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エミル4
しおりを挟むエミル
キルシュでの生活は大変暇である。
僕がいても大抵のことは、この城の侍女、侍従がやってしまう。
けれど、アルフォンス様の身の回りの事をするのは僕の役割なので譲れない。
それにアルフォンス様は直ぐに新しい物に興味を惹かれるので、それに付き合うのも僕の仕事だと思っている。
それなのに・・・
「見て見て、アルフォンス!
今日は5歩も歩けたよ。」
「凄いじやないか、偉いぞ!」
キルシュでアルフォンス様はこのギムレットと言う男と仲良くなったのだ。
とにかく話しが合うらしくて、こうやって歩く練習に付き合ったり、時には部屋でボードゲーム等をして遊んいる。
少し前までは僕の役割だったのに・・・くうぅ。
嫉妬などしていない。羨ましいだけ。
それにルーカス様に至っては、最初こそギムレットの為にアルフォンス様を呼ぶと言う高慢さだったくせに、最近はアルフォンス様の魅力の虜になった様だ。
解らなくは無いけどさ。
しかし、ルーカス様が何度結婚を申し込んでもアルフォンス様は受け入れなかった。
やっぱりシュミット様の方が良いのですね。
ブレませんね。
だって僕は知っている。
アルフォンス様は毎晩、シュミット様から頂いたネックレスを眺められている事を。
この間の満月の夜はネックレスの向こうに誰かいるかのように話しかけられていた事を。
皆の前では気丈に振舞われているのに、一人になると物思いに耽っていられる時間が多くなった事を。
そんなアルフォンス様を僕は守りたかったのに。
最近のアルフォンス様は教会からの要請で、週に1、2度だが民に治療魔法をかけるというお仕事をなさっている。
その日も教会から要請があって、早朝から城の前へ人を集めて治療魔法をかけていらっしゃった。
輝く光魔法を操られるアルフォンス様は本当にお美しいので、誰もが見惚れる。
治療魔法の効果の大きさと共に、美しいお姿も評判になり、毎回大勢の人が訪れるようになっていた。
そんな中、交代制の3回目の治療が終わった後にアルフォンス様と話したいと男が近付いてきた。
こういう人は結構いるので、僕はいつも通りにアルフォンス様から離れて、男の相手をする為に前に出てしまったのだ。
あの時、アルフォンス様のお側を離れなければ・・・!
男が暴れだしたので、僕と護衛は男に掛かりきりになってしまった。
その隙にアルフォンス様は男の仲間に捕らわれてしまい、男が呼び寄せたワイバーンに無理矢理に乗せられてしまったのだ。
「アルフォンス様を連れて行かないで!」
僕は一瞬、混乱したが、直ぐにある事を思い出した。
「壁の人、いるんでしょ?アルフォンス様を助けて!」
僕は思い切り叫んだ。
「ふざけんなよ!何攫われてるんだよ!」
思った通り、近くの壁からドリス妃の手下が現れた。
周りの人が驚いて「ひぃ!」とか「うわぁ!」とか言ってるけれど気にしない。
「お前から特別手当て貰うからな!」
彼は一瞬身体を現し、ワイバーンの方へ駆けて行きながら僕に文句を言うと、また姿が見えなくなった。
そしてワイバーンに乗ってはるか上空へと連れて行かれるアルフォンス様を、何も出来ない僕は見守るしかなかった。
城へ戻ると、騒ぎを聞きつけたルーカス様がやってきたところだった。
報告を聞いたルーカス様は直ちに捜索隊を組み、空を探索する鳥の魔道具を飛ばした。
そして今日の仕事を全て中止にし、ライム様に後を任せて自分も捜索隊に加わった。
その日はアルフォンス様を見つける事が出来なかったと、深夜に戻って来たルーカス様が報告してくれた。
早朝、件のワイバーンらしき生物がラクーン国内へ入ったと連絡があり、ルーカス様は再び捜索に出る事になったので、僕はその前に面会を申し出た。
「ルーカス様、僕はグーテベルクへ戻ってこの事を報告したいと思います。
ラクーンが関わっているなら、グーテベルクにも協力を仰いだ方が良いと思うのです。
差し出がましいのですが、どうぞお許しを。」
「ああ、こちらとしてもお願いしたいと思っていたのだ。
今回の事は私の責任だよ。本当にすまない。
もう少し状況が判り次第グーテベルクには私からも連絡を入れるが、今は全力でアルフォンスを取り戻すと伝えて欲しい。」
「はい。」
ついでにアルフォンス様が前にラクーンの第二王子に攫われそうになった話を簡単に伝えたら「これが第二王子の仕業だったら、ラクーンは滅ぼす。」とか、とても物騒な事を言っていた。
僕はライム様にも了承を得て連絡用の鳥をグーテベルクへ飛ばし、お互いに情報交換をし合うと約束をし、護衛を一人付けてもらって馬車へ飛び乗った。
港まで行き、ライム様に紹介してもらった貨物船に乗る。
そこでやっと一息吐いて、一緒に来てくれた若い護衛の話を聞く事ができた。
藁のような色の短髪に赤土色の瞳で、痩せてひょろりと背が高い彼の名前はデニスと言い、まだ若いが副兵士長なのだそうだ。
彼はキルシュの連合国に参加しているゴートと言う穀倉地帯の国の出身で、船に乗るのは初めてだと言った。
案の定、船酔いに苦しんでいたが、グーテベルクに着いて地上に下りたらケロリとしていたので心配はないだろう。
それからグーテベルクの港にある兵士の詰め所へ行き、事情を話して馬を貸してもらった。
デニスと一緒に馬へ乗り、途中途中の兵士の詰め所で馬を乗り換えながら、僕らは昼夜問わず駆けた結果、5日でグーテベルク城へ着く事ができたのだった。
戻って直ぐに城でこの事を報告すると、皆が大混乱に陥った。
中には何故かキルシュを糾弾したり、直ぐにラクーンを攻撃せよと言う者もいたが、王は冷静だった。
王はキルシュとグーテベルクはお互いに手を組んで、冷静に事にあたれと命令なさった。
そういえば今日は王の補佐には王子二人が付いていたが、シュミット様のお姿は見えなかったな。
近くにいる者を呼び止め、シュミット様の事を聞いてみたところ、アルフォンス様がキルシュへ出発された後、全ての仕事の区切りを付けて休職されたらしく、現在は行方が知れなくなっているそうだ。
そして子供が生まれたエリーゼが、近々生まれてくる第一王子の子供の教育係になる事が決まった事も教えてくれた。
他にもイーヴォが国の要職に就いていたり、ベルンハルトがエーレンフリート様の部下になっていたりとキルシュに行く前とは色々と変わっていた。
こっちも大変そうだな。と思いながら王とディートフリート様に事情を話して、僕はキルシュへと連絡用の鳥を飛ばしたのだった。
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