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4章 それぞれの愛のかたち
65.親子水入らず①
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スピカ、星歌はこの通り元気で明るい優しい子に育ったよ。ここまで来るのにいろいろあったが、二人三……龍ノ介のおかげもあるから三人四脚になるんだろうか?
とにかくうまくやっている。星歌のことは何があっても護り抜いて幸せな人生を歩ませるから心配しないで欲しい。
そうそう星歌にも最近好きな人が出来たんだ。相手は幼馴染みの子で、その子も星歌を好きでいてくれてる。
星歌のすべてを受け入れてくれた力も芯も強い少年だよ。俺は末永く二人を温かく見守っていくつもりだ。
……君を護れなかったのは本当に申し訳ないと思っている。だが俺は今も変わらず君を愛している。もう二度と恋愛などするつもりはない。
「ようやく会えたね。逢いたかった」
『え?』
スピカの声が聞こえた。
墓を目の前にしておかしくなったと思いきや、目を開け声のする方に視線をやればホムンクルスが微笑みこちらを見ている。隣にいる星歌とルーナス先生も視線の先は同じで呆気に取られている所を見ると幻聴や幻覚ではないようだ。
ホムンクルスは自我を持たないんじゃないのか?
それとも幽霊なのか?
「あたしだよスピカ。ホムンクルスに憑依している」
何も答えない俺達に構わず勝手に話を進め切り株に座る。
この口調は確かにスピカだ。
「……マヒナは知ってるのか?」
「知らないよ。頑固で思い込みが激しいあの子に話すと話が拗れるだけだから、まずは君に話してから話そうと思って。それにあの子は前にも増して君を憎んでいるからな」
涼しげな顔をしてマヒナにしてみれば酷い言われようを答えられるが、それはスピカらしい台詞でもある。そして何よりも言い終わった後、首を軽く傾げ耳たぶを触る仕草はスピカの癖。
信じられないが、何もかもがスピカだと証明している。
「本当にスピカなのか?」
「だから、最初っからそう言ってるじゃないか? こうすれば分かる?」
率直の疑いの問いに彼女はそう言い、俺の元に駆け寄り抱きつき唇を奪う。
十四年ぶりでも口づけでも間違えようがない。
この強引でも優しい感触と甘くて刺激のある蜜の味はスピカだった。
疑いが確信に変わった瞬間、涙があふれスピカを強く抱きしめ返す。
少し違和感がある物の、この温もりもスピカその者。
もう二度と触れ合うことが出来ないと思っていたはずなのに、俺は再びスピカに触れられる。
夢だとしても罠だとしても構わない。
「……セイヤ、身体が壊れちゃう。ホムンクルスは外見こそ同じだけど、中身は結構粗末に出来ていて、もろいんだから」
「あ、ごめん……十四年ぶりだから感極まって」
忠告されて気づき力を抜く。
違和感を持ったのはホムンクルスだから。
でもそんなのどうだっていい。
俺が今抱きしめているのは、最愛の女であることは変わらない。
魂が同じであれば肉体が違っていても構わない。
「その気持ちは良く分かる。あたしも久しぶりにセイヤに抱かれて、すごく幸せなんだ。だから今度はセイヤから口づけをして欲しいんだ」
「俺も最高に幸せだ。愛してるスピカ」
忘れていた恋の炎が勢いよく再燃し、二度目の口づけは徐々に激しくなっていく。
こんな感情俺にはとっくの昔に失ったとばかり思っていたが、それはただ単に愛しいと思える女性が現れなかっただけだった。
スピカのすべてが今すぐ欲しい。
「……ルーナスさん、こう言う時私達はどうすれば良いんでしょう?」
「空気を読んでこの場を去るに限る。セイカも十六歳ならこれから先どうなるか分かるだろう? それとも両親のそんな姿見たいのか?」
「!! そんなの見たくないです」
気まずそうな星歌の問いをルーナス先生が答えが聞こえるのだが、それが問題で何を想像したのか星歌の声は裏返り発狂する。
我に返り離れ二人に視線を変えれば、真っ赤に染めた星歌といたずらな笑みで笑うルーナス先生の姿があった。
…………
…………
とにかく恥ずかしい。
もしこんな所を龍ノ介に見られたらと思うと、……考えるだけでも怖ろしい。
「そのセイカ、久しぶり。ママのこと覚えてる?」
「覚えてないけど、知ってます。私はお邪魔虫のようだから、先に家へ戻ってますね」
それはスピカも同じで星歌に話しかけるもすでに遅しで、距離を取られ冷たい返答。ルーナス先生の手を取り帰ろうとする。
瞳の奥は悲しげで少しむくれているところを見ると、仲間はずれにされたとでも思い拗ねているみたいだ。
「星歌、戻らなくて良いから。母さんと話したいことあるだろう?」
「セイカ、ずいぶん大きくなったね? もっと近くで顔を見せて欲しいな」
「……私が邪魔じゃないの?」
視線を背け本音だろう台詞を、恐る恐る呟く。
「邪魔なはずないよ。さっきはつい感情が赴くのままに流されただけで、今はセイカとの時間を優先したい」
「そうだぞ。俺達に気を使う必要ないんだ」
慌ててそんな星歌を二人で引き留め合うと、星歌は笑顔になって俺達に抱きつく。
どうやら間に合ったらしい。
「やれやれ。親子水入らずの時間を思う存分楽しむといい。私は先に帰るから、後で話をしよう」
「もちろんです」
「スピカ、おかえり」
「ただいま!!」
とルーナス先生は空気を読んだままそう言って、マヒナの家に帰っていく。
おかえり
ただいま
なんて良い響きなんだろうか?
とにかくうまくやっている。星歌のことは何があっても護り抜いて幸せな人生を歩ませるから心配しないで欲しい。
そうそう星歌にも最近好きな人が出来たんだ。相手は幼馴染みの子で、その子も星歌を好きでいてくれてる。
星歌のすべてを受け入れてくれた力も芯も強い少年だよ。俺は末永く二人を温かく見守っていくつもりだ。
……君を護れなかったのは本当に申し訳ないと思っている。だが俺は今も変わらず君を愛している。もう二度と恋愛などするつもりはない。
「ようやく会えたね。逢いたかった」
『え?』
スピカの声が聞こえた。
墓を目の前にしておかしくなったと思いきや、目を開け声のする方に視線をやればホムンクルスが微笑みこちらを見ている。隣にいる星歌とルーナス先生も視線の先は同じで呆気に取られている所を見ると幻聴や幻覚ではないようだ。
ホムンクルスは自我を持たないんじゃないのか?
それとも幽霊なのか?
「あたしだよスピカ。ホムンクルスに憑依している」
何も答えない俺達に構わず勝手に話を進め切り株に座る。
この口調は確かにスピカだ。
「……マヒナは知ってるのか?」
「知らないよ。頑固で思い込みが激しいあの子に話すと話が拗れるだけだから、まずは君に話してから話そうと思って。それにあの子は前にも増して君を憎んでいるからな」
涼しげな顔をしてマヒナにしてみれば酷い言われようを答えられるが、それはスピカらしい台詞でもある。そして何よりも言い終わった後、首を軽く傾げ耳たぶを触る仕草はスピカの癖。
信じられないが、何もかもがスピカだと証明している。
「本当にスピカなのか?」
「だから、最初っからそう言ってるじゃないか? こうすれば分かる?」
率直の疑いの問いに彼女はそう言い、俺の元に駆け寄り抱きつき唇を奪う。
十四年ぶりでも口づけでも間違えようがない。
この強引でも優しい感触と甘くて刺激のある蜜の味はスピカだった。
疑いが確信に変わった瞬間、涙があふれスピカを強く抱きしめ返す。
少し違和感がある物の、この温もりもスピカその者。
もう二度と触れ合うことが出来ないと思っていたはずなのに、俺は再びスピカに触れられる。
夢だとしても罠だとしても構わない。
「……セイヤ、身体が壊れちゃう。ホムンクルスは外見こそ同じだけど、中身は結構粗末に出来ていて、もろいんだから」
「あ、ごめん……十四年ぶりだから感極まって」
忠告されて気づき力を抜く。
違和感を持ったのはホムンクルスだから。
でもそんなのどうだっていい。
俺が今抱きしめているのは、最愛の女であることは変わらない。
魂が同じであれば肉体が違っていても構わない。
「その気持ちは良く分かる。あたしも久しぶりにセイヤに抱かれて、すごく幸せなんだ。だから今度はセイヤから口づけをして欲しいんだ」
「俺も最高に幸せだ。愛してるスピカ」
忘れていた恋の炎が勢いよく再燃し、二度目の口づけは徐々に激しくなっていく。
こんな感情俺にはとっくの昔に失ったとばかり思っていたが、それはただ単に愛しいと思える女性が現れなかっただけだった。
スピカのすべてが今すぐ欲しい。
「……ルーナスさん、こう言う時私達はどうすれば良いんでしょう?」
「空気を読んでこの場を去るに限る。セイカも十六歳ならこれから先どうなるか分かるだろう? それとも両親のそんな姿見たいのか?」
「!! そんなの見たくないです」
気まずそうな星歌の問いをルーナス先生が答えが聞こえるのだが、それが問題で何を想像したのか星歌の声は裏返り発狂する。
我に返り離れ二人に視線を変えれば、真っ赤に染めた星歌といたずらな笑みで笑うルーナス先生の姿があった。
…………
…………
とにかく恥ずかしい。
もしこんな所を龍ノ介に見られたらと思うと、……考えるだけでも怖ろしい。
「そのセイカ、久しぶり。ママのこと覚えてる?」
「覚えてないけど、知ってます。私はお邪魔虫のようだから、先に家へ戻ってますね」
それはスピカも同じで星歌に話しかけるもすでに遅しで、距離を取られ冷たい返答。ルーナス先生の手を取り帰ろうとする。
瞳の奥は悲しげで少しむくれているところを見ると、仲間はずれにされたとでも思い拗ねているみたいだ。
「星歌、戻らなくて良いから。母さんと話したいことあるだろう?」
「セイカ、ずいぶん大きくなったね? もっと近くで顔を見せて欲しいな」
「……私が邪魔じゃないの?」
視線を背け本音だろう台詞を、恐る恐る呟く。
「邪魔なはずないよ。さっきはつい感情が赴くのままに流されただけで、今はセイカとの時間を優先したい」
「そうだぞ。俺達に気を使う必要ないんだ」
慌ててそんな星歌を二人で引き留め合うと、星歌は笑顔になって俺達に抱きつく。
どうやら間に合ったらしい。
「やれやれ。親子水入らずの時間を思う存分楽しむといい。私は先に帰るから、後で話をしよう」
「もちろんです」
「スピカ、おかえり」
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なんて良い響きなんだろうか?
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