受付だった。
 モニターしかない無人の受付は簡素な作りだったが、そこかしこに監視カメラがある。
 気が付かなかったが、庭園も監視されているのだろう。

 楓が手慣れた様子で受付のタブレットに自分の名前と、星來、考紀の名を登録すると、またもや軽い電子音がして受付の左側の扉が開いた。
 壁だと思っていた部分が開いて星來がびっくりすると、何度も驚いていると言って、子供たちに笑われてしまった。

「オレも結構ビビりだなって思う時があるけど、星來はもっとビビりだよな」
 扉の奥の、ホールにあったエレベーターへ乗り込むと考紀がそう言った。
 このエレベーターも全面ガラス張りで、足元が透けていて星來は乗り込むときに足が竦んだのだ。
 
「こんなに見晴らしが良いのに。ね、楓」
「そうだね」
 眼下へ下がって行くビル群を見ながら考紀がそう言うと、楓はいつも通りクールに答えた。
 でも、さっきは星來を見て笑っていたし、ちゃんと子供らしいところもあるのを皆知っている。
 もしかしたら格好付けているのかなと思ったら、楓が可愛く見えた。


 ポーンと音がして、エレベーターが到着したのはビルの最上階にあるラウンジだ。
 見事なシャンデリアと全面ガラス張りのラウンジには調理場やバーカウンターもあったが、今の時間は全てセルフらしく、楓に聞いて自販機でお茶を淹れる。

「楓くんはここには何回も来てるんだね」
「うん、父さんが家を長く開ける時なんかはここで見てもらってた。でも、アパートに行ってからは一度も来てないな」
「へー、部屋とかどんなの?」
「病院みたいで好きじゃない」
「そうなんだ」

 三人でお喋りしながら、窓際の一番見晴らしの良い場所に座る。
 眼下に見える車や人がミニチュアみたいだ。


 暫くその様子を見ていると、静かなラウンジにエレベーターの到着音が響いて人が下りてきた。
「よ、みんな久しぶり」
 やって来たのは竜弥だ。

 彼に会うのは、あの203号室の騒ぎ以来。
 そんなに長く会っていなかった筈なのに、今の竜弥は随分大人びて見える。
 その隣には、あの日一緒にいた生物学者のスミス。
 そして竜弥の背に負ぶわれているのは……。

「あっ、その子。この間の子でしょ?」
「そう、名前あるんだぜ。ましろって言うんだ」
「まんまだね……黒永くんが付けたの?」
「そうだよ?」
「まぁまぁ」
 楓の生意気な言い方に、いつも通り竜弥が食い付いたところで、これまたいつも通りに星來が止めに入った。
 竜弥が大人びて見えたのは気のせいみたいだ。
 全員でテーブルを囲むと、ましろは当然と言った感じで竜弥の膝に座った。
 
「それで、今日来てもらったのはさ、俺、もうアパートに戻れなさそうなんだよ」
「え? まだ引っ越してきたばっかりじゃない」
「そうなんだけどさ、こいつが俺から離れないと帰れないんだよ。まさか連れ帰る訳にもいかないし」
 
 指を指されて、ましろは大きな目をゆっくり瞬きさせる。
 真っ白な髪に真っ白な肌、真っ白なワンピースみたいな服を着たましろは、一見かなりの美少年だが、時々動きが爬虫類っぽい。
 そう言えば、シャーリーもこうやって上下から瞼が閉じるタイプだった、『訪問者』に多いタイプなのかなと、星來はましろの美しい瞳を見ながら思う。

「ましろの目、すっごく綺麗だね! お話はできるの?」
「少しだけな。見た目はでっかいけど、中身は赤ん坊なんだよ。二人共、こっちに来て相手してやってくれ。俺は星來と話があるから」
「うん」
「……」

 嬉々としてましろへ近付く考紀の後を、渋々と言った様子で楓が続く。
 ましろが二人に興味を示したのを確認してから、竜弥は体を捻って話の続きを始めた。
 
「それで、今日は解約の手続きをしたい。荷物は新井が取りに行くから」
 新井と言うのは対地球外生命体課の職員だ。
 星來と面識があるのは、竜弥と彬以外には彼しかいないので選ばれたのだろう。

「ねぇ、ましろ。あっちで遊ばない?」
 気付くと、考紀が持って来たゲーム機を出してましろを誘っていた。
 だが、ましろは首を振って竜弥へしがみ付く。
 それを見た考紀が「竜弥くんにそっくりだね」と言う。
 
「どこが似てる? 顔も似てないし、色なんか正反対だろ?」
「だって竜弥くん、星來に甘えてそうやって抱き着くじゃん」
「ばーか、もうしねぇよ」
 そう言って、ましろの頭を撫でる。

「……タツヤくん……大人になって。なんだか感動しちゃった!」
 星來が目をウルウルさせていると、竜弥は顔を赤くして「止めろよ」と言った。

「あと、今日来てもらったのにはもうひとつあってさ」
 動揺が収まると、竜弥が居住まいを正した。
 考紀と楓がましろに見せながらゲームを始めると、ましろはゲームに興味があるのか、瞳がきゅーっと縦に細くなった。

「考紀をU&Eの系列の高校に入れられないか? 楓は元々そのつもりだったんだけど、考紀が行かないなら地元の高校に行くって言い出してさ。この間、博士と宮島さんに何とかしてくれって泣き付かれたんだよ」
「楓くん……」
 そう言えば、楓は中学校へ進学する時も同じような事を言っていた。
 彼の考紀への執着は何なのだろうか。
 親を散々困らせていた星來が言うのも何だが、彬を困らせないで欲しい。
 今、彬は竜弥がいなくなってますます忙しくなり、殆ど家に戻れない状態なのに。

「検討してもらえねぇ?」
「だって、そこ間違いなく私立でしょ。うちにそんなお金無いんだけど……」
「星來。澪に出してもらえば?」
「え、でも……」
 ゲームをしながら話を聞いていた考紀がそう言ったが、星來は即答できない。
 考紀の母、澪が会社を興してそれなりに稼いでいるのは知っている。
 でも、まだ中学生にもなっていないのに相談するのもなぁと思う。

「いや、金はどうにかなるんだよ。博士が考紀と楓に、ましろと一緒に学校へ通って欲しいんだと」
「そうなの? じゃあ、彬さんと話してから、澪と相談してみる」
「頼むよ」
 そう言って、竜弥は学校のパンフレットを渡してきた。


 *******

 スミス氏はましろの記録を取っているだけです。
 空気だと思って下さい。
 決してストーカーなどではないです。
 
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