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ギムレット
しおりを挟む「そーなんですよ僕、あのゲームが大好きで、推しはアルフォンス王子なんです。
その次はベルンハルト様とルーカス!」
「・・・気を使わなくてもいいぞ。」
「ふふっ、ベルンハルト何気に人気あるんだ。
でも、俺はエリーゼが好きだよ?」
「えー、乙女ゲームなのにそれは無いですよぉ。」
「それより、本物のルーカスはどうだった?」
「思ったよりへタレでした♪」
あれから俺達は延々と『幻夢交響曲~私の王子さま』の話をしている。
エミルとライムに俺たちが転生者だと言う事が知られると説明が面倒そうなので、二人には悪いけれど三人きりにしてもらったのだ。
そして最初に俺の転生してからのだいたいの事のあらましを二人に話した。
ルネの話もしたけれど、ギムレットはやっぱり知らなかったらしく、誰?と言っていた。
それから二人の話をしてもらった。
どうやらギムレットは前は佐竹 俊樹という男子大学生だったそうで、先に移転でこちらへきてしまったルーカスに呼ばれたそうだ。
「ルーカスはゲームをした事はないの?」
「ああ。俺はそもそも日本人じゃないし。」
どうやらルーカスは5年ほど前に、圧制に苦しんでいた人たちが助けて欲しいと女神さまに祈ったところ、こちらへ呼ばれたらしい。
「こちらへ来たのはいいが俺一人ではどうにもならなくて、俺が女神さまに祈ったらギムレットの中に『トシキ』が入ってしまったんだ。
全く面識がない人物だったのに申し訳なかった。」
「まぁ、僕ならやり込んでるから詳しいしね。
でも実際はゲームとは違った。」
やっぱりそうなんだ。
俺が女神さまからゲームとは進みが変わっているという話を聞いた事を二人に話したら納得された。
「ライムはギムレットの事、気付いてそう?」
「どうかなぁ?でも前よりおかしくなったと思ってるかも。」
「皆は神の声が聞こえる人物だと思っているよ。」
二人はにやりと笑った。
「確かに。僕が出来るのは助言するだけだからね。」
ルーカスの話だと、もともとギムレットは変わった子だったらしく、今更おかしな事を言っても不思議に思う人はいないそうだ。
ギムレットって・・・
「俺は雪山で遭難事故に遭った時にこちらへ来たから、向こうでは行方不明か死亡となっているだろうが、トシキの身体やギムレットの心はどうなったのか・・・俺はそっちが気がかりなんだよ。」
なんか、ルーカスって心配性っぽい。
「それは、きっと大丈夫だと思うよ。
俺の場合は向こうの俺の体の中にアルフォンスが入っていて、上手くやっているみたいだから。」
「それじゃ入れ替わって無事なんだな?」
「何それ!見たい!!!」
ギムレットは妙に興奮し出した。
「いやいや、俺の身体は普通の日本人だから。
見てもつまらないよ。」
それでもギムレットは中身が王子さまな俺に会ってみたいと息巻いていた。
そしてギムレットから「俊樹には理解のある家族がいるから大丈夫。」と聞いたルーカスは少し安心した様だった。
「ところで、俺はどうしてここへ?」
そう切り出すと、ルーカスが理由を思い出して少し焦ったのが判った。
「そう、そうなんだ。
実はギムレットの足を見て欲しくて。」
「ギムレットは半年前に戦闘に巻き込まれて、大怪我をして歩けなくなったんだ。」
そう言うと、ギムレットが布団の中にあった足を見せてくれた。
力が入らない足は色が変わってだらんとしている。
「幸い感覚は全くないから、痛みも無いんだよ。」
「なるほど。」
試しに俺が治療魔法を掛けてみたところ、骨折が治って血行が良くなり、神経も繋がったみたいだった。
二人は凄い、聖女さまだ!と言って誉めてくれた。
特にルーカスは泣くほどだった。
「綺麗だ、こんなに綺麗な魔法は見た事がない。」
こんなに喜んでもらえるなんて、わざわざキルシュまで来たのがちょっと報われた気がする。
普通は一度でここまで治らないものらしい。
でも筋力が弱っているのは治らなくて歩く事が出来なかったから、明日からギムレットは俺と一緒にリハビリをする事にした。
「足が治ったらグーテベルクに帰っても良い?」
治療後にそんな事を聞いたら二人は顔を顰めた。
「ごめんね。ルーカスが君を連れて来たのは僕の為だったんだね。
でも、出来れば僕だけじゃなくて他の人も治して欲しい。
必ずグーテベルクに戻れるようにするから、お願いします。」
二人は俺に頭を下げた。
「僕ね、歩けるようになったら一緒にグーテベルクへ行ってベルンハルトに会いたいな!
ねぇ、ルーカス、もう悪い貴族は殆どいないし、キルシュ国内の統治に集中して、戦うのは止めようよ!」
「それは『神のお告げ』か?」
「そう思うなら。」
ルーカスは考え込んでしまったが、ギムレットは「僕が言った事から選ぶのはルーカスなんだ。
もうあのゲームとは進み方が変わっちゃってるなら僕もどうしたらいいか解らないんだけど。」と苦笑いしていた。
どうやらラクーンとの和平交渉が上手くいっていないらしい。
ラクーンは魔石鉱山を持っているので、資金があり、キルシュから逃げた不心得者が雇われはじめているそう。
中には戦いたいだけの者や、魔物を使役している者もいるらしく、平民ばかりのキルシュでは敵わない部分があるんだそうだ。
それに戦いを続けていたんじゃルーカスの方が圧制を敷く方になっちゃいそうだと、ギムレットは心配していた。
それから夕食の時間になってライムとエミルが様子を見に来るまで、ずーっとゲームの話に花を咲かせていた。
様子を見に来て、ギムレットの足が治っているのを見たライムは、それは喜んで俺に何度もお礼を言ってくれた。
ルーカスは恩人のライムとギムレットの喜ぶ事なら何でもしてあげたいんだって。
少しだけ教えてくれたけど、ギムレットはライムを庇って怪我をしたらしい。
ライムはずっと、それを気に病んでいて、いつの間にかライムとギムレットは余り話さなくなったそうだ。
「2人とももっと素直になれば良いのに。」
ルーカスはそう言っていた。
喜ぶ3人を見て、俺は彼らは本当に家族の様な関係なんだなと思った。
ギムレットが歩けるようになったら、俺は国へ帰れるかな。
それとも、この家族の一員になるのだろうか?俺はルネと家族になりたいんだけれど。
「アルフォンス、すまなかった。」
「何?突然。」
夕食を終えて部屋に戻る道すがら、ルーカスが突然そう言ってきた。
「君を私の我儘で住み慣れた国から離してしまった。
しかも強引に婚約と言う形を取って。」
「いつ帰らせてくれる?」
「直ぐにとは行かないが・・・だが出戻りになってしまうが構わないのか?」
「その方がプロポーズしてくる奴が減って良いかも。」
俺は本心で言ったのに、ルーカスの眉間の皺が深くなった。
******
このお話の前に簡単な人物紹介を投稿したので、誰が誰だかわからなくなったら見てみてください。
主に私が混乱し始めているのですが。
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