婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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「…そうですか。それでは、他の方々はどうでしょうか」

呆然とリトを見るルーベルトを尻目に、話は進んで行く。

トーマも置いてきぼりな状態ではあるが、皆の意見を聞きたいと真剣に話を聞いていた。

サランやニール達は顔を見合わせると、まずは私からとニールが名乗りを上げる。

「トーマ様。彼は祈りの神官のニールです」

神官と言う言葉に、ルーベルトや王都騎士は騒ついた。

婚約破棄からの神殿行きで、卒業も最近なのであまりの速さの昇進である。

「初めまして聖者様。私はロード伯爵家の三男、ニールと申します。見ての通り、黒髪黒目で魔力が高い為、現在は神殿騎士団の方々の遠征にご一緒して、浄化をお手伝いしております」

ニールについては、騎士団についての遠征や浄化などをカキーが説明し、トーマは感謝を述べた。

「私は、この髪と瞳の色から魔力の高さが分かり、嫡男である兄を差し置いて後継にと言う声が出てしましました。その際に、モンド公爵家から婚約の話を頂きまして。おかげさまで、兄とは仲良く育つ事が出来ましたので、感謝しております。婚約破棄の際は、私の立場で兄に迷惑が掛かるのではと不安になりましたが、親族に神殿を勧められ、こちらに参りました」

ニールの説明を、トーマは真剣に聞いている。

「結果的に、私は神官の位を頂きましたし、こちらの生活を選んだ事は間違いなかったと確信しております。いきなりの婚約破棄に、それまでの行いを無碍にされた気持ちは確かにございましたが、それ以上に心が自由に過ごせております。今回の婚約破棄も、貴族的考えからしたら仕方の無い事だと理解しております故、どうぞ聖者様はお気になさらないでください」

ニールがそこまで言い切ると、王都騎士達の表情は固くなっていく。

責められない、仕方の無い事だと割り切れる間柄だったのだと、言っている様なものだからだろう。

それに、婚約破棄されても、すぐに神官になれる程の実力があったとアピールもしている。

「僕はヒャルド伯爵家の三男、サランと申します。現在は神殿で加護縫いに従事しております。元々刺繍が趣味でしたので、加護縫いでこちらの方々のお役に立てると分かり、与えられた勤めに感謝しております。婚約破棄に関しましては、貴族的な戦略もあったでしょうから、お相手を責めるつもりはございません。僕も、こちらの生活が続く事を熱望しておりますので、どうぞお気になさらないでください」

サランが美しく微笑んで言うと、トーマは圧倒されつつも頷く。

次はモルトが、少し言いにくそうに話し出す。

「僕は、ランドル男爵家次男のモルトと申します。現在は、こちらで染め物や織物に従事しております。…僕のお相手は、幼馴染の伯爵家でしたが」

言って良いものかと黙るモルトを、キキが優しく促す。

意を決した様に、モルトはトーマを見る。

「お相手は、僕がずっと思いを寄せていた方でした。婚約が決まった時はとても嬉しかった事を覚えております。ですので、今回の婚約破棄は、とても悲しい出来事でした」

モルトの言葉を、トーマは噛み締めながらしっかりと聞いている。

耳が痛いであろう王都騎士達も、静かに聞いている。

「ですが、こちらに来てから自分の視野の狭さに気が付きました。貴族の世界でしか生きられないと思っておりましたが、神殿は暖かく、自由で。穏やかな気持ちで朝を迎え、感謝の気持ちで眠りにつく事が出来ます。聖者様の召喚は、確かに僕の人生を変えましたが、僕はとても充実した日々を送っております。ですから、どうかお気になさらないでください」

長年好いていた、自分を裏切った男よりも、神殿での暮らしの方が良い。

はっきりと言い切ったモルトを、リト達は笑顔で称えた。

責められる覚悟で来たトーマは、神殿に来た事を喜んでいると言うリト達に、困惑しつつ、最後にキキを見る。

「私はタルバンス伯爵家次男のキキと申します。タルバンスは音楽一家でして、私もヴァイオリンを嗜んでおり音楽隊に従事しております。私の場合は音楽さえ続ける事が出来るのなら、行き先は貴族でも神殿でも良かったのです。ですので、婚約破棄については特に文句も何もございませんね。結果的に、神殿で音楽を奏る素晴らしさを知りましたし、周りも素晴らしい方々ですので、音楽に理解のあるこちらで暮らせる現状に大変満足しております」

キキが笑顔で言い切ると、トーマもだが元婚約者のパドックも驚いていた。

自分との婚約はどっちでも良かったと言い切ったのだから。

「…恋愛結婚でしたら、裏切られたと悲しんだでしょうが、お家同士の政略結婚ですからね。お相手だけの問題ではありませんし、縁が無かったと言う事です。切られた縁がまた結ばれる事も無いでしょうし、それぞれ慰謝料もしっかり頂いておりますので。現在こちらにいる婚約破棄された者達は、そう言った考えですよ。終わった事の一つとして捉えております」

トドメの様にニールが言うと、パドックもルーベルトも視線を逸らしていた。

全ての話を聞いて、トーマは小さく頷いた。

「そうでしたか…。いえ、皆さんが今の生活に満足しているのなら、僕は余計な事は言いません。僕から見ても、皆さんはとても生き生きと神殿での生活をされている。僕の謝罪は逆に失礼だと感じました」

トーマの言葉に、リト達は頷いた。

でもでもだってで謝罪を強行する方では無い。

自分の過ちを反省して、その成り行きをしっかり受け止める事が出来るトーマに、リト達は好感を覚える。

一通り話を聞いていたカキーも、大変満足そうに頷いていた。

「さて、トーマ様は神殿での生活も試したいとの事でしたね。こちらには寝泊まり出来る部屋もありますので、どうぞ今日からお過ごしください。王都に比べれば質素で不便かもしれませんが…」

「もちろんです。ありがとうございます」

嬉しそうに頭を下げるトーマに、カキーは笑顔でさっさと話を進める。

「マト。神官達に伝達して部屋と服の用意を。ジェリ神様への挨拶に向かいます。さ、トーマ様。神官に案内させます」

マトがすぐさま神官を呼ぶと、祈りの間の神官達がゾロゾロと入室し、トーマに頭を下げてそのまま連れ立って行く。

彼らはマトと同じで護衛も兼ねており、トーマはリト達にそれではと挨拶をして出て行った。

立ち上がったトーマを見て、やはり背が伸びて少し体が大きくなっているなとリトは気付いた。

どうやらトーマは、王都から出られない間も腐らず、王都で体を鍛えたりしていたのだろう。

「…ルーベルト殿下達はお帰りですね。お見送り致します」

サッと立ち上がり、ルーベルトを促すカキーに、ルーベルトも周りも押され気味だ。

「…リトと、少し話をさせて欲しい」

ルーベルトの言葉に、カキーは片眉を上げ、リトを見る。

今更話す事などあっただろうか。

それでも、わざわざ出向いたルーベルトを無碍には出来ず、リトは部屋に留まる事にした。

心配だからと、サラン達も残ってくれたのが心強い。

「リトが良いのなら。そうそう、この部屋での会話に不敬などと言い出さない様にお願いしますよ」

カキーはそうルーベルトや護衛の騎士に釘を刺すと、終わったら呼ぶ様にと部屋を後にした。

部屋が広い為、サラン達は離れた席に座って待ってくれる事になった。

ルーベルトの護衛も、距離を置く。

「…」

「ルーベルト殿下。お話とは」

一向に切り出さないルーベルトに、リトから話を切り出す。

いつもは、リトはルーベルトが会話を始めるまでじっと待っていた為、ルーベルトは少し驚いた顔をしていた。

婚約者でも無い今は、そんな事に付き合う必要も無いだろうとリトは考えていた。

「…婚約破棄について。君に、きちんと謝罪をしなかった事を詫びたい」

搾り出すように言ったルーベルトの言葉に、リトは顔には出さず呆れていた。

本当に今更な話である。

「いえ、どうぞお気になさらず」

それ以上言う事も無い為、リトは簡潔に返事をする。

その様子を、サラン達は応援しながら眺めている。

『今更謝罪とは…』

『終わった話ですしね。リトも困るでしょうに』

『それより、今日は食堂でマーチに会えるかな?』

『ええ、ですが、私達とは別の部隊で遠征に出掛けていたガン殿が帰省されたから、早く帰るかもしれないね』

リトが気にしない様に、別の会話で盛り上がるニール達に、リトは感謝しつつ会話を続けた。

「ルーベルト殿下。長きに渡り、婚約者として良くして頂きありがとうございました」

「…私は良い婚約者では無かっただろう」

リトの義務的な礼に、ルーベルトは嫌味の様に呟く。

いつも紳士的であったルーベルトの、違った一面が見えた様な気がして、リトは少し面白いと思ってしまったが。

「花も、カードも、花屋に頼んだ同じものを。毎回君は何も言わずに受け取っていたね」

「そうですね」

「お茶やデート。買い物も碌に付き合わない私は、君にとって良くしてくれた婚約者だったか」

サラン達から、鋭い視線を感じているだろうルーベルトは、それでもリトとの会話を続ける。

「たった一枚の手紙で、納得できたのか」

責める様な言い方に、リトはルーベルトはきっとトーマに振られたのだろうと察する。

馬鹿な人だなと。

やはりトーマは、王家の意向で結ばれた婚約を破棄し、聖者に盲信した王子を選ぶ様な方では無かったと安心すらした。

「…王家からの打診と言う名の元に始まった婚約です。紙切れ一枚で終わっても不思議ではないでしょう」

打診と言う名の命令ですけれど。

口には出さず、少し冷たく言い放つリトを、ルーベルトは呆然と見ていた。

しかし、この婚約破棄については、自分も反省するべき所があったと、リトはルーベルトに告げる。

「周りの方々のお相手から受けるとしての対応を見て、殿下が私との婚約に乗り気で無い事は存じ上げておりました」

「…リト」

「私も、両親と兄が恋愛結婚に近いものですので、殿下との婚約が決まった当初は落胆しましたし」

護衛の騎士が一瞬殺気を送るが、ニールの鋭い眼光にすぐに収まる。

『カキー大司教のお言葉をお忘れですか』

この部屋での会話は、不敬など気にせずに、しっかりと話してこいと、カキーはそう言ったのだ。

「その為、失礼ながらルーベルト殿下との結婚に期待ございませんでした。貴族として、バーグ公爵家の一人としての勤めと思い、日々を過ごして来たまでです。妻となれば、おのずと二人で築くものもあるだろうと考えておりましたので、殿下との結婚に希望が無かった訳ではありません。ですが、今回の婚約破棄で私は自分のを知る事が出来ました」

出会ってこんなに話すのは、初めてでは無いだろうかとリトもルーベルトも思っていた。

ルーベルトは、リトの会話を黙って聞いている。

「私は神殿にて、聖品に癒しの加護を与える役目を頂きました。今後、その聖品で神殿騎士の方々が無事に帰還出来る様になるとも言われました。王都での治癒も大切な役目ではありましたが、瘴気による民への被害を減らす為に日々過酷な勤務をなさっている神殿騎士の方々などの助けになる仕事は、誇るべきものですので」

リトの力強い言葉に、ルーベルトはただただ頷くだけだ。

「この仕事に就く機会を与えてくださったのは、殿下からの婚約破棄です。確かに、今までの事を無碍にされた気持ちはありましたが、ただそれだけでございます。…殿下に恋焦がれていましたら、考え方も変わっていたとは思いますが。殿下も別の方を思っての婚約破棄だったのでしょう?」

トーマの名は出さずに、リトはルーベルトを見つめる。

ここではっきりと言えるかどうかが、ルーベルトの今後のサラン達の心象に関わりそうだと、リトは思った。









   

  

 


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