お兄様ヤンデレ化計画。~妹君はバッドエンドをお望みです~

瑞希ちこ

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初めて見た

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 ドSに豹変したエクトル様に提案という名の脅しを受け、頭が混乱してるままお兄様に引き渡され……。
 そして今、お兄様にこれでもかというほど抱き締められながら、私は心臓をバクバクいわせていた。ときめきや緊張ではない。まずい、という焦りからだ。

 ――お兄様に、私がヤンデレフェチなことがバレている。

 だって〝普通の愛じゃ満足できない、歪んだもの同士〟と言ったもの。この世界でヤンデレという単語が通じるかわからないけど……。ていうかお兄様、自分と同じって言わなかった? お兄様もずっとヤンデレだったということ!? 
 感情が忙しい。エクトル様のキャラ変の余韻を残させないように、怒涛にお兄様が責め立ててくる。お願い、一度私に頭の中を整理する時間をください。

「……もう全部言うけど、俺がネリーと婚約したのは、ミレイユに嫉妬してほしかったからなんだ」
「……私に?」

 初めて聞く、お兄様の婚約の理由。

「嫉妬するミレイユの顔を見たくて、嫉妬したミレイユの頭の中が、もっと俺でいっぱいになってほしくて、俺を奪い返すために、何をしてくれるか期待して……まだ見たことのないミレイユを見たかった。それだけだ。だから君がネリーに嫉妬してたとき、俺はすごくうれしかったよ。かわいそうだと思いながら、俺の心は満たされていた。……ただ、エクトル王子と婚約するなんて思いもしなかった。正直焦ったけど、ミレイユも俺を嫉妬させたかっただけなんだよな? だって俺をずっと受け入れてたし、そうじゃなきゃ花をめちゃくちゃにしたのが俺ってわかって喜ぶなんて、どう考えても異常だろ?」

 お兄様……そんな理由でネリーと婚約を決めたの?
 じゃあお兄様は、ネリーと婚約する前も後も、ずっと私のことを……。
 
 私がエクトル様と婚約したのは、お兄様に嫉妬してほしかったからではない。あのとき私はお兄様がなにを考えてるかわからなかったし、本当にネリーを愛すると決めたんだと思っていた。だから、お兄様を忘れるための婚約だった。エクトル様の手を取って、幸せになろうと。ただ、そこに少なからず仕返ししたいという気持ちがあったのは否めない。

 花のことは……まさか見られていたなんて……。部屋が暗いから油断していた。異常だと自覚はある。確かにあの瞬間、ぞわっとして気分が高揚した。そんな自分が嫌になりそうだった。
 
「こんなこと言ったら君に嫌われちゃうかと思ったけど、その心配はなさそうだったから。もう俺たちに怖いものも、邪魔するものもない。ねぇ、俺たち一緒になろう」
「一緒って……」
「わかってるだろ? 俺はずっと、ずっとミレイユのことが好きだよ。妹なんて思ったことない。ひとりの女性として、君のことを愛してる」
「……! お兄様……」

 今までも〝好きだよ〟と何気なく言われたことはあった。
 でもこうやってきちんとお兄様に告白されたのは初めてのことだ。

 ――ずっと、両想いだったんだ。だったら、余計なことをせず、ネリーと婚約する前にそのまま伝えてくれたらよかったのに。そうすれば、私たちはこんなことにならなかった。誰も巻き込まず、悲しませず、ゲームのシナリオ通りふたりの世界に行くことができたのに。

「俺はネリーとさっき婚約破棄をしてきた。ミレイユは、エクトル王子とどうなったんだ?」

 お兄様、本当に婚約破棄してきたのか。

「……私は、してないわ」
「! どうして!? なんでしないんだ!?」

 お兄様は私の体を自分のほうに向かせ、両肩を掴んで壁に押し付ける。私に逃げ場を与えないように。

「わからない。私……どうしたらいいかわからない」
「エクトル王子になにを吹き込まれた。なにされたんだ。ミレイユの様子がおかしいとは思ってた」
「昨夜お兄様と一緒にいたのがバレて、それで」
「そんなの、この首の傷を見たらわかる」
「……エクトル様が急にドSになって、今までと全然ちがうから、そんな一面にびっくりしちゃって……もう私、わけがわからないの!」
「ああ。ミレイユってドМだもんな。だから喜んで体を熱くさせてたのか。普段優しい奴のギャップに一時的にやられてるだけだ。本物には勝てない」

 なんの本物だ。私自身がわけわからないことを言っているのにも関わらず、お兄様は気にも留めずあっさりと返事をしてくる。エクトル様はあんなに眉をひそめていたのに。
 同じ人間同士、話はすぐ通じるということなのか。

「ミレイユは、今すぐ俺を選ぶことができないのか?」

 なにも言わない私を見て、お兄様は図星と捉えたのだろう。

「だったら、よりミレイユを愛してる方を選べばいいだけだ。ミレイユが俺と同じなら、愛が重ければ重いほどうれしくて満たされるはずだ。――わからせてやる。ミレイユには俺しかいないってこと」
「で、でも、私がお兄様と一緒にいるとオベール家が――あっ」

 しまったと思い、私は自分の手で口を塞ぐ。だが、お兄様はこの言葉だけで大体のことを察したようだ。

「――エクトル王子、家のことで脅しでもかけたのか。どうせ公爵家を潰すとかなんとか言われたんだろ。優しい顔をして、なかなかなことをするな。 でも俺はそんな脅しに屈しない。家がどうなっても、ミレイユが俺のそばを離れるなら死んだほうがましだ」
「だめ! オベール家は私を引き取ってくれて大切に育ててくれた。恩を仇で返すようなこと、私は絶対したくないの……!」
「じゃあ、家のことを言い訳に俺を見捨てるつもりなのか」
「……別に、そういうわけじゃ……だから言ってるじゃない。わからないの。どうしたらいいか、私だって」
「俺はミレイユがすべてなんだよ! 君は俺の世界の、すべてなんだ……」

 お兄様、どうしてそんなに泣きそうな顔をするの。
 いつも余裕があって、私の一歩先を行く。お兄様はいつだって、そういう人だったのに。

 エクトル様に私を奪われることを恐れているのか。こんない切羽詰まったお兄様を私は初めて見る。
 
「……エクトル王子を呼ぼう」
「え?」
「俺との覚悟の差を見せつけてやる」

 お兄様はそう言って、震える手で私をまた強く抱き締めた。この震えの正体はなんなのか。いつもより弱々しいお兄様に、私はただ、抱き締められることしかできなかった。

 ――もう限界だ。お兄様も、エクトル様も。
 私も、覚悟を決めなければならない。
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