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『仲間』に会う
しおりを挟む俺の寝室問題は、俺が悶々としただけで余計な心配だった。
食事の後、ルーカスは「一緒に寝るのは正式に夫婦になってからです。それまでには私に惚れて欲しいです。」と言って、ソファーの方へ移動してくれた。
エミルにもさりげなく休む場所を用意してくれたし、言う事も格好いい。
ルーカスみたいなのを紳士って言うんだ、間違いない。
キルシュのは次の日の夕刻に着いた。
流石は海の向こうの大陸との貿易で成り立っている国、グーテンベルクよりも大きくて立派な港だった。
そこからは馬車。
馬車に揺られて2時間ほどで、ほぼ予定通りに城へ到着した。
そこはグーテベルクのような中世ヨーロッパを思わせる城とは違って、装飾の少ない四角い建物で、良く手入れされた公園のような前庭があった。
城の裏は運河。ここから海まで直ぐに出られる。
「ここは元、貴族の館なのですよ。
王族が使用していた城は我々が壊してしまったので。」
と、俺たちと馬車に同乗してくれていたライムが苦笑交じりに教えてくれた。
エントランス前で馬車が止まり、ルーカスのエスコートで馬車から降ろしてもらう。
今まではエスコートする側だったから、これは恥ずかしいな。
城ではキルシュのしきたりに合わせた豪華な家具や天蓋付きのベッドが部屋に揃えてあった。
クローゼットの中を見ると俺が今まで身に着けていたような服が入っている。
バスルームも付いている。中にはキルシュでは殆ど使わないと聞いた湯船まで付いていた。
ここでは俺を丁寧に扱ってもらえるようだ。
「必要なものはこちらで揃えますのでお申し付け下さい。
それでは、何かありましたらこちらのベルでお呼びになって下さい。」
一通り説明が終わると、侍従は下がっていったので、俺はエミルに部屋の中を確認するように頼む。
何か良くない魔道具などが仕掛けられていたら嫌だからだ。
その間に俺は胸元から水色の宝石の嵌ったネックレスを出した。
これはルネにもらった物。
グーテンベルクの習慣では恋人にはアクセサリーをプレゼントするものだと言って、ルネは俺にネックレスをくれた。
俺も戻ったらルネに何か贈りたいな。
ネックレスを少し揺すると、ルネの瞳に似た色の宝石の中に少量の水が入っているのが判る。
これは城の泉の水だそうだ。
ルネがこの水を介して俺の状況が判る様にと入れた。
もしかしたら満月の晩にはルネにこっちを見てもらえるかもしれない。
「部屋の中は安全な様です。」
エミルがバスルームを確認して戻ってきた。
「エミル、ありがとう。」
俺は首にネックレスをかけ直した。
「感謝なんて良いのですよ、これが僕の仕事なんですから。
アルフォンス様はもっと王子らしく偉そうにしていて下さい。」
そう言ってエミルはふふっと笑った。
「何にせよ、ルーカス様は思ったほど悪い人ではなさそうで良かったです。
まぁ、今のところですけれどね。」
「だな。明日はどうなる事やら。」
「もしもの時はまた僕がなんとかしますよ。」
それを聞いて俺はエミルが攫われた時の事を思い出してしまった。
もうエミルを危険な目に遭わせたくは無い。
その後、ルーカスは疲れただろうと部屋で食事を取らせてくれて、久しぶりにお風呂に入った。
どうやら俺はかなり疲れていたようで、ベッドへ入ると直ぐに眠ってしまった。
我ながら危機感が薄いな・・・
目を開けると知らない色の天蓋が見えた。
一瞬どこに居るのか判らなくて混乱したが、カーテンを捲ると昨日も見た中庭が見えた。
「ああ・・・キルシュか。」
俺はゆっくりと身を起こし、用意されていた薄手のガウンを羽織る。
ここはグーテベルクに比べるとだいぶ肌寒いのだ。
「おはようございます。」
隣の侍従部屋からエミルの声が聞こえて安心して、俺は「おはよう。」と言ってベッドから降りた。
直ぐにエミルが着替えを持ってこちらへやって来たので、着替える前に、首にかかっているネックレスにも小さく「おはよう。」と囁いたら、答えるようにネックレスが淡く光ったような気がした。
声なんて聞こえないし、見えているかも判らないのに馬鹿だと思うけれど、そう思わずにはいられなかった。
部屋で朝食を済ませ、着替えているとルーカスがやって来た。
忙しいだろうに結構マメな人だ。
「おはよう、アルフォンス。
その服は全て私が選んだんだよ。思っていた通りだ、似合って良かった。」
「もしかして、以前から俺の事を知っていたのですか?」
「ああ、姿絵を見たんだ。
それに光魔法が使える君は国外の方が人気があるんだよ。」
「そうなんですか?」
俺は今まであまり国外の事を気にした事はなかった。
難民が来る事はあったけれど、外交はルネや兄、最近は大臣に任せていて、俺は内務ばっかりだったな。
ラクーンとは仲が良かったけれど、今回の騒動でラクーンは自分達の方が上だと思って付き合ってくれていた事が判った。
戻ったら、もっと外に目を向けて、外交に力を入れた方が良いと進言しようかな。
朝食後、謁見の間に行き、ルーカスからこの国の大臣たちに紹介された。
皆、若くてやる気に溢れていて、国の未来や国民の事をちゃんと考えている良い国だと思った。
ちょっと楽観的なのが気になったけれど。
皆から話を聞いて、昼には食事会を開いてくれて、質素ながら美味しい食事を食べさせてもらった。
「この後は私の家族に会ってくれないか?
私たちは平民なので失礼があったら申し訳ないのだが。」
昼食会の後はルーカスに予定通り家族に会って欲しいと言われた。
ずいぶん急ぐ気もするが、俺に断る理由など無い。
「構いません。ぜひ仲良くなりたいです。」
「そうか、ではこちらへ。」
ルーカスは俺の手を取ってエスコートしてくれた。
やっぱり気恥ずかしい。
ライムが「今から会って頂くのは私の弟なのです。
ルーカスは家族と呼んでくれますが、私達は家族同然の関係であってルーカスとは血は繋がっていません。」と補足してくれた。
ルーカスには血の繋がった者はいないそうだ。
案内されたのは、中庭がよく見える広い部屋だった。
その部屋の窓際には大きなベッドがあって、若い男性が一人座っていた。
「ギムレット、アルフォンス様をお連れしたよ。
アルフォンス、彼がライムの弟のギムレット。
よく似ているでしょう?
彼は足を怪我していて歩けないので、すまないが正式な挨拶は省略させて欲しい。」
「ええ、そんな事構いません。」
ルーカスは柔らかく笑って俺をベッドの端に座らせてくれた。
ギムレットはライムより髪色が濃いがライム色の瞳が良く似ていると思った。
年は俺と変わらないくらいかな。
「はじめましてギムレットです。えっと・・・」
ギムレットは俺を見ると目を輝かせて両手で口を覆った。
「ほ、本物・・・!本物かっこいい!!!」
「え?」
「『幻夢交響曲~わたしの王子様』のアルフォンス王子♡
エミルさんもいるぅ♡」
「あ、あああぁ~」
俺から変な声が出た。
「こら!ギムレット止めなさい!」
ライムさんが止めに入る。
「弟は変わった子で、礼儀知らずで申し訳ありません!」
俺はベッドに突っ伏すのを堪えながら、大丈夫と手で制した。
と言うか、思い出した!思い出したよ、そのゲームだよ!
俺は両手で顔を覆った。
「あの・・・もしかしてギムレットはさんは『転生者』なの?ゲームやったの?」
「え?『転生者』ってまさか・・・」
「ルーカスとライムは知ってるの?」
他に聞こえないように囁き合う。
ルーカスをみると、顔が真っ青だ。
「ここで話しても大丈夫なの?」
「大丈夫です。僕もルーカスも『仲間』ですから。
まさか他にも『仲間』がいるなんてびっくりしたぁ!ね、ルーカス!」
ギムレットは俺とルーカスに判るくらいの小さい声でそう言ってにこにこと笑い、ルーカスは頭を抱えてしまった。
これはどういう事なんだろう???
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