婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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昼の休憩を終え、リト達はそれぞれの持ち場へ戻る。

何かに勘付いたであろうピピは、それでもリトに深くを聞かず、黙々と仕事に専念してくれている。

聖者が召喚されてから、二ヶ月半は過ぎている。

その間、聖者とルーベルトに何があったのかは知らないが、護衛としてついて来ていると言うことは、悪い関係では無いのだろう。

そんな事をついつい考えてしまい、リトは集中する様に息を吐いた。

「…リト殿。今日のお勤めはそれくらいで良いですよ」

不意にピピに声を掛けられ、集中が途切れてしまった事を謝ると、今日の分の石が終わったのだと苦笑される。

「ここは、仕事が早く終わったら、早く上がっても良いんですよ」

ピピに説明され、リトは残りの時間はと尋ねた。

すると、カックンがニマニマしながら話に入って来る。

「ピピは愛しの旦那様が帰って来たからね!早く帰りたいのさ!」

「今日の分は終わってます!」

二人のやり取りをみて、そうかとリトは頷く。

織物部屋のパッドも早く上がった様子だったし、同じ部屋の数人も早く帰宅して行ったので、そう言った自由があるのだと納得した。

「毎回だと困るけど、こういった時は早く上がっても大丈夫なんだよ。ほら、ピピは早くお帰り。リト殿は神殿の探索でもしてから帰れば良いよ。他の場所の見学も自由だからね」

責任者が言うのなら、大丈夫なんだろうとリトは帰宅の準備をする。

「それでは、お先に失礼します」

「失礼します」

ピピと共に部屋を出ると、皆がお疲れ様と声を掛けてくれる。

初めてのお勤めは、何とか終える事が出来たなと、リトはホッとしていた。

「リト殿は、何処か見て周りたい所とかあるの?」

ピピに聞かれ、リトはまだ会えていないマーチをと考えたが、夕食の時に会えるとニールが話していた事を思い出す。

「そうですね。もうすぐ午後の音楽の時間でしょうから、音楽隊の見学をしてから帰ろうかと思います」

リトがそう言うと、ピピはそれならこっちだよと案内をしてくれる。

三階へ続く階段を上がると、音楽が聞こえて来る。

あちらかなと思っていたら、リトの目の前に一人の王都の騎士が立ち塞がった。

「リト様。カキー大司教とルーベルト殿下が、引見を望まれております。お時間よろしいでしょうか」

良く見ると、ルーベルトの護衛の一人である。

困惑するピピに、リトは大丈夫ですと声を掛けた。

「ピピ殿、どうぞお先にお帰りください」

「ええ。わかりました…」

不安そうな顔のピピに音楽室までの案内の礼を言って、リトは騎士について行く。

四階が貴賓室だと説明を受けていたので、そちらになるのだろうと、リトは考えていた。

今更。

そんな感情を抱き、リトはいけないと反省する。

それでも、今更何の話だろうとリトは思った。

(聖者様は、ルーベルト殿下を選ばれたんだろうか)

ぼんやりと考えながら、騎士の後について行くと、扉の前でこちらを振り向いた。

来賓室には、さすがに扉があるのだなと、リトは納得する。

「どうぞ。中でお待ちです」

「はい。リト・バーグです。失礼します」

名を名乗ってから、リトは開かれた扉をくぐる。

中には、質素であるが応接セットがあり、大司教と聖者トーマ、そしてルーベルトが腰掛けていた。

トーマの服装は召喚時と同じ様な、白いシャツと黒いスラックスに革靴だった。

召喚時より少し体が成長した様に見える。

まさかトーマがいるとは思わず、リトはスッと膝を付き頭を下げた。

「…リト、頭を上げてどうぞこちらへ」

カキーの言葉に、リトはそのままカキーの横のソファーに座る。

隣にはわざわざ席が他にも用意されているので、まだ誰かが来るのだろう。

(どういった並びなんだろう)

リトが不思議に思っていると、また扉が開きニール、キキ、モルト、サランまで勢揃いで入って来た。

聖者の存在に驚いていたが、カキーに促されリトの隣にサランとニールが座り、その隣のソファーにキキとモルトが座る。

ルーベルトは一人で座り、カキーとトーマは隣同士に座っている。

ルーベルトの後ろには、護衛として来たのであろう、キキの元婚約者のパドックが立っていた。

短髪金髪で茶色い瞳の、歳はルーベルトと同じ位だが、顔立ちは幼く見える。

音楽にあまり興味が無く、キキはよく彼に演奏会をキャンセルされると愚痴を言っていた。

パドックはキキを見ているが、キキはパドックを見向きもせず、カキーが会話を始めるのを待っていた。

「いきなりすまないね。皆今日の作業は?」

「私は今日は早上がりの許可が出ました。その後は音楽隊の見学をしようかと考えておりました」

カキーにリトがそう説明すると、そうかと頷いた。

サランとモルトは作業を切り上げて来た様で、キキは演奏時間は過ぎそうなので、今日の時間は大丈夫だと答えた。

そして、カキーがトーマを促すと、トーマはリト達をしっかりと見つめて話し始める。

やはり美しく、とても可愛らしい顔をしているなと、リトはぼんやりと思った。

「初めまして。僕はトーマ・スズキです。今回、僕の軽率な発言で、多くの方が婚約破棄をしたと聞きました。僕は、神様から子供を成す許可は頂いたのですが、その事を告げる事が何を意味するか、この国で何が起こるかを理解していませんでした」

トーマの話を、リト達は頷きながら聞く。

「僕の暮らしていた世界では、もちろん政略結婚などもありましたが、僕の周りは恋愛結婚が多かったのですし、貴族と言う階級も身近ではありませんでした。僕が聖者として召喚され、子を成すと発表した時に、こちらの国の貴族がどう動くかを理解していなかったのです」

トーマの真剣な眼差しに、リトはやはり周りの貴族に翻弄されてしまったのだと知る

その後のカキーの説明では、本来なら一ヶ月王城で過ごし、その後は神殿に来る予定だったのだとか。

周りの貴族が色々と邪魔をした為、中々神殿に来る事が出来なかったとのことだった。

ニールやキキは呆れた様な顔をしていた。

業を煮やしたトーマは、王に直談判してこちらに来たと言う。

「本来は、僕がどちらで暮らしていくかを決めて良いと言われていたのですが、中々王都から出して貰えず。聞けば、婚約破棄の話まで出て来ました。王都で婚約者を作り、王都に住んで欲しいとまで言われました」

少し怒った様な言い方に、リトはトーマがそれを望まなかったのだと悟る。

サラン達も、貴族達の勝手な動きにトーマも振り回されていたのだろうと悟る。

「…陛下は何と」

静かに聞いていたカキーも、険しい顔をしている。

「陛下は僕の好きにして良いと。婚約も、婚約破棄も僕に責任は無いとおっしゃってくださいました。しかし、僕の認識不足のせいでもあります。今回、こちらに来る事が出来ましたので、不当に婚約破棄されてしまった方々に謝罪したいと…。皆さんには申し訳ないことをしました」

何て責任感の強い方なのだろう。

異世界から召喚された、若い青年が、自分の行いによって起きてしまった事に胸を痛め、謝罪をしている。

リトは感激しながら、首を振りトーマに優しく微笑んだ。

「私はバーグ公爵家次男のリトと申します。聖者様に責任はございません。婚約破棄も、きちんと殿下より家へ慰謝料を頂いておりますので。それに私は神殿に来る事が出来て、とても良かったと感じております」

フォローのつもりの発言に、ルーベルトは少し驚いた顔をしていた。

何を驚く事があるのだろうと、リトは不思議に思ったが、その様子をカキーは少し冷めた目で見ていた。

「…ルーベルト殿下。そう言えば殿下は本日どの様なご用でいらっしゃったのですか」

護衛は他の者で十分でしょうとカキーが問うと、ルーベルトはバツの悪い顔になる。

確かにルーベルトは騎士ではあるが、特別腕が良い訳では無い。

「リト。君がルーベルト殿下の婚約者であった事は知っていたが、どの様に破棄されたのか教えてくれないか」

カキーはルーベルトの返事を待たず、リトに問いかけた。

「実家より手紙が届きました」

「手紙?」

「はい。婚約解消が決まったとの手紙です。その後の手続きは母が行ってくださいましたので、特に問題は無かったと…」

どんどん険しくなるカキーの表情に、リトは何が不味い事でも言ってしまっただろうかと不安になる。

サランやニール達は、うんうんと頷いていたので、何も問題は無いだろうけどと、リトはカキーの言葉を待った。

「ルーベルト殿下。あなたは長年婚約者として日々務めて来た者に、手紙だけで済ませたと言うのですか?王族ともあろう方が…!」

「叔父上…」

弱った声を出すルーベルトを見て、リトはカキーは国王の弟だから、ルーベルトの叔父だったなと思い出した。

「殿下。リトは本来でしたら皇太子のコーリー殿下の婚約者でもおかしく無かったんです。それを、国王陛下や王妃。そしてイザベイル様が太い後ろ盾をあなたにと望んだ為、リトと殿下の婚約が結ばれたのです」

そうだったのかとリトは驚いていたが、それ以上にルーベルトも驚いていた。

「まったく…。殿下の婚約破棄は独断とお聞きしました。どこの誰に何を吹き込まれたのかは知りませんが。リトのご実家であるバーグ公爵家当主ライト殿は、商才で優れているだけで無く、センドの王室の血筋です。そしてお父上であるザルク殿は、元は神殿騎士であり私の仲間でもありました」

それは初耳だと、リトもカキーを見つめる。

父親はずっと騎士であったが、まさか神殿騎士でもあったとは。

リトのザルクの父親像は母親を溺愛しており、家族想いの強く逞しい騎士だ。

「ザルク殿は、私と共に腐った神殿に風穴を開けるべく奮闘してくださいました。現在の団長であるゼルブライトも彼の教え子の一人ですよ。私と一緒に神殿でと思っていましたが、ライト殿に出会い、お互いを思い合った結果、ライト殿と結婚し公爵家へ婿入りしたのです。その当時はザルク殿は平民でしたが、陛下が騎士として遠征に参加していた時に、命を張ってお守りした功績に、爵位を授かり結婚が許されたのです」

リトは両親に恋愛結婚だとは聞いており、その内容も知っていたのだが、ルーベルトは初耳の様で驚きながらも黙って聞いている。

「秀でた商才を持ち、センドとの交流を深めるきっかけになったバーグ公爵家も、神殿騎士にルーツを持ち、王都の騎士団でも素晴らしい成果を挙げているザルク殿も、現国王にとって大事なのです。そのご子息との婚約と言うのは、とても恵まれていたのですよ」

バーグ家はセンドとの窓口とも言われているし、血筋的に現王妃との繋がりもある。

神殿騎士と王都の騎士団に顔が効くザルクの存在は、騎士としてこれ以上無い後ろ盾だ。

その事に気付いたルーベルトは、顔を青くしていた。

妾妃の息子であるルーベルトが与えられる婚約にしては、とても恵まれていたと気が付いたのだろう。

「…」

「まぁ今回、婚約破棄の騒動のきっかけになったのが殿下で無かった事だけが救いですが。…リトは、婚約破棄について何か不満はありませんでしたか」

カキーの言葉に、慰謝料もしっかり頂いているしなと、リトは首を振る。

「先程申し上げたい通りです。不満はございません。私はこのまま、神殿で勤めさせて頂ければそれで十分です」

笑顔でそう告げるリトを、ルーベルトは黙って見つめていた。

リトは気が付いていないが、ルーベルトとの婚約破棄を悲しんでいないと、ハッキリ告げた様なものだった。

サラン達は、よく言ったと心の中で拳を握ったくらいだ。


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