73 / 157
3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?
54.過保護な父親達
しおりを挟む
「分かった。星歌がそこまで言うのなら、強化合宿をしよう。ただし二ヶ月だ」
「ありがとうパパ」
強化合宿に反対するパパを根気よく説得すること三十分。
ようやく頷いて許可が降りるけれど、表情は思わしくなく声のトーンはやたら高い。周囲の空気もピリピリしていて、気を抜いたらどんでん返しされそう。
「星ちゃん、よかったね。私も一緒に強化合宿頑張る」
「うん。付き合ってくれてありがとう陽」
パパとは違って強化合宿の経緯を軽く話しただけで賛成してくれた陽は、自分のことのように喜んでくれ私の両手を握り自分も頑張ると言ってくれる。
「二人とも、セイヤの指導は厳しくて鬼講師って言われていたから覚悟しときなさいよ」
「分かってます」
「同じく」
ヨハンさんに釘を刺され、私達は気を引き締め返事をする。
パパの厳しい指導なんてまったくと言っていいほど想像がつかない。
でも厳しくないと修行の意味がないから、それなりには覚悟している。
パパが厳しい鬼講師になっても、泣き言なんて辞めたいなんて絶対に言わない。
「確かに星夜は鬼と言われていたが、星歌には無理だろうな?」
「当たり前だ。そもそも俺は戦闘の専門だから、星歌と陽ちゃんに教えることはない」
「あら、護衛術ぐらいは教えられるでしょ? 特にセイカちゃんはそれなりに才能があるんだから」
「………。そうだな。簡単な護衛術は教える。星歌にはそのうち強化合宿を用意する。後は龍ノ介とヨハンに任せていいか? 俺は主に太くんを徹底的に鍛え上げるから」
ヨハンさんに言い負かされたパパは不満を持ちつつ、少しの沈黙後それで話をまとめようとする。
結局太の熱意に負けてしまったパパは、レジストに向かう前に三日間の強化合宿してその後はリュウさんに任せるつもりでいたらしい。
太は洗脳の実を少し噛った程度だったため、目視しない限りは平常心でいられる。だから魔族が敵や私に死ねと言ったことを相当ショックを受け落ち込んでいる見たい。
それを聞いたらますますやる気が出て、早く太を元に戻したいと思ったんだ。
そして太に告白をする。
「自分も参加していいでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
今まで黙っていた黒崎が私達同様やる気になっていて、参加を申し出をすればパパは二つ返事で許可を出す。
私にはあんなに反対していたのに、黒崎には何も確認しないで即答で許可を出す。なんだか腑に落ちない。
理由は分かってるよ。
私はパパのすべてで生きている意味だから、何があろうと傷つけたくない。私が傷つけば一番ダメージを食らうのはパパだもん。
でもやっぱり納得が行かない。
「確か黒崎は魔術の心得はあるんだよな?」
「それなりには使えます。出来れば舘先生にも指導を受けたいと思ってます。これが今の自分の実力です」
「なるほどね。英雄候補として平均……こっちに召喚されてどのぐらいになる?」
「もうすぐ一年になります」
「それにしてはずいぶん数値が低くないか?」
「…………」
黒崎から能力診断表を受け取り早速目を通し確認後、厳しい現状を叩きつけられ黒崎は口ごもった。
そんな龍くんは先生だった。
「仕方がないじゃない? 本来英雄候補は二百年に一度召喚の木によって選ばれるはずが、彼らはたった三十三年で無理矢理選ばれた。修行と言う修行は三ヶ月ほどで、その後憲兵団に所属。五百年ぶりに選ば優遇されていたあんた達の頃とは何もかもの状況が違うの。その上講師だって人材不足だから、リュウは良いとしても、あのマイケルが講師主任だったのよ」
「……黒崎、大変だったんだな。そのすまん」
黒崎を援護するヨハンさんの訳を聞いた途端、龍くんは表情を引きつらせなぜか申し訳なさそうに謝る。
明らかにマイケルと言う人を知っている素振りだけれど、だからと言って謝ることはないような? それとも苦労をしたのを知らずに、冷たいことを言ったから?
「マイケルさんって龍之介さんの知り合いですか?」
「まぁ昔ちょっとな。それじゃぁ、強化合宿のことを太に伝えてくる。星歌、ちょっと試したいことがあるから一緒に来てくれないか?」
「試したいこと?」
どうやら触れられたくないようで歯切れの悪い答えをされ話は終わりにされ、そうも言って龍くんは席を立つ。訳が分からないながらも今の龍くんは信用できるため、私も席を立ち首を傾げながらも後について行く。
「……星夜もついてきたのかよ?」
「星歌に何かあったらどうする?」
「そこはオレがいるから大丈夫だ。もし少しでも不安要素があれば、力尽くで排除する」
「それなら安心だ」
当然とばかりについてくるパパを龍くんはあしらうけれど、パパの真意を聞くと胸を張って怖ろしいことを言いだす。安堵するパパ。
私の二人の父親は相変わらず超過保護だ。
「私を心配してくれるのはありがたいんだけれど、その人って太のことだよね? これから何をするの?」
「ちょっとした実験。太は魔族を目視することで、洗脳の効果が発動するらしい。だったら声だけならどうなるかと思ってな。試しに太に何か話しかけてみろ」
ありがたいと思いつつ太のことを心配していれば、いたずらな笑みを浮かべた龍くんは自分の考えを打ち明けてくれる。これも私のためにいろんな可能性を考えてくれた結果。
やっぱり龍くんは、私にとって女癖が最悪でも頼りになる父ちゃん。
パパのように切り離して考えるしかないか。
「ありがとうパパ」
強化合宿に反対するパパを根気よく説得すること三十分。
ようやく頷いて許可が降りるけれど、表情は思わしくなく声のトーンはやたら高い。周囲の空気もピリピリしていて、気を抜いたらどんでん返しされそう。
「星ちゃん、よかったね。私も一緒に強化合宿頑張る」
「うん。付き合ってくれてありがとう陽」
パパとは違って強化合宿の経緯を軽く話しただけで賛成してくれた陽は、自分のことのように喜んでくれ私の両手を握り自分も頑張ると言ってくれる。
「二人とも、セイヤの指導は厳しくて鬼講師って言われていたから覚悟しときなさいよ」
「分かってます」
「同じく」
ヨハンさんに釘を刺され、私達は気を引き締め返事をする。
パパの厳しい指導なんてまったくと言っていいほど想像がつかない。
でも厳しくないと修行の意味がないから、それなりには覚悟している。
パパが厳しい鬼講師になっても、泣き言なんて辞めたいなんて絶対に言わない。
「確かに星夜は鬼と言われていたが、星歌には無理だろうな?」
「当たり前だ。そもそも俺は戦闘の専門だから、星歌と陽ちゃんに教えることはない」
「あら、護衛術ぐらいは教えられるでしょ? 特にセイカちゃんはそれなりに才能があるんだから」
「………。そうだな。簡単な護衛術は教える。星歌にはそのうち強化合宿を用意する。後は龍ノ介とヨハンに任せていいか? 俺は主に太くんを徹底的に鍛え上げるから」
ヨハンさんに言い負かされたパパは不満を持ちつつ、少しの沈黙後それで話をまとめようとする。
結局太の熱意に負けてしまったパパは、レジストに向かう前に三日間の強化合宿してその後はリュウさんに任せるつもりでいたらしい。
太は洗脳の実を少し噛った程度だったため、目視しない限りは平常心でいられる。だから魔族が敵や私に死ねと言ったことを相当ショックを受け落ち込んでいる見たい。
それを聞いたらますますやる気が出て、早く太を元に戻したいと思ったんだ。
そして太に告白をする。
「自分も参加していいでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
今まで黙っていた黒崎が私達同様やる気になっていて、参加を申し出をすればパパは二つ返事で許可を出す。
私にはあんなに反対していたのに、黒崎には何も確認しないで即答で許可を出す。なんだか腑に落ちない。
理由は分かってるよ。
私はパパのすべてで生きている意味だから、何があろうと傷つけたくない。私が傷つけば一番ダメージを食らうのはパパだもん。
でもやっぱり納得が行かない。
「確か黒崎は魔術の心得はあるんだよな?」
「それなりには使えます。出来れば舘先生にも指導を受けたいと思ってます。これが今の自分の実力です」
「なるほどね。英雄候補として平均……こっちに召喚されてどのぐらいになる?」
「もうすぐ一年になります」
「それにしてはずいぶん数値が低くないか?」
「…………」
黒崎から能力診断表を受け取り早速目を通し確認後、厳しい現状を叩きつけられ黒崎は口ごもった。
そんな龍くんは先生だった。
「仕方がないじゃない? 本来英雄候補は二百年に一度召喚の木によって選ばれるはずが、彼らはたった三十三年で無理矢理選ばれた。修行と言う修行は三ヶ月ほどで、その後憲兵団に所属。五百年ぶりに選ば優遇されていたあんた達の頃とは何もかもの状況が違うの。その上講師だって人材不足だから、リュウは良いとしても、あのマイケルが講師主任だったのよ」
「……黒崎、大変だったんだな。そのすまん」
黒崎を援護するヨハンさんの訳を聞いた途端、龍くんは表情を引きつらせなぜか申し訳なさそうに謝る。
明らかにマイケルと言う人を知っている素振りだけれど、だからと言って謝ることはないような? それとも苦労をしたのを知らずに、冷たいことを言ったから?
「マイケルさんって龍之介さんの知り合いですか?」
「まぁ昔ちょっとな。それじゃぁ、強化合宿のことを太に伝えてくる。星歌、ちょっと試したいことがあるから一緒に来てくれないか?」
「試したいこと?」
どうやら触れられたくないようで歯切れの悪い答えをされ話は終わりにされ、そうも言って龍くんは席を立つ。訳が分からないながらも今の龍くんは信用できるため、私も席を立ち首を傾げながらも後について行く。
「……星夜もついてきたのかよ?」
「星歌に何かあったらどうする?」
「そこはオレがいるから大丈夫だ。もし少しでも不安要素があれば、力尽くで排除する」
「それなら安心だ」
当然とばかりについてくるパパを龍くんはあしらうけれど、パパの真意を聞くと胸を張って怖ろしいことを言いだす。安堵するパパ。
私の二人の父親は相変わらず超過保護だ。
「私を心配してくれるのはありがたいんだけれど、その人って太のことだよね? これから何をするの?」
「ちょっとした実験。太は魔族を目視することで、洗脳の効果が発動するらしい。だったら声だけならどうなるかと思ってな。試しに太に何か話しかけてみろ」
ありがたいと思いつつ太のことを心配していれば、いたずらな笑みを浮かべた龍くんは自分の考えを打ち明けてくれる。これも私のためにいろんな可能性を考えてくれた結果。
やっぱり龍くんは、私にとって女癖が最悪でも頼りになる父ちゃん。
パパのように切り離して考えるしかないか。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる