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しおりを挟む「お騒がせしました。午後からは作業に戻ります」
リトがピピにそう言うと、ピピは気にしないでと笑った。
「事前にしっかり結界も張ってくれましたし、騎士の方々をやり込めてくださって、私は胸がすきましたよ。リト殿、お強いんですね」
そう言われ、リトはたまたまですと苦笑する。
「一応は父や兄から訓練を受けていましたので。それに、あの三人が特別弱かっただけですよ。他の方々は大人しく試験を受けたのでしょうか?」
リトが他の試験者がどうなったのかと聞くと、ピピは苦笑する。
「午前中の手合わせで、半分以下になったみたいですね。あ、ほら。残った方々は昼から訓練に参加するみたいですよ」
ピピが外に目をやると、残ったであろう王都の騎士がゼルブライトの指示を受けている所だった。
(五人ですか。三人は、父様の所の騎士ですね。あとはやはりアンドリュー殿とベル殿は残りましたか)
リトは素早く五人を確認する。
「昼食の時にタンタルと話をしたのですが、あの中の二人は婚約者同士で、一人は合格したら婚約者の方もこちらに住まわれるそうですよ」
「そうなんですね」
つまり、ザルクの部隊の騎士は、聖者の婚約者を望んでこちらに来た訳では無いと言う事だろう。
(まさか、あのお二人が婚約者同士とは思えませんし、新しい婚約者が出来たとも聞きませんからね)
そう思いつつ、残った五人はアイーダ公爵派では無いなと安堵する。
「それに、不思議な事に、五人以外の方の実力が。その。五人とは全く違った様で、何か手違いでもあったのかとタンタルが不思議がっていました」
「…なるほど。実力のない貴族をゴリ押ししたのかもしれませんね。さすがにこちらでは通用しませんから、王都でしっかり反省してもらいたいですね」
「ふふふ。それならしっかり反省していると思いますよ」
「どうしました?」
思い出した様にピピが笑う。
「実は、あの後トロン神官が剣術の試験に飛び入りで参加なさったんです」
「それはそれは…」
「誰一人勝つ事は無かったんですけど。残った五人は、一応剣を受ける事が出来たので剣術は合格になったのです。他の方は…。何人かは木剣も折れてしまいましたね。今日はこちらに泊まって、明日お迎えが来るみたいですよ」
見たかったなとリトが悔しがると、ピピは笑った。
あの不自然な資料の者達は、やはりアイーダ公爵派の名ばかり騎士が多かった様だが、モンク・ローブで剣を振り回す裁縫部屋のトロンに歯も立たず、失意の中にいると言う。
(アイーダ公爵家が諦めるとは思えませんが)
そう思いつつも、一つの不安が無くなった事は確かなので、リトもホッとする。
「しかし、その。あの中の二人はニール殿とサラン殿の元婚約者とお聞きしました」
そうなのだ。
まだ不安材料は残っている。
「ええ。そうなんです。アンドリュー殿は前王弟の降下した公爵家ですが、しっかり剣術を磨いてらしたので残れたのでしょう。ベル殿も腕は良かったですからね。お二人がトーマ様の婚約者を諦めていないのかも掴めていませんが、腕だけでしたら神殿騎士でも通用するでしょう。…そう言えは、ニールとの接触は許されているんですね」
外を見ると、ゼルブライトの隣にはニールがいる。
「ええ、それはニール殿が特に問題は無いとおっしゃったみたいです。ゼルブライト団長も片時も離れませんから。ふふふ。騎士団の中では公認ですよ」
「そうなんですね。確かに、ニールとゼルブライト団長の空気は良い感じです。見せ付ける方が、復縁を感じさせなくて良いのかもしれませんね」
まあ、さすがにアンドリューは復縁を迫るなどと言う恥知らずな行動はしないだろうと、リトは思っていた。
アンドリューは良くも悪くも貴族である。
血族主義、貴族主義では無いが、婚約者より公爵家の繁栄が第一の考えを持っている。
(王族から降下したお家ですから、それも当たり前なんでしょうが)
公爵家の利益を優先して行われた婚約、そして破棄なのだから、今更ニールの実家に頭を下げる様な真似はしないだろう。
「しかし、トーマ様は婚約をお断りされたんですよね?諦めきれずにこちらにいらしたんでしょうか」
「どちらのお家もそれなりですから、婚約破棄はご自身達の単独行動では無いはずです。ダメだった場合のお相手の目星くらいはあったでしょうに。お断りされたか、ご本人達がお家の考えに反抗したか。…いずれにせよ、私の友人達が巻き込まれなければそれで良いですが」
うんうんとピピも頷く。
いずれにせよ、このまま問題がなければ、五人は神殿騎士としてこちらで務めて行く事になるだろう。
(…どちらのお家にも弟君がいらっしゃったけれど。まさか家の都合で失敗した婚約で、見限ったりはしていないですよね?)
何も起こらなければ良いなと思いつつ、リトは作業を開始した。
剣の交わる音が聞こえ、しっかりと訓練が始まっているのだろうと安堵する。
午前中に集めた聖品に加護が終わった所で、ピピに今日はここまでにしましょうと声を掛けられた。
その後は、騎士団へ聖品を渡しに行く事にした。
「聖品の加護が終わりました。また明日から集めますので、加護が必要な方は明日お持ちください」
ピピがそう声を掛けると、預けた騎士達がわらわらと集まる。
「お、ピピじゃないか。ランラの腕前はどうだった?」
後ろから、一際大きな男が話しかけて来る。
真っ黒な短髪で切れ長の瞳の、とてもガタイの良い、豪快そうな男に、ピピは笑顔を向ける。
「マイタン副団長!お帰りになったんですね」
どうやら騎士団副団長で、ランラの夫の様だとリトは悟る。
「ランラ殿は相変わらずお強かったですよ。一撃でしたね」
「全く。無理はするなと言っていたのに」
「無理どころか準備運動にもならなかったと。骨が無いと嘆いていましたから」
ピピがそう言うと、そんなに弱いのが来たのかとマイタンは呆れた顔をしていた。
そして、リトを見て、初めてだなと挨拶をする。
「初めまして。私は副団長のマイタンだ。君が聖品に加護を与えられるリトかな?」
「はい」
「そしてロイドの弟だろう」
「兄をご存知なんですか?」
リトが驚いた様に言うと、マイタンは学友だと笑う。
どうやらマイタンも王都の騎士学校の出身で、ロイドと同級生だったと語る。
「いやぁ。ロイドの腕も見たかったが、相変わらず強いんだろうなぁ。言っちゃなんだが、手合わせの相手がランラや君で良かったと思うよ。ロイドじゃプライドも何もかもポッキリ折れてただろうからな」
ガハハと豪快に笑うマイタンに、リトは取り敢えず笑顔で頷いておいた。
「そんなに強かったんですか?」
「リト殿の兄上なんですね」
周りの騎士達も興味深そうにマイタンに聞く。
「強いさ!一度卒業前に遠征に出た時は、でっかい大剣を振り回してな。魔物をバッサバッサと殆ど一人で倒していたよ。家を守り継いで、家族を守らねばと騎士にはならなかったが、王都に彼がいるなら、安心して神殿に来れると思ったもんさ」
その言葉で、騎士達は手合わせを見てみたかったなと話す。
「俺に挨拶も無しに帰ったのかい?」
「いえ、トーマ様に訓練の方法を教えて欲しいと頼まれまして、指導してからこちらに寄ると言っていました」
そう言うと、近くにいたアンドリューやベルは難しい顔をし、他の騎士達も顔を見合わせていた。
「ロンドにか!?いやぁ聖者様は見る目があるな。しかしロンドの指導に付いて行けるかね。中々ハードだと思うんだが」
心配そうに言うマイタンに、リトは大丈夫ですと笑顔で答える。
「あまりご無理はさせないでしょうから。私も兄から剣術などを教わっていましたが、そこまで大変だと思ったことは無いですから」
「そうかぁ?それなら安心か」
そう言って納得するマイタンを尻目に、ピピとリュートは絶対違うと思った。
そこへ、ニールが苦笑しながらやってくる。
「リト。君の基準はちょっとズレてるんだからね。騎士団の人でも、ロンド様の指導は中々厳しいと思うよ」
そう言われ、リトは確かに自分の基準は人とは違うんだったと思い返す。
「リトの強い基準は父上と兄上でしょう?ハッキリ言って、あのお二人より強い方って見つける方が難しいよ」
確かにとリトは頷く。
父と兄を基準に考えていたが、確かに彼らより強いと思った人に出会った事は無い。
基準を二人で考えていたので、動きや構えが読めるのかと今更ながらに気が付いた。
「…どうしましょう。トーマ様は大丈夫でしょうか」
「さすがにロンド様もそこら辺は考えて指導するでしょうから。後は、その指導をゼルブライト団長やマイタン副団長が判断して、どれくらいするかを決めれば良いんじゃ無いかな。ね、ゼルブライト団長」
ニールがゼルブライトに声を掛けると、ゼルブライトはそうだと頷く。
「トーマ様は早く私の様になりたいとおっしゃっていたが、ザルク団長の指導を受けていたからとはな。しかし、ザルク団長もロンド殿も見込みの無い方にはハッキリ言うだろうから、トーマ様に可能性を感じたのだろう。今後が楽しみだな」
そう言ってニールとゼルブライトは微笑み合う。
そうだよなとも思いつつ、リトは自分の解釈の違いを少しずつ変えて行かねばと反省した。
「鉄剣も、大剣も普通は使わないのでしょうか…」
「うーむ。そうだな。まぁ、ロンド殿なら木剣は折れてしまうから仕方ないが、普通の騎士はもっぱら木剣だ。大剣は…。そうだな、使わないな」
やはりそうなのかと、リトはショックを受けつつも頷く。
「まあ、俺やランラは訓練では使ったりするぜ?」
元気付ける様にマイタンは言うが、それも異常だとゼルブライトに釘を刺される。
「何にせよリト殿が受けていた訓練は無駄ではなかっただろう?先程の剣術も素晴らしかった。希望があれば、たまに騎士団で訓練をしても良いのだ。トロン神官やランラも良く訓練に参加しているよ」
ゼルブライトに言われ、リトの顔が輝く。
「是非!どこかで木剣を購入しようと考えていたんです。護衛用の剣では振り回すには危ないですから」
にこにこと話すリトに、ニールは苦笑いする。
ルーベルトの婚約が決まってから、こっそり剣術を続けていたのは、リトのストレス解消だったのだろうとニールは知っていた。
「その時は私も一緒に訓練しようかな。私も、剣術をもっと学びたいから」
「うん。あ、でも私はまだ相手は出来ないよ?父や兄への力加減しか分からないから…。そこら辺も学び直さなきゃな」
「ふふふ。私はまだまだ、素振りからだから」
ニールとリトは仲良く会話しているが、ゼルブライトはこっそり、絶対リトとニールは手合わせしない様にお達を出したのだった。
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