普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?

54.過保護な父親達

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「分かった。星歌がそこまで言うのなら、強化合宿をしよう。ただし二ヶ月だ」
「ありがとうパパ」

 強化合宿に反対するパパを根気よく説得すること三十分。

 ようやく頷いて許可が降りるけれど、表情は思わしくなく声のトーンはやたら高い。周囲の空気もピリピリしていて、気を抜いたらどんでん返しされそう。

「星ちゃん、よかったね。私も一緒に強化合宿頑張る」
「うん。付き合ってくれてありがとう陽」

 パパとは違って強化合宿の経緯を軽く話しただけで賛成してくれた陽は、自分のことのように喜んでくれ私の両手を握り自分も頑張ると言ってくれる。

「二人とも、セイヤの指導は厳しくて鬼講師って言われていたから覚悟しときなさいよ」
「分かってます」
「同じく」

 ヨハンさんに釘を刺され、私達は気を引き締め返事をする。

 パパの厳しい指導なんてまったくと言っていいほど想像がつかない。
 でも厳しくないと修行の意味がないから、それなりには覚悟している。
 パパが厳しい鬼講師になっても、泣き言なんて辞めたいなんて絶対に言わない。

「確かに星夜は鬼と言われていたが、星歌には無理だろうな?」
「当たり前だ。そもそも俺は戦闘の専門だから、星歌と陽ちゃんに教えることはない」
「あら、護衛術ぐらいは教えられるでしょ? 特にセイカちゃんはそれなりに才能があるんだから」
「………。そうだな。簡単な護衛術は教える。星歌にはそのうち強化合宿を用意する。後は龍ノ介とヨハンに任せていいか? 俺は主につよしくんを徹底的に鍛え上げるから」

 ヨハンさんに言い負かされたパパは不満を持ちつつ、少しの沈黙後それで話をまとめようとする。

 結局つよしの熱意に負けてしまったパパは、レジストに向かう前に三日間の強化合宿してその後はリュウさんに任せるつもりでいたらしい。
 つよしは洗脳の実を少し噛った程度だったため、目視しない限りは平常心でいられる。だから魔族が敵や私に死ねと言ったことを相当ショックを受け落ち込んでいる見たい。
 それを聞いたらますますやる気が出て、早くつよしを元に戻したいと思ったんだ。
 そしてつよしに告白をする。

「自分も参加していいでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」

 今まで黙っていた黒崎が私達同様やる気になっていて、参加を申し出をすればパパは二つ返事で許可を出す。
 私にはあんなに反対していたのに、黒崎には何も確認しないで即答で許可を出す。なんだか腑に落ちない。

 理由は分かってるよ。
 私はパパのすべてで生きている意味だから、何があろうと傷つけたくない。私が傷つけば一番ダメージを食らうのはパパだもん。
でもやっぱり納得が行かない。

「確か黒崎は魔術の心得はあるんだよな?」
「それなりには使えます。出来れば舘先生にも指導を受けたいと思ってます。これが今の自分の実力です」
「なるほどね。英雄候補として平均……こっちに召喚されてどのぐらいになる?」
「もうすぐ一年になります」
「それにしてはずいぶん数値が低くないか?」
「…………」

 黒崎から能力診断表を受け取り早速目を通し確認後、厳しい現状を叩きつけられ黒崎は口ごもった。
 そんな龍くんは先生だった。

「仕方がないじゃない? 本来英雄候補は二百年に一度召喚の木によって選ばれるはずが、彼らはたった三十三年で無理矢理選ばれた。修行と言う修行は三ヶ月ほどで、その後憲兵団に所属。五百年ぶりに選ば優遇されていたあんた達の頃とは何もかもの状況が違うの。その上講師だって人材不足だから、リュウは良いとしても、あのマイケルが講師主任だったのよ」
「……黒崎、大変だったんだな。そのすまん」

 黒崎を援護するヨハンさんの訳を聞いた途端、龍くんは表情を引きつらせなぜか申し訳なさそうに謝る。
 明らかにマイケルと言う人を知っている素振りだけれど、だからと言って謝ることはないような? それとも苦労をしたのを知らずに、冷たいことを言ったから?

「マイケルさんって龍之介さんの知り合いですか?」
「まぁ昔ちょっとな。それじゃぁ、強化合宿のことを太に伝えてくる。星歌、ちょっと試したいことがあるから一緒に来てくれないか?」
「試したいこと?」

 どうやら触れられたくないようで歯切れの悪い答えをされ話は終わりにされ、そうも言って龍くんは席を立つ。訳が分からないながらも今の龍くんは信用できるため、私も席を立ち首を傾げながらも後について行く。




「……星夜もついてきたのかよ?」
「星歌に何かあったらどうする?」
「そこはオレがいるから大丈夫だ。もし少しでも不安要素があれば、力尽くで排除する」
「それなら安心だ」

 当然とばかりについてくるパパを龍くんはあしらうけれど、パパの真意を聞くと胸を張って怖ろしいことを言いだす。安堵するパパ。

 私の二人の父親は相変わらず超過保護だ。

「私を心配してくれるのはありがたいんだけれど、その人ってつよしのことだよね? これから何をするの?」
「ちょっとした実験。つよしは魔族を目視することで、洗脳の効果が発動するらしい。だったら声だけならどうなるかと思ってな。試しにつよしに何か話しかけてみろ」

 ありがたいと思いつつつよしのことを心配していれば、いたずらな笑みを浮かべた龍くんは自分の考えを打ち明けてくれる。これも私のためにいろんな可能性を考えてくれた結果。

 やっぱり龍くんは、私にとって女癖が最悪でも頼りになる父ちゃん。
 パパのように切り離して考えるしかないか。

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