巻き込まないで下さい!!オカルト令嬢の婚約破棄騒動

ロク

文字の大きさ
6 / 25

6 アスベルVS求婚者たち

しおりを挟む
 
 ヴィヴィアンはロイズ伯爵家の第一子。六歳年下に弟がいる、ごくごく普通の令嬢だ。
 ただ他の令嬢と違うのは、幼い頃から他の人には見えないものが見える。いわゆる幽霊が。

 幼い頃、初めて両親に話した時は主治医を呼ばれ、診察された悲しい過去がある。そして虚言癖のある変わった子供だと言われたことで、ヴィヴィアンは誰にも何も言わなくなった。

 用心していたのだが、婚約者であるアスベルにだけは、幼い頃にバレてしまったのだ。ただアスベルはバカにせず、気味悪がりもせず、そのままのヴィヴィアンを受け入れてくれた。

 幼い頃のヴィヴィアンにとって、アスベルは家族より安心して自分をさらけ出せる相手になった。


 ヴィヴィアンは、今までに何度も人と間違えて幽霊に話しかけるという失態を繰り返したことで、自分から人に声をかけるのが苦手になった。そのせいで友人も少なく、入学してからも静かな学園生活を送っていた、はずだった。


「ヴィヴィ、ここにいたんだね?なんとなく図書館にいる気がしたが当たりだったね。今日の放課後は私と共に過ごす約束だったろう?迎えに来たよ」

 アスベルは、ヴィヴィアンを取り囲んでひざまずく令息たちを見て、ギョッとして立ち止まった。

「いったい何があったんだい?」

 アスベルは慌ててヴィヴィアンを立ち上がらせて腰を抱くと、厳しい顔で一同を睨んだ。

「ヴィヴィを困らせるのはやめて欲しいですね。ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね?私はアスベル・リシュルド。リシュルド侯爵家の嫡男で、ここにいるヴィヴィアン・ロイズ嬢のこ、ん、や、く、者です。どうぞお見知り置きを」

 婚約者を強調して自己紹介をしたアスベルに、皆一様に顔をしかめて睨んだ。マリアが取り繕うように扇子を開き鷹揚おうように答えた。

「ええ、知ってましてよ、アスベル様。なんといっても学園のアイドルですもの。お名前で呼ぶのを許して下さいね。こんな形で知り合うなんて思いもしませんでしたわ。それではまた改めて。ヴィヴィアン様、近いうちに我が家へご招待致しますわ。ぜひいらして下さいね!」

「ヴィヴィアン嬢、色良い返事を期待していますよ。私はいつでも、大歓迎で、貴女をお迎えしますよ」

「デューク、しつこい男性は嫌われますよ」

「それならリシュルド、嫉妬深い男も嫌われますよ」

「くっ!」

 アスベルは会釈もせず、ヴィヴィアンの腰を抱いたまま踵を返して図書館を出た。

「アスベル様、お待ち下さい。皆様にご挨拶がまだ」

「そんなものいりません。さあ、帰りますよ」

 アスベルは引き攣った顔で馬車置き場に向け足早に歩いた。馬車に乗り込むとすぐに、少し怒った口調でヴィヴ
ィアンを問い詰めた。

「ヴィヴィ、ハミルトン嬢、レイフォード嬢とは交流なんてなかったろ?なんで一緒にいたんだ?」

「アスベル様、言葉が乱れてますよ」

「二人の時くらいいいだろ?で、な、ん、で、この間からヴィヴィにちょっかいをかけてくる婚約破棄者が、あの場に勢揃いしてたんだ?しかも皆んなひざまずいて、まるでプロポーズするみたいに!そういや図書館に行く途中でダミアンとすれ違ったが、泣いてたぞ」

「ええ?サラ様の婚約者様かしら?その、その方でしたら、サラ様に婚約破棄されたんですわ」

「また婚約破棄…?いったいヴィヴィの周りで何が起こってるんだ?」

「あの、それに関して思い当たることがありましたの。デューク様の言葉で合点がいきましたわ」

「ああ、ならヴィヴィを送って行くついでに、君の家で詳しく聞かせてくれるかい?」

「ええ。ではお庭でお茶でも飲みながらお話ししますわ」


 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...