金継ぎ

有田 シア

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運命共同体 ー香奈恵ー

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佳奈恵はただ祈った。
今、自分にできることはそれしかない。
自分の人生の全ての運を使っていいから、里奈を助けてください。神さま。
香里奈は今まで考えたこともない神の存在に全てを任せるように祈った。
祈り終わると出来ることがなくなり何かが壊れたように泣き出した。

気がつくと右手首に包帯をした弁二が横に座っていた。
「ただの骨折だ」
弁二はただそこにいた。 
慰めることも、責めることも、悲観的になることも、無理に前向きなことを言うこともなく。
その絶対的な存在が悪夢のような非現実な中で佳奈恵を繋ぎとめていた。

「里奈ちゃん意識戻りました。」
佳奈恵は看護師のその声に命をもう一度与えられたような明るさを感じた。
弁二と佳奈恵は早足で里奈のいる部屋に向かった。
里奈は目を開けているが、顔がむくんで赤い斑点ができていて、違う子供のようだった。弱々しく子犬みたいな声で何かを言っている。
弁二は里奈の顔を見てすぐ担当の医者はどこだと看護婦を追いかけて行った。
佳奈恵の母なら父とこう言う時、手を取り見つめ合うとか、ああーよかったと大袈裟に抱きしめるとかするかもしれない。
弁二と佳奈恵にはそのような感情の確認は必要なかった。
佳奈恵は里奈の小さい手を握って
「大丈夫、大丈夫、大丈夫。。。」
おまじないのように言い続けた。


検査の結果、里奈はピーナッツアレルギーだったことがわかった。
弁二は全治2ヶ月の右手首の骨折だった。

「しばらく包丁持てませんね。あ、でもこの機会に左手でなんでもやってみるのもいいですよ。脳の活性化にいいんですよ。」
若い看護婦が年寄りに喋りかけるみたいに弁二にそう言っていた。弁二はきっとイラッとしているに違いないと香奈恵は思った。
「じゃあもう里奈のところ、戻りますんで。」
香奈恵はまだ脳の活性化について喋り続ける若い看護師の話を遮った。

香里奈は若い看護婦に愛想笑いしてから弁二と歩き出した。

突然、廊下の向こう側から
「お父さんー」
と言いながら3、4歳くらいの男の子が走ってきた。

「お父さんどこいっちゃったのかな。」
迷子の子かと思い、香奈恵はその子に話しかけた。
「たくみ!待ちなさい!」
その時、向こうから包帯だらけで松葉杖をついた女の人がゆっくり歩いてきた。
「すみません。」
女の人は香奈恵にそう言ってから子どもをギュッと抱きしめた。
「お父さんはー?お父さんはー?」
男の子はそれを繰り返している。
「お父さんはねー、もういないからねーわかった?!」
その子のお母さんらしいその人は男の子の目をしっかり見て、叱るように言った。
『でも、お父さんと一緒にレゴランド行くって約束したもん!」
男の子は怒りながら泣き出した。
次の瞬間、お母さんも崩れるように倒れ込み泣き出した。
「大丈夫ですか?」
香奈恵は急に泣きじゃくるその女の人を前にオロオロしていた。
二人の泣き声が悲鳴のように静かな廊下に響き渡る。

香奈恵が助けを求めようと周りを見回すと、さっきの若い看護婦がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

若い看護婦は何も言わずにお母さんの背中をさすった。
「たっくん、またお姉ちゃんとさっきのおもちゃで遊ぼうか。」
若い看護婦は、もう大丈夫ですよ、と香奈恵に目で言った。

香奈恵は胸が締め付けられるような思いでその場を後にした。


香奈恵と弁二は里奈がいる4人部屋に戻り、里奈のベットの横にある椅子に座った。
「お店しばらく締めるね」
佳奈恵は眠る里奈の髪を撫でながら弁二に言った。
「里奈が落ち着いたらまた店開けるぞ。海斗に任せるから。出来るメニューだけでやれるだろ。」
弁二は弱々しくそう言った。
右手にに包帯をしているだけなのに一瞬、弁二が病人のように見えて、香奈恵は言葉を失った。
手首の骨折と里奈のことでは弁二の心が
弱ってるに違いない。

「あいつの考えたメニューもやってみてもいいぞ」
佳奈恵以外は誰も聞き取れないだろう早口で、絞り出すように弁二は言った。
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