気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

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ワイバーン

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 それから毎日、ギムレットのリハビリに付き合ったり、城で治療や癒しをしたりして過ごした。
 グーテンベルクへは一度手紙を出したが、返事がないので届いたのか判らない。
 とにかく、ここでは外の事が全くわからないのだ。

「ルーカスとギムレットって仲が良いよね。」
 ある日のリハビリ後、ギムレットとのんびりしていた時、ふと聞いてみたくなった。
「そうかなぁ。
 まぁ、ルーカスが本音を相談できるのは僕だけだからね。
 でも今はアルフォンスにも相談できるんだ、ライバルが増えちゃったね。」
 ふふっとギムレットが笑った。

 季節はもう冬。
 この世界の四季は変化が少ないらしく、寒いところはずっと寒いし、暑いところはずっと暑い。
 かといって、南へ行けば暑い訳ではなく、その地に根付いている精霊の力に左右されるところが多い。
 だから北へ行っても火の精霊が住んでいれば、灼熱の暑さなんて事もあるのだ。
 因みこの辺りは風の精霊が住んでいて一年中薄ら寒く、北東の方は土の精霊のおかげで実りが多い。
 グーテベルクは水の精霊のお陰で一年中初夏のようだ。
 ラクーンは火と水の精霊がいるらしく、ヨーロッパのリゾート地っぽい。
 獣人の国は地と水の精霊が頑張っているらしく、木々が育ちすぎてジャングル状態だ。
 そして精霊の加護のない土地は荒野や痩せた土地になっていて人も殆ど住んでいない。

 話が逸れたが、春になれば俺の誕生日が来る。
 つまりルーカスと結婚する日が来るという事だ。
 結婚してしまったら離婚しなくちゃいけなくなって帰り辛くなってしまう。
 ギムレットも大分長く立っていられるようになったから、俺はそろそろ帰っても良いんじゃないかと思うし、実のところ俺は少し焦っていた。
 ギムレット以外、誰も婚約解消を受け入れてくれないのだ。

 議会が一度手に入れたを手放したくないのは解るけれど、最近はルーカスまで俺を引き止めようとする。
 帰らせてくれるんじゃなかったのかよ。

「アルフォンス、どうした?」
 ルーカスは暇さえあれば俺のところへやってくる。
 その度に撫でたり、抱きしめたり、額や頬にキスしてきたり。
 大事にしてくれているのは解るが、こういう事は俺がルネにしたい。
 今だって、後ろからぎゅうぎゅうに抱きしめられている。
「・・・グーテベルクに帰りたい。」
「すまないが、それはできなくなった。」
 振り向くと至近距離にあるルーカスの青灰色の瞳に俺が映っている。

「俺が君を離したくない。」
「止めてよ。」
 ルーカスの瞳が一瞬、悲しそうに伏せられた。
「結婚してくれないか?」
「ルーカス!」
 俺はそのまま近くのソファーに押し倒された。
「ちょっと!」
「俺がこの世界に来たのは俺がゲイだからだ。」
「何・・・」
「俺は自分がゲイである事に悩んでいたんだ。
 だから、そういった差別のない世界へ来れて幸せだ。
 俺はこの世界でパートナーを見つけたい。
 好きなんだ、君が。
 見た目も心も魔力さえも美しい君が。」

 そこで隙を突いて、俺は身体を回転させてルーカスの上に乗った。
「悪ぃ、俺突っ込む方なんだわ。」
「・・・俺もだ。」
「ごめん、この話は無かった事に。」
「解った、明日は必ず落とすから楽しみにしていて。」

 ルーカスにとても気に入られた俺は、こんな謎の攻防を何度となく続けている。
 ルーカスは楽しそうだけど、いい加減に諦めて欲しい。
 それに何故に皆、俺が下だと思っているのか。
 あ、でもルーカスがゲイだったって言うのは初めて聞いたな。
 今じゃ俺も似たようなもんだし、今さら驚きはしないけれど。
 少し前までは逃げ出そうと思っていたが、このキラキラ王子さまフェイスが目立ちすぎるし、何よりエミルを危険な目に遭わせたくない。
 はっきり言って詰んでいる。

 それに何度も治癒魔法を行使したので、それなりに有名になってしまった。
 今じゃ俺はなかなかの人気者だ。



 今日も請われたので、城の前庭に人を集めてまとめて治癒をかけた。
 ここには一人づつやったって追いつかないくらい怪我人がいるんだ。
「アルフォンス様、あと一回治療されたら終了です。」
「わかった。」
 患者の入れ替えを担当者に任せ、エミルに渡された飲み物を飲んで休んでいると、ローブを着た中年の男が一人で近付いて来るのが見えた。

「アルフォンス様に近付いてはいけませんよ。」
 エミルが素早く俺と男の間に入った。
「どうしてもアルフォンス様にお礼が言いたいのです。
 お願いします、お願いします、」
 男はエミルに注意されているが、なかなか引き下がらない。
 ついにエミルを押し退けようとしたので、側にいた護衛もそちらへ向かった。

 俺は一人になったが気にせずに、男が護衛に怒鳴っているのを見ていていた。
 男はだんだんヒートアップしてきて、こちらを見ながら護衛に掴みかかっている。
 と、突然背後から羽交い締めにされた。
「うわ!何?」
 俺は抵抗したが、身動きすら取れず、なんとか出した声で皆が気付いた。
「アルフォンス様!」
 エミルがこっちへ来ようとすると、俺を羽交い締めにした大男は俺の喉にナイフを突き付けて「王子を殺されたくなかったら動くな。」と大声で叫んだ。

 さっきまで騒いでいた男も護衛の隙を突いて、俺の隣へ並ぶ。
 二人は仲間だった。
 警備の薄さもあったけのかもしれないけれど、最後は俺が油断していたせいだ。
 恐怖で腕と足が震えて動けなくなっていると、エミルにいちゃもんを付けていた男が一歩前に出た。
 そしてヒュっと、男が口笛を吹くと、遠くに大きな影が現れた。

 徐々にその影が近付いて来る。
 そして砂埃を上げて目の前に降りたそれは、ワイバーンだった。
「すっげぇ、ワイバーンじゃない?これ。」
 俺は捕まっている事を忘れて、歓声をあげてしまった。
 だってワイバーンがいるなんて聞いてない。

「王子、今から乗せて差し上げますよ。」
 俺がつい感嘆の声を上げると、口笛を吹いた男はそう言ってワイバーンに跨がった。
 次に俺が無理矢理乗せられて、最後に大男が乗り込む。
 エミルが何か叫んでいたが、羽が風を切る音でよく聞こえない。
 結局、ワイバーンは俺たち三人を乗せて、余裕で空へ舞い上がった。


 空から下を見ると、誰も抵抗出来ずに呆然とこっちを見上げている。
 俺はどこへ連れて行かれるんだろう。
 思わず服の下にあるネックレスを握った。


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