異世界転移したけど、特典なんかありません。~それでも私は生きていく~

桜井吏南

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十二話

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「チェリー?」

 カノン君は驚き、そう呟く。

「知り合い?」
「双子の妹だ」      

 そう言えば髪の色が同じだ。

「お兄様?」

 少女もこちらに気づいたようで、駆け寄ってくる。

「チェリー、どうして? まさか、この尻軽男に変なことを」

 と剛君を睨み付けながら言う。
 芽李ちゃんはじっと目で意味ありげに深く頷く。

 怖いよ、芽李ちゃん。

「違いますわ。ただツヨシさんに図書館を尋ねられて、よくよく聞くとお告げの人達と言うことが分かったのです」

 しかしチェリーちゃんは動揺せずにそう答える。
 なんか言葉遣いがカノン君と違って丁寧。

「お告げの人達?」
「はい。私達の家系はたまに異界人がこの世界にやってくるとき無事に神様の所まで送り届ける使命があるのです。今朝のお告げで近いうちに現れるのことだったので」
「そう言えば、そうだったな。じゃモミジ達を無事に神の所まで連れて行けば良いんだな」

 まるで他人事の言うような台詞だ。

「そうです。でもお兄様、今朝は嫌がっていませんでした?」

 チェリーちゃんは不思議そうに頭をひねる。

「気が変わったんだよ。オレの魔法があれば楽勝だからな」
「ま・ほ・う? この世界魔法が使えるの?」

 と、あたしはカノン君のセリフに目を輝かせて飛びついた。

 魔法を聞いて黙ってはいられるはずがない。

「ああ。俺とチェリーは魔法学生なんだ」

 答えるカノン君に、あたしは不気味な笑顔になる。

「緑河、まさか?」

 あたしの考えていることが分かったのか、浅居君は唾を飲み込み恐る恐るあたしに尋ねる。

「うん。カノン君あたしに魔法を教えて」
「やっぱし」
「え~!!」

 呆れる浅居君に、芽李ちゃんと剛君は驚き声を上げた。

「無理だ。魔法は天性の才能だからな。試しに片手を空にかがけて集中しながら“サンダーシャワー”って言ってみろ」

 魔法って英語の発音でいいんだ。
 サンダーシャワーって、雷雨って言う意味だよね。

 あたしは言われた通り方手を上げ、目をつぶって集中し力ある言葉を言った。

「サンダーシャワー」

 すると指輪が熱くなり光が集まった気がした。

「やばい、チェリー」
「はい。 マジックリリース」

 チェリーちゃんがそう言うと、光が打ち消されなんともなくなる。あたしは目を開け指輪を眺めた。


 一ヶ月前露店で買った、なんの変哲もない銀の指輪。 
 ただなぜかその時模様が気に入って買ってしまい、それ以来肌身離さず身につけているのだ。

「驚いたな。もう少しで魔法が発動される所だったぜ」
「え、じゃぁあたし魔法使えるの?」
「見たいだな。オレが一から教えてやるよ」
「本当。やった」
「椛ちゃん、やめた方がいいんじゃない?」

 芽李ちゃんの心配を完全に無視し、あたしは無邪気に飛び跳ねる。


 その晩は二人の家に泊まることになった。
 そこで二人のお母さんから聞いたことなんだけど、神様って言うのは大魔導師のことでその人なら召還魔法も出来るみたい。
 あたし達がこの世界に来たことは、本当の偶然だから魔王を倒すこととかはけしてないとも言っていた。
 二十数年前もあたし達と同じような異界人の男女二人がこの地に飛ばされ二人のお母さんと お兄さんが、二人を神様の所まで無事に案内して元の世界に戻って行ったんだって。
 だからなのかな、あたし達のことを旦那様の出張中にも関わらず快く泊めてくれたのは。

 それでその日に分かったことは、
 チェリーちゃんは、年上のあたし達よりしっかりしている大和撫子みたいな優等生。
 カノン君は、やっぱり見た目通りのわんぱく小僧で地元のガキ大将。
 それからあたしの魔法の先生達。

 果たしてあたしは、元の世界に戻る前に魔法がマスター出来るのだろうか?

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