異世界転移したけど、特典なんかありません。～それでも私は生きていく～

桜井吏南

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十四話

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「なんで二人だけで行かすんだよ？　危ないだろ？」
「そんなことないぞ。優は最低限の言葉を覚えたし、あいつの腕より上の奴なんかそんなにいないからな」

　剛はにこにこ笑いながら言った。

　優一君は剛と違ってこの数日の間で、日常最低限のフランス語をほぼマスターしたのだ（会話だけだけど）
　今まで剛の剣道の腕は凄いと思ってそこだけは尊敬していたんだけど、優一君の腕は更に凄く剛なんて目じゃない感じだ。
　そんな優一君は、椛ちゃんのまさしく理想の人である。
　剣道のことは椛ちゃんもここに来て初めて知った見たいで凄く驚いていた。
　それでまた優一君を惚れ直した可能性がある。

「そうそう、それに昼間カノンがあんなこと言うから椛ちゃん落ち込んでいたんだからね」

　私が剛の言葉を付け足しつつ、カノンに嫌みを言う。

「あれは椛がいけないからだ。全く女はすぐメソメソするからメンドクせぇ」

　しかしカノンには効果がないどころか、そんなことを言い返されてしまった。

　普通反省している時に馬鹿だとか才能がないだとかきついことを強い口調で言えば、誰だって泣くと思うんだけど。

「お兄様は、優しさという物がないんです。だから女生徒全員から嫌われているのです」
「うるせ。いちいち女の顔色なんか見てられるかよ。少ししたでに出るとあいつらすぐつけあがるからな」

　ガキ大将がよく言いそうなセリフである。

　たしかにカノンの性格からして、ありえる話だ。
　当分カノンに乙女心を理解することはないだろう。

「これだからお子様は困るんだな。大人の男は女性に優しくするもんだ」

　剛は剛でまた意味が分からないことを、自慢そうに言い始めた。

「男って言うものは、女なしでは生きていけない悲しい生き物なんだよ」

　意味ありげにしみじみと剛は言う。

　それは女を生き甲斐にして、生きている剛だけである。
　世の中には女性よりも仕事を生き甲斐にしている男性だって沢山いる。

「お前みたいな、大人にだけはなりたくない」
「そうね。こいつは駄目な大人の手本よ」

　私がそう言うと、剛は肩を落とし苦笑いをした。
　それを見てチェリーは、クスクスと笑う。
　こんな男と良く八年も付き合って来られたなって、我ながら感心してしまう時がある。

「でもまぁ、確かにちょっと言い過ぎたかもな。しょうがない、モミジには謝ってやるか。チェリー、オレ達も祭りに行こうぜ」
「え、今からですか？」
「当たり前だろう？　二人だけじゃ危ないからな」
「そんなの、駄目よ」
「は？」

　私の言葉に、カノンは眉を細め目が点になった。

　そんなことしたら、私の計画が台無しである。
　私の計画では告白タイムはないにしても、手ぐらいは繋がせる予定なんだから。

「カノンが行ったら、椛ちゃんが余計落ち込んじゃうから明日謝りなさいよ」

　しかしそんな計画を正直に言えば、カノンになんて言われるか分からない。
　おそらく指さして笑われるか、馬鹿にされる。

「なんでだよ。オレは思ったことはすぐ実行するタイプなんだよ」
「でも……」
「でも？」
「馬鹿だな、カノン。そんなの理由は一つに決まっているだろ？」

剛が自信ありげに笑う。

　この中で一番恋愛経験が豊富な剛のことだから、私の言いたいことが分かったのだろう。
　なんかイヤな予感がするんですけれども。

「なんだよ」
「デートの邪魔だって言うことだ。な、芽李？」

　やっぱし。しかもなんで私に振るのよ。

「そ、そう言うことだからそっとしてあげてね」

　私は仕方なく正直に答えると、カノンは更に機嫌が悪くなる。

「デート？　あいつは好きでもない奴とでもするのかよ？」

　カノンって、結構鈍感なんだ。
　まぁ、無理もないか。

「お前、馬鹿か？　あの二人はできているぐらい見れば分かるだろう？」

　そんなカノンを剛は、ここぞとばかりニヤニヤしながら馬鹿にする。
　いつも軽い男とか言いたい放題カノンに真実のことを言われている。

「やはりそうなんですね。じゃ芽李さん達も恋人同士なのでしょうか？」

　所がチェリーが私と剛に、冗談もならないことを聞いてくる。
　私はあまりのことに、考える機能が一瞬停止した。

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