普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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4章 それぞれの愛のかたち

71.家ごと引っ越し

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「龍くん、これはどう言うこと?」
「ルーナス師匠に事情を聞いて、だったらこっちに引っ越しした方が良いかと思ってな。久しぶりだなスピカ」
「久しぶり。リュウノスケは相変わらずやることなすことすべて規格外だよね?」

 あるはずもない我が家登場に呆気に取られていると、龍くんが我が家から出て来て訳を聞くと簡単な理由を軽く話してくれる。
 お母さんは圧倒されながらも関心しているけれど、パパは身体全体を振るわせ……様子がおかしい?

「褒め言葉に受け取っておく。理由はどうあれこれでしばらくは親子三人の時間を楽しめるだろう?」
「ありがとう、龍ノ介」

 とっておきの配慮にパパは感激してしまい、龍ちゃんに抱きつき泣きながら感謝する。
 私も嬉しくってお母さんを見ると、嬉しそうに涙してた。

 突然のお母さん登場だけでも驚いたのに、過激過ぎる濃厚なラブシーンを見せられて最初は戸惑った。
 お母さんがいたら私なんて邪魔なのかもって思ったら悲しくなったけれど、そんな心配はなくお母さんも私のことを愛してくれていると分かった。
 だから一緒に暮らせることになってすごく嬉しい。
 これは本当にお母さんが長生きできるように頑張らなければ。

「私、お母さんの手料理が食べたい」
「そうだな。よし今夜は腕によりをかけて作ろう」
「やった!! ならその前に家の中を案内するね」

 そうと決まったらいてもたってもいられなくなり、お母さんの腕を掴みぐいぐいと我が家へ向かう。

 お母さんの手料理が楽しみでしょうがない。

「おい星歌。オレを忘れんな。星夜をどうにかしてくれ」
「え? パパ、龍くんが死んじゃうよ!!」

 龍くんの藻掻き苦しむ声を聞き振り向くと、まだパパは号泣していて龍くんをあろうこときつく締め付けている。
 顔色が真っ青になり白目を向きかけていて、大げささではなくもう少しで死にそうだった。

「あ、つい。龍ノ介すまん」
「ままったく。ちょっと話しておきたいことが、オレと一緒に来い」
「……分かった。行ってくる」
 
 我に返ったパパは龍くんを離せば、形勢は逆転してしまう。
 シュンと小さくなるパパを連れて、どこかに行ってしまった。

 話しておきたいこと?
 一体なんだろう?

「二人は相変わらず仲が良いな。それにしてもあのリュウノスケがセイヤと一緒に子育てしてたとは。まったく想像が出来ない」
「それなら私が小さい時のアルバムとDVDもあるから後で一緒に観ようよ」

 さっき私の成長を見られなくってがっかり

「アルバムは分かるが、ディーブイデイーとはなんだ?」
「簡単に言えば動く写真のことかな?」
「ほうそれは興味深い。何より今からでもセイカの成長を見られるのは夢のようだ」

 問われた意味を自信なく答えると、予想以上に大喜びをしてくれる。

 娘の成長を親なら見たいのは当然か。




「本当にあなたは母様なのですか?」

 簡単な家の中と陽と黒崎をお母さんに紹介し終え、自分の部屋で陽を含めた三人でアルバムを鑑賞中。
 いきなり息を切らしたマヒナさんが乱入してきて、お母さんの肩を持ちぐらぐら揺らしながら声を荒げて問う。それだけ必死になっているのは一目瞭然ではあるけれど、迫力があり過ぎて怖い。

「ちょっとマヒナ、落ちついて。壊れるでしょ」

 ゲシッ

 とお母さんは強い口調で言い捨て、マヒナさんを足払いで転倒させる。

「……星ちゃん、この人誰?」
「お母さんの養子で一応私の義姉」

 圧倒される陽の耳打ちに何を言っていいのか分からず、取り敢えず当たり障りのない答えを答える。

 私はちゃんとした理由があるから嫌いだけれど、根は良い人だって思いたいから悪くは言わない。
 陽とマヒナさんが仲良くなったら、ちょっと嫉妬するかもだけどそれはそれでいいと思う。
 でももし陽が人間と言うだけで毛嫌いして敵対視するようなら、私は今度こそ絶対に許さない。

「母様、酷いです。私ずーと母様を復活するのを待ち望んでいたんですよ」
「それはありがとう。あたしもマヒナとこうして話せて嬉しいけれど、なんであんたはセイヤにつらく当たるのかな? あたしはあの人を心の底から愛してるし、あの人も魔王の娘であるあたしをすべてを受け入れて計り知れない愛情をくれた。それも十四年たった今でも変わらず。それなのにどうしてなんだ?」
「あたしはあの男が大嫌いです。優しいだけで腑抜けなたたの偽善者野郎」
「マヒナ!! 外に出なさい」

 ごちそうさまと言いたくなるぐらいのお母さんの素直な気持ちをマヒナさんに伝えるも、やっぱり聞く耳持たずでそこまで言うかと言うぐらいの否定的発言。案の定お母さんの怒りは沸点を達し怒り声がこだまする。
 マヒナさんの耳を掴み無理矢理引っ張り部屋から出ていく。私もブチギレたかったけれど、タイミングを逃してしまった。

「スピカさんって、おじさんのこと凄く愛しているんだね」

 お母さんはおばさんと呼ばれるのが心底嫌だったらしく、陽と黒崎に名前呼びを強制していた。
 そこは龍くんと同じおじさんおばさんを認められない複雑な気持ちなんだろう。

「うん!! なのにマヒナさんは両親を人間に殺されているから、無類の人間嫌いなんだ。パパのこともあの通り心の底から嫌っている」
「そうなんだ。だったら仲良くするのは諦めて、ほどよい距離感を取った方が良いかもね?」
「陽がそう言うなんて珍しいね。なんかあった?」

 どこか悲しげに返答する陽の様子がなんだかおかしくて、心配になり首を傾げ聞いて見る。
 
 いつもの陽だったら根気よく話し合えば分かり合えるって言うはずなのに、なんで今日はこんなに後ろ向きなんだろうか?
 まるで私の考えみたい。

「人間と魔族の歴史の勉強をしていくうちに、私も星ちゃんみたく無理して仲良くさせなくても良いのかなと思い始めたんだよね?」

 私の考えだった。
 なのにそれがしっくりいかなくって、気持ち悪い違和感を覚えてしまう。
 
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