異世界転移したけど、特典なんかありません。~それでも私は生きていく~

桜井吏南

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五話

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 次の日、あたし達は当初の予定通りこの世界の住民が住んでいる場所を探すことになった。
 今日も朝から、気持ちいいぐらいの雲一つないいいお天気。
 今は川の流れに沿って、くだらない会話をしながら進んでいる。
 芽李ちゃんも昨晩よりかは、口数が多くなった。表情もいつもの芽李ちゃんに戻りつつある。 浅居君はあたし達をまとめるのに、苦労しているのがよく解る。
 だって剛君たら一生懸命な浅居君に、わざと聞き分けがないフリをしたりからかったりしてるんだもん。
 可愛そうだけど、なんかそんな困っている表情を見ているのが高校時代から好きだったりする。

「ああ~!!」

 突然、剛君が叫び声を上げた。剛君を見ると、口を大きく開け川とは逆の方向を見ながら指差している。

「か、火事だ」

 指さす方向には言葉通りに、火と黒い煙が空高く昇っていた。

「と言うことは、人がいる可能性があるんだな。行ってみよう」

 驚きながらも、浅居君は適切な判断を冷静に指示する。さすがリーダーだけある。あたし達は無言で頷き、火事の現場に走り出す。


「なんなの、これは?」

 芽李ちゃんが呆然と呟き、辺りを見回した。浅居君も剛君もあまりのことに、言葉を失っている。

 火事の現場には、無惨な光景が広がっていた。
 鉄を含んだ血の臭いと、異臭が漂っている。血まみれになって転がっている人間らしき物体が、あちらこちらに散らばっている。建物の大半は、もはや焼け崩れ跡形も残っていない。一言で言えば、戦争の記録映画だろう。

 グロい、グロすぎる。

 とにかく気持ち悪い。ただでさえあたしは、戦争映画やスプラッタ映画を観ていても気持ち悪くなるって言うのに。
 誰がこんなに惨いことをやったんだろう?
 見たところ小さな村にしか見えないんだけど。それともこれがこの世界の国だったり。

 あれ?
 そんなことを考えていると、だんだん意識がなくなっていくのが分かった。
 目の前の風景が暗くなっていく。
 そしてあたしは、その場に倒れ込んでしまった。

「きゃー、椛ちゃん?」
「椛」
「緑河、しっかりしろ」

そばにいるはずの芽李ちゃん達があたしを呼ぶ声が、遠くで聞こえてくる。

 あたしって、結構か弱かったんだ。



「ここは?」

 目を開けるとそこには、心配そうにあたしの顔をのぞき込む三人の姿があった。
 そこは外ではなく、どこかの建物の中見たい。
 ランプのほのかな明かりが、独特な感じである。

「無事に残っていた家の中よ」
「優が倒れた椛を、ここまで背負ってきたんだ」
「え?」

 芽李ちゃんに続けて剛君が言う。
 あたしはビックリして、飛び上がった。

「あ、ありがとう」
「いいんだよ、俺は当然のことをしただけだから。それよりも体は大丈夫か?」
「うん。もう平気だよ。心配掛けてごめんね」

 やっぱり浅居君は、昔と変わらず優しかった。
 こんなことってなかなか出来る訳じゃないよね。
 それにあたしを、心配してくれる仲間がいるっていいな。

「でも、今日はここで休みましょう。私と剛でこの辺を調査してくるから、優君は椛ちゃんの側に付いていて」
「なんで、オレが?」
「文句言わないの。行くわよ」

 不満そうな剛君を引きずりながら、芽李ちゃんは部屋を出て行った。

 完全に勘違いしている。
 これでまた芽李ちゃんのお節介が大きくなりそうな気がする。
 こんなことされたら、何ともなくても意識しちゃうんじゃない。背負ってくれたこともあるから、恥ずかしくって顔がまともに見られないよ。

「緑河?」
「な、なに?」

 浅居君の問いかけに、あたしは目を泳がせつつも聞き返す。

「昨日は聞けなかったけど、お前今何してるんだ?」

 確かに昨日は、それどころではなかった。

「お陰様で、なんとか首を切られずに働いているよ。浅居君は?」
「俺は、春から母校の事務職員をしてる」
「そうなんだ。凄いじゃん」

 今の不景気公務員になることは難しい。あたしも受けたが、真面目に勉強をしていなかったため落ちている。
 浅居君のことだから、公務員専門学校に行って真面目に勉強したことは聞かなくてもなんとなく分かった。
 しかも母校で働けるなんて、夢のようだ。

「芳澤司書さんと話していると、たまにお前の話題になるぞ」
「え、どんな?」
「お前がいた頃は良く物が壊れたけど、今は滅多にないとか」
「…………」

 浅居君はそう言いながら、笑っている。
 
 真実だから反論は出来ないけど、そんな四年も前のことなんて時効だよ。
 それにわざとじゃなくって、偶然が重なっただけ。
 でもなんかあの頃に戻ったみたい。
 浅居君としゃべっていると幸せな気持ちになるんだよね。
 今度はいつまで続くんだろう?

 それからしばらくあたし達は昔の会話に花が咲いた。
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