異世界転移したけど、特典なんかありません。~それでも私は生きていく~

桜井吏南

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十一話

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「え、どうして?」
「オレ、ちょっと飲み物を買ってくるから」

 とは言っているけれど、なんだかそわそわして変である。

「別に良いけど……」

 しかしあたしには止める理由が見つからなくって、戸惑いながら許可してしまった。
 すると剛君は嬉しそうになんの迷いもなく、お店とは違う方向へ歩いていく。

 いくらナンパ男でも、言葉が通じなかったらナンパなんか無謀なことしないよね?

 と思った矢先に剛君は、色白で水色の腰以上の長髪が似合う思わず守ってあげたくなっちゃうような少女に紙を見せる。
 年で言うなら中学生ぐらいだろう。
 すると少女は笑みを浮かべ、剛君が見せた紙に何か書き始めた。

 ナンパしてるし、しかも成功している。

 あたしは呆れてその光景を眺めながら、道路の端にしゃがみ込んだ。
 なんだか二人とも楽しそう。

 まぁたまには息抜きも必要だから、今日だけは大目に見てあげよう。
 もちろんこのことは芽李ちゃんには秘密にしよう。
 そうじゃないと後が怖いし、なんと言っても怒られる剛君が可愛そうだもん。


「Donnez l`argen?」

 とあたしの前に、一人の男の子が笑顔で手を出しながらあたしに声を掛けてきた。
 あたしはビックリして男の子を見上げてしまう。
 剛君と話している少女と同じぐらいだろうが、意地悪そうな男の子と言う印象がする。

「Je ne peux pas parler.」

 あたしはすぐに芽李ちゃんから教わった言葉を棒読みする。

 日本語で訳すと“私はしゃべれません”って言うんだって。

この数日芽李ちゃんが、あたし達三人に必要最低限のフランス語を教えてくれている。

「?」

 男の子は変な顔であたしの顔を見るので、あたしは笑顔でごまかそうと考えた。

 通じなかったのかな?
 そもそも六年習った英語だってしゃべれないのに、たった数日教わったフランス語をしゃべれる方がおかしい。

「l`argen」

 だけどまだ男の子は言っている。あたしは仕方なく首を横に振った。

 l`argen.
 確か意味は、お金だっけぇ?

「Vous agissez par espièglerie.」

 すると男の子はいきなり怒った口調と怖い顔に変わる
 どうやら笑顔作戦はあっけなく失敗に終わったようだ。
 それどころか逆効果だったみたい。

 どうしようこの後始末。剛君はいつのまにかいなくなってるし。

「Qu'est effectué?」

 男の子があたしを殴ろうとした時、もう一人の水色の髪の男の子が現れ男の子の腕をつかむ。
やっぱり年は同じ位なんだろう。
 身長はあたしより少しだけ高い。

「Canon?」

 男の子の顔色はみるみるうちに青ざめていき、慌ててどこかに逃げていく。

 カノンって名前なのかな?

「あ、ありがとう」

 水色の髪の男の子にあたしはお礼を言う。
 言葉が通じなくても、感謝の気持ちが大切だと思う。
 水色の髪の男の子は、驚いた様子であたしを見た。

 そして、

「お前、異界人か?」

 って、日本語で訪ねて来た。

 この世界の人達から見れば、あたし達は異界人だ。

「そうだけど。あなた日本語分かるの?」
「ああ。オレの家系はどんな言葉でもしゃべれるんだ。オレはカノン。お前は?」
「あたしは椛」
「モミジ? 変な名前だな」

 カノン君は笑う。

 さっきの男の子には怖い顔していたけど、なんか子犬見たくて可愛い。
 きっとわんぱく小僧なんだろうな。

「そうだ。ねぇ、あの子に今度謝っといてくれる?」
「なんでだよ? あいつモミジを恐喝しようとしたんだぞ」

 不満げにカノン君はあたしに教えてくれた。

 だからあの男の子は、あたしに馬鹿にされたと思ってあんなに怒っていたのか。

「え、そうなの? あたしここの言葉解かんないし。でもやっぱり謝ってくれるかな。失礼な態度を取ったのは事実だから」

 こうなったら開き直るしかなく、あたしは明るく言った。

「変な奴。そんなんで良く、ここまで生きて来れたな」

 馬鹿にされ笑われた。でもなぜか怒る気がしない。

「あたしの他に三人いて、一人がしゃべれて一人は字が書けるから」
「そうか。……でその三人は?」

 カノン君は周りをキョロキョロ見回す。
 当たり前だが周囲には芽李ちゃん達はいない。
 あたしはほほをかき苦笑いをし、

「二手に分かれて情報収集してたんだけど、ナンパしに行っちゃた」

 と明後日の方を見ながら、小声で正直に答えた。
 カノン君の目は点になり、口を開け一瞬固まった。

 普通こうなるよね。


「信じられない。椛ちゃんをほっといてナンパするなんて最低最悪よ。この馬鹿男」
「悪かったから、離せよ。痛いんだから」

 そんな時遠くから芽李ちゃんの怒鳴り声と、剛君の痛そうな声が聞こえてくる。
 あたしとカノン君は声をする方を見ると、芽李ちゃん達とさっきの少女がこちらに向かってくるのが見えた。
 芽李ちゃんはカンカンに怒っているみたく、剛君の耳を引っ張っている。
 剛君は涙目になっていた。
 浅居君と少女は、二人の後ろを曖昧な表情を浮かべて着いてきている。
 運の悪いことに芽李ちゃんに目撃されてしまい、芽李ちゃんの雷が落ちたのだろう。

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