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しおりを挟む翌日、リトとサランはオーサに連れられ神殿の奥であるジェリ神像の部屋の前に通された。
八角形の部屋には、四人の祈りの神官が待っており、オーサはそのまま勤めへと帰って行く。
まさか、診断がジェリ神像の御前で行われるとはと、リトとサランは緊張していた。
「お二人とも緊張せずに。ここは滅多に入れる場所ではありませんから、無理も無いですが。この後カキー大司教がいらっしゃいますので、その後に続いて中へ。おしゃべりは禁止です。カキー大司教の指示に従って、ジェリ神様の御前でお祈りを捧げて下さい。その後は退室の指示が出るでしょうから、黙ってこちらに戻って来てください。こちらで大司教より診断の結果が説明されます。そこで、今後の神殿でのお勤めが決まります」
一人の神官が前に出て説明すると、すぐにリト達が入って来た扉が開き、一人の神官と共にカキーが入ってくる。
焦茶のモンク・ローブに、深緑のフェロンを纏い、長い黒髪を一つに束ねたカキーは、現王に良く似ていた。
それでも、神殿で日々鍛えられ、逞しい体をしている。
皆で膝を付き、頭を下げる。
「診断を始めよう。リト・バーグとサラン・ヒャルド。こちらへ」
「「はい」」
カキーに名を呼ばれ、二人は神官達に頭を下げると、奥の部屋への扉が開かれる。
ゆっくりと下へ下がる長い廊下の先には、厳重な石造りの扉があり、二人の神殿騎士が警備をしていた。
カキーが扉に手を当てると、扉に金色の光が走り、ゆっくりと音を立てて開いて行く。
あまりの美しさに、二人は息を呑んだ。
地下へ下ったはずなのに、部屋は光に満ちており、中央には右手を胸に当て左手を空に掲げる全裸に右肩から緑のショールを纏う、ジェリ神の像が立っている。
ジェリ神は胸の膨らみがあるが男性器も持ち合わせており、身体つきは柔らかい様に表現される事が多い。
昔、女性と言う性別があった名残だと伝えられており、その為男性しか存在しない現在も、女性的と言う言葉が使われるのだ。
髪と瞳の色は黒であり、肌は乳白色をしていて頬は薄ら桃色。
唇は赤く、大層美しい顔立ちで、優しく微笑んでいる。
これは色をつけた石像ではなく、魔力で色を浮き上らせているのだ。
神々しいとリトもサランも思った。
深緑の神であるジェリ神は、大地と緑を豊かにする神で、何千年も前からこの世界で広く信仰されている。
海のガラー神とは仲の良い兄弟であり、海のある国はガラー神を主に信仰する様に、緑の多いココーダはジェリ神を信仰していた。
二つを有する国は二つを信仰し、その信仰によってモンク・ローブやフェロンの色が違う。
どちらも兄弟神である事から、どちらの神殿にも、兄弟の像が一緒に飾られているのが普通である。
ジェリ神の隣には、ガタイの良い日焼けした肌色の大きな男性が腰掛けている像が置かれている。
こちらも右手を胸に当て、左手を空に向け微笑んでいる。
黒い髪に黒い瞳で、顔立ちは精悍で体も逞しく男性的であり、こちらは右肩に青色のショールを纏っている。
ガラー神を祀る国では立ち位置が逆になっており、どちらも祀る国はどちらも立って表現されることが多い。
「ジェリ神に祈りを」
カキーの声に、リトとサランは膝を突き、ペンダントの一つ石を両手で握りしめ、瞳を閉じて祈りを捧げる。
二人は目を瞑っていて気付かなかったが、二人が祈りを捧げると、ジェリ神が一層光り輝いたのを、カキーは力強く頷いて見つめていた。
「…よろしい。二人とも、先程の部屋へ」
カキーの言葉に従い、黙って外に出る。
扉の前の神殿騎士に頭を下げ、そのまま静かに廊下を進む。
八角系の部屋に戻ると、神官達が静かに祈りを捧げていた。
そこに、少し遅れてカキーが入ってくると、奥への扉は再び閉められた。
「ジェリ神が喜びにより光り輝いた。二人とも素晴らしい魔力の持ち主である」
カキーの言葉に、二人は頭を下げる。
光り輝いたと言う言葉に、神官達も膝を付き祈りを深くした。
「どちらも加護の才能がある。サランは何が得意か」
カキーの質問に、サランが刺繍だと答えると、何かないかと聞かれる。
「こちらに、サランより頂いたハンカチがございます。今着ている服の袖の刺繍も、サランのものです」
リトがハンカチを差し出すと、カキーは手に取り、感心した様に大きく頷く。
「素晴らしい刺繍だ。そして防御の加護の魔力がしっかりと掛けられている。サラン。君には刺繍部屋で加護縫いをしてもらいたい。他に希望する所はあるか」
「いいえ、刺繍部屋にて勤めさせて頂きます」
サランの返事にカキー頷いて微笑む。
そして、ハンカチをリトに返すと、次はリトの番だと口を開く。
「リトも加護の力があるが、サランより大きく感じる。何かに力を授けた事はあるか」
カキーの質問に、リトは頷き先程の一つ石のネックレスを差し出す。
サランも、リトから貰った石を差し出した。
「石に癒しの力を注いであります」
「聖品にか…。何と、これはどちらもリトが?」
二人から石を受け取ったカキーは、驚いた顔をする。
リトが頷くと、カキーはそうかと大きく頷いた。
石に魔力を注ぐ事は出来るが、これ程多くの力を注がれた石は、カキーも初めて見たのだ。
「これ程までに力を注げば、大抵の石は破壊される。しかし、格段に高価な石では無い。これはリトの才能だ。癒しの力を込めた石を持ち歩けば、神殿騎士達の安全に繋がる。…リトには、聖品部屋で勤めてもらいたい。他に希望する所はあるか」
必ず最後には、希望する所を確認するのが、神殿のルールである。
今が実力不足と判断されても、そちらを試す事が許されているのだ。
「いいえ、聖品部屋にて勤めさせて頂きます」
リトは力強く答え、カキーは大変満足した様に頷いた。
「これにて診断を終える。それぞれの部屋に案内するので付いてくる様に」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
カキーが案内すると言うと、カキーと共に来た神官が、スッとカキーの背後に立つ。
黒髪黒目の美しい青年で、背はリトと同じ位だが体は鍛えられており、涼しげな目元が特徴的だ。
モンク・ローブとフェロンを着ているが、フェロンの下には小さな剣を隠している。
「ああ、彼はマト。私の護衛も兼ねている神官の一人だ。さ、行こう」
マトは軽くリト達に頭を下げ、カキーの後に続く。
その後を、リトとサランは歩き出す。
部屋を出る前に、神官達にお辞儀をすると、皆は微笑んで手を振ってくれた。
そのままカキーの後に続いて行くと、神殿の二階に上がる。
神殿は五階建てで、実は先程のジェリ神像のあった部屋は五階なのだと聞かされた。
あの廊下には魔術が掛かっており、そのまま五階へと繋がっている。
五階へ行く階段は無く、あの廊下からしか行けないのだと言う。
一階は治癒や崇拝に来る民達の場所であり、二階が織物や縫物の作業場。
三階には食堂や音楽部屋があると説明を受ける。
四階には大司教の部屋と、会議室や来賓室がある。
階段にはそれぞれ魔術で動く椅子が設置されているので、階段の登り降りが難しい人も簡単に上がれる様になっていた。
どの部屋も扉は開放されており、外からの光も十分取り込まれている。
「さ、こちらがサランが勤める刺繍部屋だ。織物部屋の一部だな。染物や裁縫も一緒になっている。更に隣が聖品部屋だ。トロン、カックン。来てくれ」
カキーが声を掛けると、中から責任者らしき男性が二人出てくる。
トロンと呼ばれた男性は、黒髪に茶色い瞳の、穏やかそうな男性だ。
歳は三十で、物腰は柔らかいがしっかりと鍛えた体をしていた。
織物と染め物に長けており、織物部屋の責任者だと言う。
「トロン神官。こちらはサランだ。加護縫いが出来、魔力も申し分無い」
「本当ですか!?良かった、加護縫いは中々人手がおらず、助かります。サラン殿だね。私は織物部屋の責任者をしているトロンだ。一応神官であるが、あまり気にしないでくれ。さ、こちらへ。カキー大司教、案内ありがとうございます」
「はい。よろしくお願いします。大司教ありがとうございます」
「うむ。良い勤めを期待しています」
「はい」
サランはカキーに礼を言うと、そのままトロンと共に縫物部屋に入って行く。
どうやら中で部屋が分かれている様だ。
「さて、カックン神官。こちらはリトだ。聖品に魔力を注ぐ事が出来る…」
「君か!モルト殿に見せて貰ったよ!あんなに力を注がれた石は初めて見た!」
興奮した様にカキーの話を遮るカックンを、マトが無言で小突く。
「あ、失礼しました。私は聖品部屋の責任者をしているカックンです。私も一応は神官ですが、気にしないで。聖品部屋は主に加工者でね。加護を与えられる人は滅多にいないんだ。良かったら、その様子を見せて頂きたい。さ、中へどうぞ。大司教ありがとうございます」
カックンはリトと同じ様に長い銀髪を一つに結んだ碧眼の青年で、今年二十五になる。
石の加工の仕事が多い為か大変鍛えられた体をしていた。
「はい。よろしくお願いします。大司教ありがとうございました」
「うむ。良い勤めを期待しています。…カックンは失礼な事も多いだろうが、根は良い奴だから」
「はい」
リトもカキーに礼を言うと、カックンの後へ続く。
気づけば、何人かが内窓からカキーを見ていた。
大司教は大人気なんだなと、リトは思いつつ、カックンの後に続く。
中は綺麗に掃除されているが、カンカンと石や宝石を叩いたり削ったりする音が響いている。
「皆、新しい仲間だ。ちょっと集まって」
カックンの声に、何だ何だと十五人程がが集まる。
皆体格が良く、二の腕は筋肉隆々だ。
(私、場違いでは…)
急に不安になるリトを、皆が笑顔で迎える。
「もしかして、例の石の人?」
「本当に?」
興味津々と言った彼らの視線には悪意は無く、リトはホッとする。
「そうだよ!聖品に加護を授ける事が出来る、リト殿だ」
カックンが胸を張って言うと、何であなたが偉そうなんだと笑いが起きる。
「あの聖品の?少し見てみたいですね」
逞しい男性陣の中で、線の細い黒髪緑眼の青年が、ワクワクと言った感じでリトに近づく。
可愛らしい顔をしている、宝石加工のピピだと名乗った。
「こらこらピピ。そんな簡単に出来ると思うな」
カックンが注意するが、リトは大丈夫ですと微笑んだ。
「どの石になさいますか?」
そう言うと、カックンは目を見開いた。
まさかこの状態で、出来る作業とは思わなかったのだ。
「…ええと。この石を使ってください」
ピピがおずおずと、綺麗に磨かれたピンクトルマリンを差し出す。
「それでは、お預かりしますね」
リトはその石を両手で握り締め、目を閉じて静かに祈りを捧げ出す。
ざわついていた室内が、一気に静寂に包まれる。
リトの手に、美しい光がキラキラと輝いて集まる。
ほんのりとリトの美しい顔が照らされ、まるで神の化身の様だと誰もが思った程だ。
五分程でリトが目を開くと、皆が一斉に見つめている事に気が付いた。
「…終わりました」
「もう!?」
リトが石を差し出すと、カックンはそれを手に取り確認する。
どうやらカックンは、見た目や話し方以上に力のある神官の様だ。
「素晴らしい…!私以上に加護の力があるよ。いや、私のお師匠様以上だ」
カックンのセリフに、周りは騒然とした。
どうやら、リトの加護の力は歴代の中でも高い様だ。
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