婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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ピピとリトは作業が終わり、二人で騎士団の見学をしていた。

残った五人はやはり筋が良く、これなら神殿騎士団でもやっていけるだろうとゼルブライトは笑顔で言う、

端を見ると、不合格になったであろう騎士達も、大人しく見学している。

(周りは護衛されているので、とりあえず神殿へは行けないですね)

そう思っていると、神殿から大男が歩いてくる。

「ロンド!久しぶりだな!」

「マイタンか!久しいな!奥方の剣術は素晴らしかったぞ!」

ロンドとマイタンは抱擁して久しぶりの再会を喜んだ。

あまりの圧に、周りの騎士達は引いているのだが、リトは笑顔で二人のやりとりを見ている。

「聖者様に指導って、君がやりすぎないか心配したぞ」

「そうなのだよ。さすがに私一人で指導したら危険だとカキー大司教に言われ、カキー大司教監視の元で指導したのだが、これ以上という線はカキー大司教のお付きの方がキチンと指摘してくれたよ」

マトだなと、周りはホッと胸を撫で下ろす。

「もう少し回数を増やそうかと思ったんだが、殺す気かと怒られてしまったよ…」

大きな体でしゅんとするロンドの背中を、バンバン叩きながらマイタンは大笑いしていた。

笑い事じゃ無いと、ゼルブライトは眉間に指を当てていたが。

「しかし、聖者様はとても見込みがある。私も月に一回はこちらに来て指導しようと約束した」

ロンドの言葉に、リトの目が輝いた。

(兄様が毎月いらしてくれる)

にこにこ笑顔になるリトに、周りは良かったと言う空気になったが、あの巨体が毎月指導に来ると言う恐怖も感じた。

「しかし、また大きな剣だな」

「妻の素振り様だ。いつものよりは小ぶりにしたぞ」

「冗談だろう?ロンド。いいか、それを普通だと思ったらダメだぞ?リトの強さの基準が君になってしまっているじゃないか」

マイタンは、それではこの先苦労するのはリトなんだぞと叱責する。

「兄様より弱い方はちょっと…。なんて言ってみろ。ロンドより強い騎士なんてそうそういないんだからな。リトの強さに相手が引いてしまう場合もあるぞ」

「マイタン!変な事言うんじゃないよ!リトが強くたって良いじゃねぇか。自分より強い相手が嫌だって奴は、ケツの穴が小せえだけだ」

そこにランラがサランを連れて歩いて来る。

「おおランラ!今帰ったぞ!」

「話聞いてんのかよ…」

マイタンはランラを熱く抱擁し、ランラは呆れながら抱き返す。

「すまないねリト。でもまあ、ロンド殿の強さは桁外れだって知っておいた方が良いな。リトも剣術に参加するんだろ?」

「はい。少しずつ参加させて頂きます」

「それなら尚更だ。周りの強さのを知らないと、自分も相手も怪我をしてしまうからな」

そう言うことかと、リトは大きく頷いた。

確かに、ロンド相手と同じ様に剣を振り入れていたら、相手が怪我をしてしまう可能性もあるのだ。

ゼルブライトもニールもうんうんと頷いていた。

「そう言えば、ロンドはもう帰るのか?」

「そうだな、そろそろ帰ろうかとは思っているが、どうしたんだ?」

ランラを左手に抱きながら、マイタンはそれなら手合わせしようと提案する。

周りも、是非参考にしたいと声を上げるが、ロイドは難しい顔をする。

「一応自分用の剣は馬車に持って来ているが。…剣が折れても文句は言うなよ?」

「ああ、そうか。ロイドに木剣や普通の剣はダメだったな」

残念そうな空気になり、リトはそれなら私の剣はどうかと声を上げる。

「私の護衛用の剣は、訓練でも使用していましたから耐久性はあると思います」

「ああ、そうだな。リトの剣は特別に加護を加え、軽く丈夫にしてあるんだ。それなら大丈夫だろう」

ロンドが笑顔でそう言うので、リトは急いで部屋へ剣を取りに行く。

(あ、サランも出て来ていたけど、大丈夫かな)

比較的寮に近い事もあり、リトは急いで剣を取ると、騎士団の元へ急ぐ。

サランがベルに絡まれる事は、さすがに無いだろうが、できればリュートの近くにいて欲しいと思った。

リトが笑顔で剣を抱えて走っている姿は中々異様であったが、本人はそのままマイタンの元へ剣を差し出した。

「おお、早かったな。これが例の剣か…。随分重いな」

剣を受け取ったマイタンは、驚いた顔をした。

リトはこの剣を軽々持って走って来たのだから。

「…よし、リト。取り敢えず周りにも剣を持たせてみるからな」

「?はい、どうぞ」

リトはなぜだろうと不思議そうにしているが、マイタンはランラに剣を渡す。

「…。良い剣だな。リト、マイタンの剣を持ってみな」

ランラはそう言って次はゼルブライトに手渡し、マイタンの剣をリトに渡す。

「!!とても軽いです…」

マイタンの剣は、立派であったがリトの剣の半分以下の重さだった。

まさか、自分が訓練で練習用に使用し、護衛用として持たされた剣が、そんなに重いのかとリトは驚愕する。

ランラが言っていた通り、これが普通だと思って剣を振っていたら、周りに怪我をさせてしまうなとリトは反省した。

「確かに重いな。しかし魔物相手には良い剣だ。ニール殿。持ってみるかい」

「はい。…重い」

「さ、こちらへ。練習は基本的に木剣だが、真剣と同じ重さにしてある。この剣は倍以上ある」

そう言って次はナーム、リュートが手に持ち、重さに驚いた顔をしていた。

「リト。この剣を振る時と同じ力で打ち込めば、木剣は折れるだろう。自分の力を鍛えるのも大事だが、周りの力を見るのも大事だ。それが分かる様になれば、自分だけでなく周りも助けられる様になる」

マイタンにそう言われ、リトは大きく頷いた。

騎士を目指すつもりは無いが、リトの望む姿はそれだと気付かされた。

「僕も持ってみても良い?」

「重いぞ?」

サランも興味深そうに剣を手にするが、あまりの重さにヨロけてしまう。

「っ!?」

「ふふ。言っただろ?」

軽々とリュートが支え、剣を取り上げてマイタンに手渡した。

「…僕も木剣くらいは振ろうかな」

「いや、サランは刺繍が主だろう?手首を痛めたらどうするんだ」

いや、ランラはどうなると言う無粋な言葉は皆が飲み込み、生暖かい視線を二人に向けていた。

「さて、じゃあ早速手合わせ願おうかね」

そこへ、自分の剣を持ったロンドが歩いて来る。

先程は不埒な輩を威嚇する為に大剣を持って来たんだと、笑っていた。

ロンドとマイタンが手合わせする事になり、不合格になった王都の騎士達も見学する様にと集められる。

(兄様達の手合わせを見て、少しでも見本になれば良いですが)

トロンやモルト達も見学に出て来たので、ゼルブライトが周りに距離をとって安全に見学する様にと指示を出す。

「それでは、始め!!」

二人が中央で向かい合うと、ゼルブライトが開始の声を掛ける。

ブワッと。

周りに殺気が広がり、ビリビリと肌に感じる。

どちらの背中にも、鬼が見えると誰かが呟いた。

「…え?手合わせだよな」

「何だこの殺気は…」

ヒソヒソと騎士達は囁き合い、サランはリュートに、ピピはタイタンにピッタリとくっついた。

ガァイイイインッッッ!!

先に動いたのはマイタンで、ロンドにもの凄い音を立てて剣を打ち込む。

ロンドはそれを軽々と受け止め、マイタンも想定内だったのだろう、すぐに受け身の体制になる。

「…すごい」

ランラの呟きに、周りも無言で頷く。

ゴォォォォォオンッッ!!

これは剣を交えた音だろうかと、周りの騎士もだが、王都から来た騎士達は青い顔になりながら見ていた。

「さすがはザルク団長のご子息…!」

「そして、その剣をしっかり受け止める事が出来る方がいらっしゃるなんて…!明日からの訓練が楽しみだな!」

「す、すごい。私ももっと、鍛錬せねば…!!」

剣術に合格した例の三人は、目をキラキラさせながらそう言っているが、周りはこれがザルクの部隊かと納得していた。

(マイタン副団長、やはり相当お強いですね。兄様が本気で打ち込んでいる)

リトも、目をキラキラしながら二人の手合わせを見ていた。

「そこまで!」

何度か凄まじい音を立てながら剣が交えられ、そろそろ良いだろうとゼルブライトが止める。

すると、殺気が一瞬で消え、二人は笑顔でお互いの肩や背中を叩き合って称えた。

「やはり衰えないなロイド!」

「いやはや、これだけ叩き込んで、びくともしない男は中々いないぞマイタン!」

楽しそうに話しながらこちらに歩いてくる二人を、騎士達は拍手で迎えた。

あまりの音に何事かと、神殿の人々もこちらを見ていて、その中にこっそりとトーマの姿もあった。

カキーも苦笑しながらこちらに歩いて来ており、その隙に他の神官達がトーマを隠す様に連れて行った。

「全く。凄まじい音がしたので何事かと思いましたよ。それにしても素晴らしい腕前でした。今回不合格になった方々は、今までの自分の剣術を思い返してごらんなさい。この二人程までになれとは言いません。ですが、王都でもいつ危険があるか分からないのです。貴族と言う名ばかりの騎士になど甘んじる事なく、日々鍛錬するのですよ」

王都の騎士達は、すっかり大人しくなり、項垂れていた。

そしてロンドとマイタンも、剣を鞘に収めると申し訳無さそうにカキーに歩み寄る。

「カキー大司教。またも勝手に申し訳ない」

「いやいや、誘ったのはマイタンですし、許可を与えたのは私ですから」

ゼルブライトがそう言うと、カキーはそうだと笑う。

「騎士達の良い見本になった。まぁ、ロンドやマイタンは特別だが、鍛えればこれくらいになれると言う道標があるのは良い事だ。それに、ザルクやロンドの様に、しっかり腕のある者が王都にいてくれるおかげて、私は安心して神殿で祈りを捧げられるからな。今後も期待しているぞ」

「ありがとうございます」

カキーの言葉に、王都の騎士達も思うところがあったのか、神妙な顔をしていた。

名ばかり騎士で良いと過ごして来た者も多いだろうが、もしもの時に誰も守れない様なら意味がないのだ。

「さて、ついでに私が面談をしましょう。剣術で合格した者は、私について来なさい」

カキーはそう言うと、五人を連れて神殿へ向かう。

ゼルブライトが他の騎士達に指示をして、訓練が再開される。

不合格になった騎士達は、おとなしく見学をしていたが、そこへ王都から馬車が来たと連絡が入った。

(どう言う事でしょう?不合格になるとわかっていての迎えの馬車でしょうか)

皆が不思議そうな顔をしていたら、迎えではなくどうやら貴族が聖者への謁見の申し出だと言う。

少しすると、近くまで馬車が乗り入れて来る。

「…現在陛下は聖者様への謁見は、聖者様が望まないと禁止していますからね。どれ、どこの恥知らずか見に行きましょう」

ロンドは笑顔でそう言うと、それなら俺もご一緒しようとマイタンも一緒に馬車に近付いて行く。

「神殿を馬鹿にしているのでしょうね。恥知らずが、よく貴族を名乗れたものです」

ニールの冷たい声に、リトもサランも苦笑しながら宥めた。


















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