普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

6.運命的な出会い

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「私、星歌。あなたうちの子になる?」
「チュピ!!」

 私の問いにまるで“良いよ”と言っているのか元気よく頷く。

「は、飼うって言っても、こいつ明らかに地球外生命体だろう?」

 暴走する私をつよしは圧倒されながらも、冷静に正論を言って私のブレーキを掛ける。

 言われて見れば確かにこの子は地球外生命体だとは思うけれど、ひょっとしたら妖怪が実在するか宇宙人かも知れない。

 …………。
 …………。

「……トゥーランの生き物?」
「あ、きっとそれだな。だとしたら黒崎のペッ……相棒じゃぇねぇの?」
「え、黒崎の……?」

 フッと頭の中に過ぎった憶測を独り言のように呟くと、つよしもそれには同意して新たなる憶測を建てる。
 言われてハッとして辺りを見回せば、この場所は今朝黒崎に襲われた場所だった。

  だとすると太の憶測は正しくてこの子は黒崎の……。

 
「あ、黒崎?」
「え……?」
「チュピ?」

 心の整理が終わる前に太の口から聞きたくない名前を聞くことになり、条件反射のように顔を上げれば黒崎が私達を信じられないと言う様子で見つめていた。
 この子は黒崎をちらりと見るだけで、すぐ私を見上げ不思議そうに首を傾げる。

「黒崎、ちょうどよかった。こいつはお前の相棒か?」

 私を護るように太は私の前に立ち、でも黒崎にはフレンドリーに話しかける。ここは私が話すより太に任せた方が良い。

「……お前はその女のなんだ?」
「オレは星歌の親しいダチだ。お前のことは星歌から聞いているから、本当のことを話しても大丈夫だ」

 太の問いには答えずこれ以上にもなく警戒する黒崎に、なんの迷いもなく太の方から歩み寄ろうとする。
 ごもっと過ぎる答えなのに、ほんの少しだけガッカリして肩を落とす。

 親しいダチ……か。
 それはそうなんだけれどもっと気の利いた……私は太に何を求めているのだろう?
 ……彼氏だって言って欲しかった?
 そこまで私の心は図々しいの?

「……チョピと言うトゥーランの聖霊だと思う。自分は姫様に卵を授かったのだが、学校で消えていることに気づいた。トゥーランを平和に導ける者に出会えた時、孵化しその者に懐くと聞かされている」

 ここでようやくちゃんとした答えが返ってくる。
 
 チョピはそんな大切な使命を持った精霊で、黒崎の口ぶりだとどうやら産まれたばかりらしい。
 だとしたら今朝産まれてけれど、その人を見失ってここで彷徨っていた。
 
「だったら星歌が?」
「え、それはないでしょ? 可能性があるとしたらパパと龍くんじゃないの?」

 私の予想と違いまさかの私発言に、キョトンとしてしまい全否定で私の予想を言い返す。

 なんで私がトゥーランの救世主になるの?
  私なんかよりも、パパと龍くんの方がよっぽど適任だ。

「確かに師匠とおっさんならトゥーランの英雄だからありえるな。でも星歌が絡まない限り英雄には復帰しないだろう?」
「それもそうだね。 黒崎、悪いけど別の人を当たってくれる。……バイバイ」

 つよしの考えもごもっとも過ぎて黒崎にチョピを返し、笑顔を無理矢理作って別れを告げる。

 チョピとの別れは辛いけれど、こればかりは仕方がない。
 パパを裏切ったトゥーランを護る義務はもうないだろうし、お人好しのパパであっても怒って断るに決まっている。
 それに龍くんだって、正義の味方になるのを否定している。

「チュ、チューピ」

 元気いっぱいだったチョピの鳴き声は悲しげな鳴き声に変わり、黒崎から逃げだし私の頭上に飛び移る。

「星歌、すげぇ懐かれてるじゃん」
「え、え? でも私は……」

 そんな姿を見てつよしは笑いながら言うけれど、なんて答えて良いのか分からず言葉をなくす。

 そりゃぁ懐かれるのはすごく嬉しいけれど、それってつまり私がトゥーランの救世主だって意味なんだよね?
 いきなり救世主だって言われても困る。
 それに……。

 この状況を黒崎はどう思っているんだろうと思い恐る恐る黒崎に視線を戻せば、表情は固まって呆然と私を見つめている。

「……信じられない……」

 と言われてしまう。

 そりゃぁそうだよね?
 私はあなたが嫌う魔族で、ましては魔王の孫娘。
 そんな子が救世主に選ばれたって迷惑でしかない。
 私だって私を嫌っている人達のために、命をかける救世主なんてなりたくない。

「うん、そうだよね。でも安心して私トゥーランの救世主になんかならないから」
「え、星歌?」
「チュ、チューピ!!」

 そう思ったらやたらにむかついて強い口調で断り再び黒崎にチョピを返し、私は太の手を掴み無我夢中で我が家まで走る。
 それなのにチョピは私達を追いかけているようで、必死になって呼び止めようと鳴き続けていた。




「どうすんだこいつ?」
「どうしよう?」

 結局我が家までついてきてしまったチョピをどうするか、私とつよしは困りながらこれからを相談する。

 無視をして家に入るのが一番の解決策かも知れないけれど、そしたらチョピはずーと玄関の前で鳴いているかも知れない。
 黒崎の言うことを聞かないだろうから、そんなことをされ続けたらご近所迷惑。そしてやっぱりパパと龍くんに見つかってしまう。

 ……あれ、これは何をしても最後は同じ?

「パパに正直に話すしかないね?」
「それが一番良いだろうな」

 ため息交じりの万丈一致で、門扉に悲しげにショボンとしているチョピを抱き上げる。
 
「チュピ」

 無邪気に笑い尻尾を私の手に絡め、愛らしく鳴く。

 これはチョピの愛情表現なんだろうか?
  黒崎は大嫌いだけれど、チョピは好きだな。

「さっきは冷たくしてごめんね。私は救世主にはならないけど、これから仲良くしようね」
「チュピン」

 私の言っていることを理解したのかしてないのか分からないけれど、チョピは“分かったよ”と頷いているようだった。

「星歌は、やっぱり笑顔が一番似合うよな?」
「え、いきなり何?」
「ただそう思っただけ。早く中に入ろうぜ?」
「うん、そうだね」

 たまにつよしは突然おかしなことを素で言い私の心をもてあそび、そしてすぐに何事もなく先に話を進進ませる。
 だから私は必死に高鳴る鼓動と緩みそうな表情を堪え、何こともないかのように家の鍵を出し鍵を開け扉を開けた。

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