25 / 41
エミル4
しおりを挟むエミル
キルシュでの生活は大変暇である。
僕がいても大抵のことは、この城の侍女、侍従がやってしまう。
けれど、アルフォンス様の身の回りの事をするのは僕の役割なので譲れない。
それにアルフォンス様は直ぐに新しい物に興味を惹かれるので、それに付き合うのも僕の仕事だと思っている。
それなのに・・・
「見て見て、アルフォンス!
今日は5歩も歩けたよ。」
「凄いじやないか、偉いぞ!」
キルシュでアルフォンス様はこのギムレットと言う男と仲良くなったのだ。
とにかく話しが合うらしくて、こうやって歩く練習に付き合ったり、時には部屋でボードゲーム等をして遊んいる。
少し前までは僕の役割だったのに・・・くうぅ。
嫉妬などしていない。羨ましいだけ。
それにルーカス様に至っては、最初こそギムレットの為にアルフォンス様を呼ぶと言う高慢さだったくせに、最近はアルフォンス様の魅力の虜になった様だ。
解らなくは無いけどさ。
しかし、ルーカス様が何度結婚を申し込んでもアルフォンス様は受け入れなかった。
やっぱりシュミット様の方が良いのですね。
ブレませんね。
だって僕は知っている。
アルフォンス様は毎晩、シュミット様から頂いたネックレスを眺められている事を。
この間の満月の夜はネックレスの向こうに誰かいるかのように話しかけられていた事を。
皆の前では気丈に振舞われているのに、一人になると物思いに耽っていられる時間が多くなった事を。
そんなアルフォンス様を僕は守りたかったのに。
最近のアルフォンス様は教会からの要請で、週に1、2度だが民に治療魔法をかけるというお仕事をなさっている。
その日も教会から要請があって、早朝から城の前へ人を集めて治療魔法をかけていらっしゃった。
輝く光魔法を操られるアルフォンス様は本当にお美しいので、誰もが見惚れる。
治療魔法の効果の大きさと共に、美しいお姿も評判になり、毎回大勢の人が訪れるようになっていた。
そんな中、交代制の3回目の治療が終わった後にアルフォンス様と話したいと男が近付いてきた。
こういう人は結構いるので、僕はいつも通りにアルフォンス様から離れて、男の相手をする為に前に出てしまったのだ。
あの時、アルフォンス様のお側を離れなければ・・・!
男が暴れだしたので、僕と護衛は男に掛かりきりになってしまった。
その隙にアルフォンス様は男の仲間に捕らわれてしまい、男が呼び寄せたワイバーンに無理矢理に乗せられてしまったのだ。
「アルフォンス様を連れて行かないで!」
僕は一瞬、混乱したが、直ぐにある事を思い出した。
「壁の人、いるんでしょ?アルフォンス様を助けて!」
僕は思い切り叫んだ。
「ふざけんなよ!何攫われてるんだよ!」
思った通り、近くの壁からドリス妃の手下が現れた。
周りの人が驚いて「ひぃ!」とか「うわぁ!」とか言ってるけれど気にしない。
「お前から特別手当て貰うからな!」
彼は一瞬身体を現し、ワイバーンの方へ駆けて行きながら僕に文句を言うと、また姿が見えなくなった。
そしてワイバーンに乗ってはるか上空へと連れて行かれるアルフォンス様を、何も出来ない僕は見守るしかなかった。
城へ戻ると、騒ぎを聞きつけたルーカス様がやってきたところだった。
報告を聞いたルーカス様は直ちに捜索隊を組み、空を探索する鳥の魔道具を飛ばした。
そして今日の仕事を全て中止にし、ライム様に後を任せて自分も捜索隊に加わった。
その日はアルフォンス様を見つける事が出来なかったと、深夜に戻って来たルーカス様が報告してくれた。
早朝、件のワイバーンらしき生物がラクーン国内へ入ったと連絡があり、ルーカス様は再び捜索に出る事になったので、僕はその前に面会を申し出た。
「ルーカス様、僕はグーテベルクへ戻ってこの事を報告したいと思います。
ラクーンが関わっているなら、グーテベルクにも協力を仰いだ方が良いと思うのです。
差し出がましいのですが、どうぞお許しを。」
「ああ、こちらとしてもお願いしたいと思っていたのだ。
今回の事は私の責任だよ。本当にすまない。
もう少し状況が判り次第グーテベルクには私からも連絡を入れるが、今は全力でアルフォンスを取り戻すと伝えて欲しい。」
「はい。」
ついでにアルフォンス様が前にラクーンの第二王子に攫われそうになった話を簡単に伝えたら「これが第二王子の仕業だったら、ラクーンは滅ぼす。」とか、とても物騒な事を言っていた。
僕はライム様にも了承を得て連絡用の鳥をグーテベルクへ飛ばし、お互いに情報交換をし合うと約束をし、護衛を一人付けてもらって馬車へ飛び乗った。
港まで行き、ライム様に紹介してもらった貨物船に乗る。
そこでやっと一息吐いて、一緒に来てくれた若い護衛の話を聞く事ができた。
藁のような色の短髪に赤土色の瞳で、痩せてひょろりと背が高い彼の名前はデニスと言い、まだ若いが副兵士長なのだそうだ。
彼はキルシュの連合国に参加しているゴートと言う穀倉地帯の国の出身で、船に乗るのは初めてだと言った。
案の定、船酔いに苦しんでいたが、グーテベルクに着いて地上に下りたらケロリとしていたので心配はないだろう。
それからグーテベルクの港にある兵士の詰め所へ行き、事情を話して馬を貸してもらった。
デニスと一緒に馬へ乗り、途中途中の兵士の詰め所で馬を乗り換えながら、僕らは昼夜問わず駆けた結果、5日でグーテベルク城へ着く事ができたのだった。
戻って直ぐに城でこの事を報告すると、皆が大混乱に陥った。
中には何故かキルシュを糾弾したり、直ぐにラクーンを攻撃せよと言う者もいたが、王は冷静だった。
王はキルシュとグーテベルクはお互いに手を組んで、冷静に事にあたれと命令なさった。
そういえば今日は王の補佐には王子二人が付いていたが、シュミット様のお姿は見えなかったな。
近くにいる者を呼び止め、シュミット様の事を聞いてみたところ、アルフォンス様がキルシュへ出発された後、全ての仕事の区切りを付けて休職されたらしく、現在は行方が知れなくなっているそうだ。
そして子供が生まれたエリーゼが、近々生まれてくる第一王子の子供の教育係になる事が決まった事も教えてくれた。
他にもイーヴォが国の要職に就いていたり、ベルンハルトがエーレンフリート様の部下になっていたりとキルシュに行く前とは色々と変わっていた。
こっちも大変そうだな。と思いながら王とディートフリート様に事情を話して、僕はキルシュへと連絡用の鳥を飛ばしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
身代わりの出来損ない令息ですが冷酷無比な次期公爵閣下に「離さない」と極上の愛で溶かされています~今更戻ってこいと言われてももう遅いです〜
たら昆布
BL
冷酷無比な死神公爵 × 虐げられた身代わり令息
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる