気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

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ラクーン

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 俺は今、前にワイバーンを呼んだ男、後ろに大男に挟まれてワイバーンに乗せられている。
 後ろの大男がやたらと俺の肌に触ってきて気持ち悪・・・
「うーん、流石は王子さまだな。
 肌がすべすべで、良い匂いがするなぁ。」
「リック、王子は献上品なんだから、傷一つ付けたらいけねぇ。」
「わかってるよ!ダニーはいちいち煩いな。」
 前の男ダニーに宥められた大男リックは、それでも俺を触るのを止めない。
 こんな状況じゃなかったら、初ワイバーンを堪能できたのに。
 俺は胸のネックレスを握り締めた。
「おやぁ?あんた良いネックレスしてるな。
 それ、俺にくれよ。」
「だ、だめ!」
 断ったのに、リックはネックレスを外しにかかった。
「リーック、王子の持ち物なんか持ってたら、足が付いて捕まるぞ。」
「そっか。」
 ダニーはバカではないらしい。おかげでリックは諦めてくれたようだ。
 その後もリックにあれやこれやとセクハラしまくられて、夕方近くなってから地上へ下りる事ができた。

 俺の頭の中の地図が間違えていなければ、ここはラクーンの西部だ。
 この海に程近い、お金持ちの高級リゾート感たっぷりの屋敷はラクーン特有の物だと思うし。
 俺はダニーとリックに両腕を拘束されて、ワイバーンが降り立った広い庭から屋敷の前へと連れて行かれた。
 そこには首輪を嵌めた男が一人立っていて、男達にお金を渡すと俺に腕輪を嵌めてきた。
「この屋敷にはその腕輪がないと入れないのです。」
 首輪の男はそう言って俺を屋敷の中へ入れた。


 屋敷の中庭には、こちらでは始めて見るプールやジャグジーみたいな物があるのが見えた。
 時々すれ違う首輪を付けた人は奴隷だろうか?俺を案内するこの男も付けている。
 奴隷制はグーテベルクやキルシュでは廃止されているけれど、ここラクーンではまだ現役の制度だ。

 長い廊下を進んで、突き当たりのドアを潜ると、応接室らしい豪華な部屋だった。
 そこには緩いウェーブの燻んだ金髪を顎のところで切りそろえ、短い顎髭を生やした30歳くらいの男が座っている。
「やっと会えたね、アルフォンス王子。」

 その声音にぞくっと背筋に冷たいものが走る。
 随分前のアルフォンスの記憶の中に彼はいた。


 フロレンツ・ウィル・ラクーン 32歳
 ラクーン第二王子


「俺の事、忘れちゃった?
 薄情だなぁ、でも思い出させてあげる。」
 フロレンツは榛色の三白眼をこちらへ向けた。
「あ・・・」

 実はアルフォンスの記憶の中にはどうしても見る事のできない黒いもやもやした部分があったのだ。
 そこが、今、頭で鮮明に再生された。

『止めて!お願い!』
『可愛いねぇ。俺の物にしてあげるよ。
 先ずは俺の事を忘れない様に身体に刻み付けてあげる。』


「キモ・・・」
 記憶の中では、11、2歳の頃のアルフォンスがフロレンツに襲われそうになっていた。
 暗い部屋に閉じ込められて、体を撫で回されて、助けて欲しいと泣き叫んでいる。
 ギリギリ犯されないところでやって来て、助けてくれたのは母上ドリス妃だった。
 彼女はアルフォンスの為に大事にならない様、内密にフロレンツを処罰したようだ。


 だから、母上はいつも俺に監視を付けていたのか。
 母上がアルフォンスが一人にならない様にしていたのも、こいつのせいだったんだ。
 エミルとベルンハルトが付かず離れず傍にいるように指示されていたのもそうか。
 どうやら思った以上にアルフォンスは守られていたらしかった。

 今まで記憶が見えなかったのは、アルフォンスが恐怖の余りに記憶を封印していたからだろうか。
 俺は初めてアルフォンスに同情した。
 もしかしたら、攻撃魔法に固執していたのはこのせいかもしれないな。

「お前、気持ち悪いんだよ。」
「そんな事言って、今お前の事を好き勝手にできるのは俺なんだよ。
 ちょっとは良いイメージを持ってもらった方が、酷い事されないと思うんだけどなぁ。」
 ニヤリと嫌らしい笑いを浮かべてフロレンツが近寄って来た。
 それがさっき見たアルフォンスの記憶と重なって気分が悪くなる。
「クソが」
「あらら、暫く会わないうちに下品になったもんだ。
 まぁ、無理矢理やって顔にでも傷が付いたら楽しめないから、ゆっくり馴らしていくよ。」
 そう言うとフロレンツは俺の腕を引っ張って奥の部屋へ連れて行った。

 部屋には三人の少年がいた。
 皆、アルフォンスに似た金髪碧眼の美少年で、子供の頃のアルフォンスみたいに髪を長く伸ばして、一つに結んでいる。
 その首にはやっぱり首輪が嵌まっていた。
「左からリオン、ルディ、ラースだ。
 身の回りの事は彼等に頼め。」
 すると三人は良く躾けられているらしく、綺麗に正式な礼をした。
「湯浴みをして着替えてされろ。
 出来たら食堂へ連れて来い。」
「わかりました。」
 三人は同時に返事をすると、直ぐにてきぱきと動き出した。
「じゃあアルフォンス、待っているからな。」
 そう言ってフロレンツはウィンクすると、部屋を後にする。

 暫くするとお風呂に案内され、リオンとラースに世話を焼かれながら湯船に浸かった。
 ラースが教えてくれたのだが、観光業が盛んなラクーンでは、貴族はお風呂に入るそうだ。
 いつもの俺だったら喜ぶが、今はそんな気分じゃなかった。

 ルディが出してくれたブラウスにはヒラヒラとしたフリルがたっぷり付いていて、フロレンツの趣味が悪い事が判った。

 リオンに聞いたらところ全員12歳で、雑用以外にもフロレンツに色々とセクハラまがいの事をされているみたいだ。
 あいつ最低だな。

 あまり話したがらない三人に、根気良く事情を聞きだしながら身支度が終わると、次はフロレンツの待つ食堂へと連れて行かれた。



*******

明日から朝10時と夜22時の二回更新します。
宜しくお願い致します。
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