巻き込まないで下さい!!オカルト令嬢の婚約破棄騒動

ロク

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16 司書室の中は

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 貸し出しカウンターの奥に司書室があった。クロードが扉を開けて先に中に入った。室内は薄暗く、ひんやりとこもった空気が一ヶ月前を思い出させたが、見た限りは何もなく安全そうだった。

「ただの司書室ですね。大丈夫ですからどうぞお入り下さい、美しいレディーたち」

 クロードが扉を開けたまま、笑顔で奥へといざなう。

「ありがとうございます、デューク様」

 ヴィヴィアンは部屋の一点、司書の机を見据えたまま、一歩中に入った。

「どうしたの?ヴィヴィ。何かあるのか?」

 アスベルがヴィヴィアンの視線を辿り、司書の机を見るが、やはり何も見えなかった。他のメンバーも何も見えないようだった。

「ええ、そうですね、取り立てて何も?」

 ヴィヴィアンは言葉を続けた。

「それよりここには何もなさそうですね。そろそろ出ましょうか。皆さんも出て下さいな」

 皆が出た後、ヴィヴィアンは一点を凝視しながら後ずさって扉から出た。バタンと扉が閉まると、ホッと息を吐いた。


 その日は皆と別れ、アスベルと一緒に一旦リシュルド家の馬車に乗った。だが、走り出してすぐに忘れ物を取りに戻ると言って引き返して貰った。

「やっぱり何かいたんだね?ヴィヴィ」

「ええ。でも早いうちに取りに行きたくて……。アスベル様ごめんなさい。このまま一緒に来て下さいますか?」

「いいに決まってるだろ。灯りが必要だね。用意をするからちょっと待って」

 アスベルは馬車に常備している荷物の中からランタンとランプと、マッチを出した。

「一人ずつ持つことにしよう」

 二人でもう一度旧校舎に向かった。ランタンとランプに灯を灯して図書館に入り司書室を目指す。

「抜けがけとはいただけないな」

 司書室の扉の前にクロードとウォルフが待ち構えていた。

「文字盤を忘れてるぜ、ヴィヴィアン」

「カイザー、私の婚約者を親しげに呼ばないでくれ」

「カイザーが呼び捨てなら、私もヴィヴィアンと呼ばせてもらおう。愛しい名だ。親しくなれたようで嬉しいよ」

 クロードも胸に手をあて、慈しむように名を呼んだ。
 ヴィヴィアンはクロードの様子にポッと頰を染めた。

(デューク様ったら、ストレートな仰り方で照れてしまうわ!)

「ダメに極まってるだろう、デューク!ヴィヴィもその反応は何なの?」

「正常な反応だよ。ね、ヴィヴィアン」

 クロードが追い討ちをかけるようにヴィヴィアンに向けて微笑んだ。ヴィヴィアンの顔がみるみる赤くなる。

(改めて思うけど、さすが恋の狩人の二つ名を持つデューク様!その微笑みは危険です!)

「コホン!」

 ヴィヴィアンは一つ咳払いをすると、パタパタと手であおぎながら神妙な顔で三人を見た。

「私の名の呼び方はどうでもいいです。お好きに呼んで下さい。デューク様もカイザー様も、来てしまったからには仕方がありません。実は中にあんまり良くなさそうな霊がいるんです」

「やっぱり、そうだと思ったよ」

 アスベルの呟きに他の二人も同意したようにうなずいた。

「たぶん、昔の司書の方だと思うんですが、どうも未練?か何かがあるようなんです。だからお話しを聞きたくて戻ったんです」

「あっ!文字盤はどこに?」

「ここにあるぜ、ヴィヴィ!」

 弾んだ声で愛称を呼んだウォルフが、サッと文字盤を差し出した。

「あら、ありがとうございます、カイザー様」

「あ、待て!どさくさに紛れて愛称を呼ぶな!」

 アスベルの声が図書館の中にこだました。

「すみませんアスベル様、どうでもいいです。今は」

「でもヴィヴィ……」

 尚も言い募るアスベルを、ヴィヴィアンはスルーする事にした。

「では、参ります」

 
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