婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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「そうそう、一応私も加護を与える事が出来るんだ。君程の力は無いけれどね!私の作業は主に魔力での石の分別や、加工しやすい様に割る事。あとは石像造りだ」

あっけらかんと話すカックンに、リトはどう返したら良いか分からず、微笑んでおいた。

カックンの簡単な作業ばかりなんだと言う言葉に、周りが魔石割りなんて、そうそう簡単に出来る訳ないだろとツッコミを入れており、やはりカックンは実力者なんだと悟る。

宝石もだが、魔石は大変硬く割りづらい。

大抵は魔力で細かく割るのだが、加工用に美しく割るのはやはりそれなりに高い魔力と才能が必要なのだ。

「よし皆勤めに戻って良いよ~!リト殿はピピの隣に席を用意してあるから、そこで加工済みの石に魔力を注いで欲しい。でも、あまり無理はしないでね?結構体力使うから」

カックンに指示され、リトはピピについて行く。

周りもすごいなと褒めつつ、それ以上は検索せずに作業に戻って行く。

「ココです。必要な道具があったら教えてください。一応ルーペと磨き布は用意してあります」

「はい。ありがとうございます」

にこやかに説明するピピに、リトは礼を言って席に座る。

そしてピピは隣に座ると、一連の流れを説明してくれた。

「僕が研磨を終えた石は、カックン神官が加護を与えてから、また僕がネックレスなどに加工して、騎士団などに配布されます。今日からは、この赤いトレイに僕が研磨を終えた石を置くので、リト殿が加護を与えてください」

そう言って、深紅と紺のベルベット生地が敷かれたトレイを二人の間に置いた。

「作業が終わったら、こちらの紺のトレイに置いてください。一日の終わりには、こういった石は保管庫に入れてカックン神官が魔術で結界を張ります。カックン神官がいない時は、トロン神官にお願いします。…リト殿は結界は張れますか?」

「はい。簡単なものでしたら」

事もな気に言うリトに、ピピは驚き、周りもまた驚いていた。

「お!結界も張れるの!?石は?割れる?」

グイッと会話に入ってくるカックンに、ピピはうるさいと冷たく言い、リトは苦笑する。

フレンドリーなカックンは、周りにも愛されている様だ。

「結界は張れますが、石は割った事がありません」

石を割る魔術は、簡単そうだが複雑で、そして体力が必要なのだ。

魔力を振りかざしてぶつけるので、カックンの筋肉には納得だ。

「そっかぁ。うん、石を割るのはこちらに任せて。私がいない時などに結界はお願いしたいな」

こちらに任せてのセリフに、周りにいた人たちが筋肉を見せるポーズを取り、リトとピピは笑う。

「このお部屋に掛ければ良いんでしょうか?」

「…部屋に掛けれるの?」

またもピピが驚き、リトは周りと自分の普通の差が大きそうだと焦る。

「保管庫だけで良いよ!良かった~。これで採掘に行きやすくなった!」

ガッツポーズをするカックンに、周りも喜ぶが、ピピは冷たい視線を向ける。

「神官。リト殿は入ったばかりなんですよ。大変な仕事ばかり押し付けないでください」

ピピに注意されカックンは肩を竦める。

「弟の当たりが強くて、お兄ちゃん悲しい…」

「もう!仕事して!」

どうやら、二人は兄弟の様だ。

近くの人が、いつもの事だよと笑って教えてくれる。

仲の良い兄弟だ。

その後は、それぞれが仕事に集中しだし、さすがだとリトは思った。

カンカンと石を叩く音や、研磨の音は心地よく、リトも作業に集中する。

ピピに石の説明を聞きながら、リトは休憩しながら魔力を注ぐ。

ガラーン…ガラーン…

鐘の音が鳴り響く。

「お昼だね。他の人たちは一時間後に行く人が多いから、結界は必要無いよ。僕達は先に食事にしよう」

あっという間に昼になり、リトはピピに誘われ食堂へ向かう事になった。

食堂は広く、すでに多くの人が座っている。

長い机に長椅子で、大勢が座れる様になっている。

皆が同じメニューなので、並んで受け取り、泥水も配られる。

「パッド殿が席を確保してくれているから、そちらに行こう」

ピピについて行くと、そこにはサランやキキ、モルトと言った面々と、オーサ、パッドとメロが席に着いていた。

「さ、祈りを捧げましょう」

オーサの声に、皆が祈りを捧げる。

チラチラと視線を感じるが、リトは気にせず浄化を終える。

あまりの速さに、少しざわ付きが起きたが、サランやキキ、モルトも早いので気にはしなかった。

パンとひよこ豆のスープと、豚肉の塩茹でを、皆で静かに食べていると、外から歓声が上がる。

その声に、パッドは急いで食事を終えて外へ出て行く。

「どうしたんでしょう」

リトが不思議そうに聞くと、オーサが遠征に出ていた騎士達の帰還だと教えてくれた。

「あ、ニール…神官も帰って来たのかな?」

「そうだね、僕達も行こうか」

サランの言葉に、モルトやキキも頷き、急いで食事を終える。

「ピピ殿、私も行って来て良いでしょうか」

リトがピピに尋ねると、もちろんと了承を得る。

「ええと。…僕も夫が帰って来ているはずなので」

「そうなんですね!それなら、ご一緒しましょう」

照れながら嬉しそうに言うピピに、リトも笑顔になる。

そして食事を終えると、皆が集まっている中庭へ急いだ。

「良かった~。ナームの怪我が無いなんて久しぶりじゃない?」

「いやぁ、結構危なかったんだぜ?ニール神官とゼルブライト団長がいなかったら大変だったよ」

パッドが、嬉しそうに一人の騎士と話をしていた。

ナームと呼ばれた騎士は、短髪の黒髪と茶目の中々カッコ良く逞しい騎士で、ニコニコとパッドの腰を抱いている。

その隣に立っている、短髪茶髪で茶目の一層逞しい騎士に、ピピは駆け寄った。

「お帰りなさいタンタル。…良かった。今回は大きな怪我はありませんね」

夫の体を一通り確認し、ホッとした様に言うピピを、タンタルは笑顔で抱きしめた。

ナームやタンタルの右腕には、サランが刺繍した緑のハンカチが巻かれているのに、リトは気が付いた。

「ただいまピピ。今回は北神殿付近で魔物が大量発生していて、危なかったんだ。ニール様がお持ちになっていた加護付きのハンカチをお借りしていたから、助かったよ。加護付きの石で治癒もしてくださったから、皆元気に帰って来れた。また君を泣かせてしまうんじゃ無いかと心配していたが、本当にニール様には頭が下がるよ」

とても愛おしそうにピピを見つめて話すタンタルは、皆に囲まれているニールの近くに、ピピを連れて行く。

そこには、以前より肌の焼けた、健康的なニールが立っていた。

騎士達について行く為に鍛えた様で、身体つきも少し逞しくなっていた。

皆に囲まれ、感謝を受けるニールは、笑顔で皆に接していた。

そして、リトとサランの姿に気が付くと、嬉しそうに手を振る。

「リト!サラン!こちらに来てたんだね!」

ニールに呼ばれ、一斉に視線が集まるが、リトとサランはキキとモルトと一緒にニールの輪に加わる。

「ニール!良かった、怪我は無い…ええと」

サランがニールに駆け寄ろうとすると、一人の騎士がサランの前に立つ。

青髪に黒目で、小麦色の肌の逞しい美青年である。

ニールを呼び捨てにしたサランを睨み付けており、周りに緊張が走るが、ニールがそれを止める。

「ああ、リュート殿。彼らは私の級友達です。リト、サラン。彼は神殿騎士のリュート殿だよ」

ニールの言葉に、リュートはそれならばとサッと後ろに下がる。

何の謝罪もないリュートに、サランはムッとした様だが、気にせずにニールに抱きついた。

「おかえりなさいニール。少し逞しくなったね」

サランはそのままニールに軽口を叩く。

リトも、ハツラツとしていて、とても輝いているニールにその事を告げた。

「ありがとう。やっぱり、私は神殿で勤める方があっていた様だよ。大変な事も多いけど、頑張りがいがあるもの。そうそう、こちら。お世話になっているゼルブライト騎士団長だよ」

ニールの後ろには、一際逞しく、精悍な三十代くらいの男性が立っている。

短髪の黒髪に碧眼で、多くの遠征に出ている中央神殿騎士団団長のゼルブライトである。

「ゼルブライト団長。こちらが、加護縫いのハンカチをくれたサランと、癒しの石をくれたリトです」

ニールがゼルブライトにリト達を紹介すると、周りの騎士達も一斉にこちらを見た。

「なんと!ハンカチと石には大変助けられました。魔物を寄せ付けない加護で、戦闘も優位になりましたし、怪我を負った騎士達の治癒も、ニール神官と石のおかげですっかり良くなりましたよ。待っている家族や恋人達に、悲しい思いをさせてしまうばかりでしたので、本当に感謝しています」

ゼルブライトからの感謝の言葉に、リトとサランは顔を見合わせて頷いておいた。

まさか、そんな形で活躍しているとは思っていなかった二人に、周りも口々に感謝を告げる。

「やはりリト殿の石だったんですね。夫はいつも酷い怪我をして帰って来るので、今回も心配していたのですが。ありがとうございます」

ピピの言葉に、リトもサランも、くすぐったい感覚を覚えた。

こうやって誰かの為に使用され、感謝されるのは初めてだったからだ。

「いえ、ニールが上手く使用出来たからですよ。皆さんご無事で良かった」

リトの言葉に、サランも笑顔で頷く。

驕りたかぶらない二人の態度に、周りは好印象を抱いた様だった。

そこに、カキーも姿を見せる。

「ああ、皆楽にして良い。ゼルブライト団長、ニール神官。神殿騎士団の皆、ご苦労様でした。ふむ。その石とハンカチはやはりそちらの二人の?」

膝を付こうとする周りを止め、騎士達に労いの声をかけるカキーは、ニールのハンカチと石に着目する。

「はい、そうです」

ニールが笑顔で答えると、二人がそれぞれ刺繍部屋と聖品部屋に勤める事になったと告げる。

「そうなんですね!良かった。二人が早く神殿に慣れる様に、私も協力するよ。次の遠征は来月くらいだからね」

ニールの言葉に、リトもサランも笑顔で頷く。

「こちらの神殿は、素晴らしい布だけでなく糸も良いから、刺繍が捗るよ。王都でも中々手に入らないもの」

サランがそう言うと、パッドが胸を張って見せたので、ナームに小突かれていた。

「石も、とてもキレイに加工されています。私もサランも、無理はしない様にですが、騎士団の方々に行き渡る様努めます。…皆さんお怪我が多かったんですね」

リトがそう言うと、ゼルブライトが頷く。

「最近特に魔物が増えて、更に凶暴化していてね。前回はナームもタンタルも大怪我をしてしまったから、奥方や恋人が大騒ぎしてね。愛されていて羨ましいよ」

「もう!ゼルブライト団長!」

ゼルブライトがからかうと、パッドが怒るが、それが照れているだけだと誰もが理解していた。

和やかな空気で帰還を喜んでいたら、神殿から騎士が走ってくる。

「カキー大司教!」

「どうしたのだ、そんなに慌てて」

カキーが驚いていると、騎士は息を整えながら、カキーに頭を下げ報告する。

「それが、ルーベルト殿下を含む数名の騎士が護衛をし、聖者様がこちらにいらしています」

「なんと!」

いきなりの訪問に、周りも騒然となる。

「現在は混乱を避ける為、神殿内部に通してあります。お急ぎこちらへ」

「すぐに行こう。すまない、報告は後で」

カキーはそう言うと、マトを連れて神殿へ急ぐ。

急な訪問に、周りも顔を見合わせて囁き合っている。

「…リト、大丈夫?」

キキが、表情が強張ったリトをそっと気遣う。

「ええ、すみません。驚いてしまって。殿下と私がお会いする事は無いでしょうから」

リトがそう言うと、ピピは不思議そうな顔をしていたが、何かに気付いた様にまさかとリトを見つめていた。


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