婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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「おや、この馬車はモース伯爵家ではないですか」

ロンドが声を掛けると、シャッと馬車のカーテンが開かれ、中から小太りの中年男性が姿を見せる。

「ふん。汚れた血の公爵家が偉そうに。私は聖者様に用があるのだ、そこをどけ」

その言葉にマイタンが怒りを露わにするが、ロンドは涼しい顔をしている。

「聖者様への謁見は陛下により禁止されているはずですが?名ばかりの恥知らずな伯爵家はご存知でも無いのですか?ああ、まさか陛下に毛嫌いされている為、貴族界からのお振れも来ないのですか?」

ロンドの痛烈な言葉に、モース伯爵は怒り心頭で馬車から飛び降りて来る。

しかし、体格の良い男二人と、頭部がとても薄く、首があるか無いか分からないくらいで、ずんぐりむっくりな伯爵では迫力が全く違う。

「な、何を!こ、婚約破棄された者が家族にいるくせに、偉そうに!」

その言葉に、ニールとサランの目が据わる。

「あの方。ご子息が騎士学校卒業前に問題を起こして、退学になった方ですよね」

「確か、貴族街の飲食店でお酒に酔って暴れた人だよね。お金を出して何とか牢屋には入らなかったんだって」

ニールとサランの口撃にも加わり、モース伯爵は顔を真っ赤にして怒りに震えている。

「婚約破棄に関しては、他にも大勢いらっしゃいますし、こちらは何も悪くありませんので、陛下から謝罪までありましたよ?それにしても、陛下と王妃の思い出のレストランで暴れるなど、あなたの指示では無いでしょうね?」

「な、な、そんな訳が無いだろうが!」

ロンドの指摘に、モース伯爵の顔色が悪くなる。

王と王妃が、こっそり食事を楽しんだとして人気になったレストランで、味も接客も良いと貴族街でも評判の店である。

現王妃が隣国出身と言う事で、忌み嫌う貴族もいるが、その中の一人ですよねと言われてモースは短い首をプルプルと振る。

「それにしても、召喚でも何の力も無く、お世辞にも役に立った事の無いモース伯爵家が聖者様に何のご用でしょうね。ご子息の失態の後、アイーダ公爵家からも見放されたとお聞きしましたが」

「!!そ、そんな事は」

またも短い首をプルプルとしていたので、リトはああいった犬種がいましたよねと笑ってしまう。

「まさか、その失態をどうにかしようと聖者様に接触を?」

「…カキー大司教へ今すぐ伝えよ」

騎士達が急いで動き、馬車は取り囲まれる。

アイーダ派の騎士であろう不合格者達も、白い目でモースを見ていた。

(独断行動でしょうか?)

「わ、私は聖者様を救おうと!この様な場所では聖者様も窮屈でしょうからね!王都の方が華やかで、娯楽も多いですし、それに…」

「黙りなさい」

モースの失礼極まりない発言を、バッサリと神殿から来たカキーが切り捨てた。

あまりに速い到着に、周りにも動揺が走るが、カキーはモースを冷たい目で見ながら話し始める。

「ジェリ神様により邪悪な者の訪問の知らせがありましてね。まさか王都の貴族だとは思いませんでしたが。あなたは確か我が兄クンと親かったとお聞きしていますが」

モースはビクリと体を強張らせる。

「まさか、彼の差金ではありませんよね?降下したとは言え王族であった者が、陛下のご意向に背くなど。反逆でしょうか?」

「いいいいいえ!そ、そんなことは!」

反逆と言う言葉に、モースは更に青くなる。

「…取り敢えず、聖者様にあなたの様な方をお会いさせる訳には行きませんので。お帰りください」

数人の神官達も集まっており、モースは渋々と言った様子で馬車に戻って行く。

「途中まで監視をつけましょう」

カキーの言葉に、騎士が数人馬車の誘導に回る。

(こうなる事は予想出来たでしょうに。何がしたかったんでしょうか?)

リトが不思議がっていると、ロンドは何か考え込む。

「兄様?」

「モース伯爵はトーマ様を王都へ連れ帰って、何がしたかったんだろうね?まさか息子と恋仲になんて事はないだろうけれど」

確かにと言う空気の中、カキーはロンドに歩み寄る。

「ロンド、陛下へ文書を届けてもらえないか?すぐに用意するから、待ってもらいたい」

「分かりました」

今回の事を伝えるのだろうが、神託についても何かあるのだろう。

カキーは難しい顔をしていた。

クンことアイーダ公爵はカキーの兄だ。

だからこそ、彼の日頃の行いに頭を痛めていた。

「騒がせたね。取り敢えず王都へ苦情を出すから、今後はあの様な馬鹿な貴族は来ないことを願おう」

カキーはそう言って神殿へ戻って行く。

「陛下が御触れを出すだろうし、今後ああ言った行動をする貴族は爵位返上くらいはあるかもしれないね。さて、もう少し見学をしていようかな」

ロンドはそう言うと、可愛い弟の隣に立つ。

「なんだ、他の奴と手合わせでもするのかと思ったのに」

「いやいや、僕はただの商人だからねぇ」

そんな訳あるかと周りは心の中で突っ込みながら、訓練を再開する。

リトはニール達の側に移動して、先程の礼を言う。

「二人とも、私の為に怒ってくれてありがとう」

「当たり前じゃないか。それにしても、モース伯爵の評判が悪いのは知っていたけど、まさかこんな事をするとはね。…気を付けた方が良さそうかも」

「うん。ご子息もそこまで馬鹿な子では無いって聞いていたのにね。どちらかと言うと、父親の考えに反抗的で自立心のある青年って聞いていたよ?どうしたんだろうね」

ニールとサランの話に、ロンドは益々考え込んでいた。

(確かに、その話なら謎だ。何か裏があるのかもしれない)

リトも注意するに越した事は無いねと、話を合わせた。

「取り敢えず、兄様はカキー大司教の所にまた行ってくる。リト。元気そうな顔が見れて良かったよ。あまり無理せずにね」

「私も、兄様に会えて嬉しかった。見ての通り周りに恵まれていますから、どうか安心して欲しいと父様母様にお伝えくださいね」

そう言って、二人は抱擁して別れる。

「それにしても、サランまで出て来るとは思わなかったよ?大丈夫なの?」

リトがそう言うと、サランは大丈夫と笑う。

「もしもの時は、リュートが守ってくれるって言ったから」

「おやおや」

えへんと胸を張るサランを、ニールがニヤニヤしながら見ている。

十分心を許した様子に、リトもニールも顔を見合わせて笑う。

チラリとリトがベルを見ると、ベルは少し複雑そうな顔をしていたが、こちらに接触しようと言う動きは見られない。

アンドリューも、さすがにニールと仲良く会話する訳には行かない様で、こちらに背を向けていた。

騒動がひと段落した為、リト達は作業に戻る。

黙々と刺繍や聖品への祈りを続けていると、終業の時間が近付いた。

「リト殿。私は一旦神殿へ戻り報告と、材料を調達して来ますね。それが揃ったら、道具と一緒に結界をお願いします」

ピピはそう言うと、神殿へ向かう。

今日は色々あったなと思いつつ、リトは大きく伸びをした。

今日の分の祈りも終わったので、片付けを始める。

(カキー大司教もお手紙を出す様だし、数日したらあちらの動きも分かるでしょうね。兄様も父様も動いてくださるでしょうから、私は連絡を待ちましょう)

そう思いながら片付けをしていたら、隣の席からひょっこりとサランが顔を出す。

「僕達も今日は終わりなんだ。今ランラとパッドが神殿に報告に行ったから、帰ってくるまでこっちに居ても良いかな?」

「もちろんだよ。ピピ殿も報告に行ったから、こちらで待っていよう。そう言えばモルトは?」

「ふふふ。トロン神官と楽しそうにお話ししてたから、こっそりこっちに来たんだ」

楽しそうに言いながら、サランはリトの片付けの手伝いを始める。

あちこちで良い縁が結ばれているなと、リトは暖かい気持ちになる。

王都では悲しい気持ちで縁を切られた者も多かったので、この縁が良い方向に進めばとリトは思った。

「あ、ランラ達の声がするね」

「戻ってきたみたいだね」

外を見に行くと、ピピとパッド。

そして茶髪の一歳程の子を抱えたランラがいた。

「わぁ!ランラの子供?可愛いねぇ」

「そうだろう?クルルって言うんだ。これがマイタンや俺みたいな騎士になるんだぜ」

ガハハとランラは笑うが、確かに二人の子供ならそうなるだろうなと、周りは静かに頷いていた。

その後、作業を終えると、そのまま皆で剣術の稽古へ向かう事になった。

ピピやパッドはお相手の様子を見てから帰ると言い、トロンも剣術の稽古に参加すると言うのでモルトも見学したいと言う。

「俺はこいつの世話があるからな。今日はマイタンに顔を見せて先に帰るよ」

そう言って、ランラは皆の先陣を切って歩き出す。

クルルはぐっすり眠っている様で、サランがニコニコとその寝顔を見ている。

「サラン殿は子供がお好きなんですね」

「ええ。王都や地方に奉仕活動で訪れた時も、良く子供の面倒を見ていましたね。幼い頃は家からあまり出られなかったそうなんですが、親戚の子供が良く遊びに来ていたそうで、その子の相手も良くしていたみたいなんです」

子供に寄り添って相手をする事が出来る為、子供達にも人気だった。

「それでしたら、刺繍で手が空いた時は神殿で子供達のお相手をお願いされるかもしれませんね。最近はありがたい事に子供も増えてきましたから」

もちろん、リトにもお願いするだろうとピピは言う。

子供達を正しく育てるのも、神殿の仕事の一つなので、リトは大きく頷いた。

「カキー大司教のおかげで、神殿や神殿の周りは本当に子育てしやすくなりました。将来が楽しみです」

そう言って微笑むピピに、リトはそうですねと返す。

リトもこちらに来てから随分心が自由になったと感じている。

この環境での子育ては、きっととても良いだろうなと、予定は無いのだがリトは胸を躍らせた。












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感想 3

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みんなの感想(3件)

はー
2024.11.13 はー

とっても面白くて一気に読んでしまいました!今後も楽しみです♪

2024.11.14 叶伴kyotomo

ご感想ありがとうございます!
更新が止まっていて申し訳無いですが、気長にお待ち頂けると幸いです。

解除
福屋 蒼助
2024.07.04 福屋 蒼助

一気読みしました。まだ波乱含みですね。続きをお待ちしております。

2024.07.06 叶伴kyotomo

ご感想ありがとうございます!
更新が止まっており、再開まで時間がかかりそうです…。気長にお待ち頂ければ幸いです。

解除
miwa
2024.01.17 miwa

育ちの良い男の子達が上品にキャッキャしてるのがとても可愛い。今後トーマ様がどれだけムキムキになるか楽しみです。続きが気になります!

2024.01.18 叶伴kyotomo

ご感想ありがとうございます!
更新が止まっており申し訳ないです…。
もう少し時間がかかりそうです。
気長にお待ち頂ければ幸いです。

解除

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