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ガルドさんとの修行編
どうも、どうやら本当の戦いはここから始まるようです
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ガルドさんの木剣から放たれる紅蓮のオーラと、俺のナマクラから溢れる蒼白い光。二つの魔力が激突した瞬間、訓練場の空気が爆ぜた。
キィィィィィィンッ!!
金属同士が擦れ合うような、甲高い絶叫が鼓膜を突き刺す。凄まじい衝撃が、剣を、腕を、そして俺の全身を駆け巡った。足元の地面が蜘蛛の巣のようにひび割れ、俺の体は数メートルも後方へと吹き飛ばされる。両腕は完全に痺れ、感覚がない。
だが――俺は、立っていた。そして、この手の中の剣は、折れていなかった。
「は……ははっ……!」
驚きと、興奮。自分の手で掴み取った、新たな力。その実感に、俺の口からは、思わず乾いた笑みがこぼれた。昨日までは、彼の風圧だけで吹き飛ばされていたのだ。それが今、俺は、鬼のガルドの一撃を、正面から受け止めてみせた。
その俺の顔を見て、ガルドさんは、さらに楽しそうに、その口の端を吊り上げた。
「ハッハハハ!いいぜ、小僧!それでこそ、俺が鍛える甲斐があるってもんだ!――第二幕の始まりだ!」
ガルドさんの体が、再び動く。今度は、単発の攻撃ではない。流れるような、しかし一撃一撃が必殺の威力を持つ、恐るべき連続攻撃。紅蓮の剣が、嵐のように俺へと襲い掛かってきた。
俺は、必死にそれに食らいついた。
ガルドさんの剣が上段から振り下ろされれば、俺は午前中に学んだ防御の型で、剣を斜めに滑らせて威力を受け流す。
横薙ぎが来れば、バックステップで距離を取りながら、剣の腹でその軌道を逸らす。
突きが来れば、最小限の動きで半身をずらし、カウンターを狙う――が、それはまだ、俺にはできなかった。
キィン!ガンッ!ガギンッ!
訓練場に、魔力を纏った剣同士がぶつかり合う、けたたましい音が鳴り響く。火花が散り、衝撃波が周囲の空気を震わせた。
それは、もはや訓練とは呼べない。本物の、真剣勝負だった。
俺は、完全に防戦一方だった。だが、ただの防戦ではない。ガルドさんは、その猛攻の中に、的確な「教え」を織り交ぜてきていた。
「動きが硬ぇ!ブロックでただ止めるんじゃねぇ!相手の力の流れを感じろ!その流れに乗って、受け流し、相手の体勢を崩せ!」
言われた通りに、横薙ぎを剣の腹で受け、円を描くようにして力を逸らす。すると、ガルドさんの巨体が、ほんの僅かに、ぐらりと揺れた。
(……これか!)
「そうだ!だが、そこで満足するな!崩れた体勢は、最高の隙だ!そこにお前の牙を叩き込め!」
ガルドさんは、体勢を立て直しながら、さらに速い追撃を放ってくる。
「敵の剣だけを見るな、小僧!目を見ろ!肩の動き、腰の捻り、足の踏み込み!攻撃の兆候は、刃が動くよりも遥か前から始まってるんだ!」
俺は、彼の言葉を、一言一句聞き逃すまいと、極限まで集中力を高める。彼の全身の動き、その全てから、次の一手を読み取ろうとする。それは、図書館で得た知識と、昨日体に刻み込まれた死の記憶、そして、今この瞬間の実戦経験が、渾然一体となっていく、凄まじい体験だった。
だが、やはり、Aランクの壁は厚い。
俺の思考が、反応が、ほんの一瞬だけ遅れた隙を、ガルドさんは決して見逃してはくれなかった。
「――甘ぇんだよ!」
俺が防御の型を取るよりも速く、ガルドさんの木剣の腹が、俺の胴を横殴りに強打した。
「ぐぉっ……!」
息が詰まる。魔力の鎧を纏っていても、内臓まで揺さぶられるような衝撃。俺の体は、再び地面に叩きつけられた。
「……立て」
ガルドさんの、非情な声。
俺は、咳き込みながら、それでも立ち上がった。口の端から、鉄の味がする。
「今の攻撃、なぜ避けられなかったかわかるか?」
「……俺の、反応が、遅れたから……」
「半分正解で、半分間違いだ」
ガルドさんは、木剣を構え直しながら言った。
「お前は、俺の全ての攻撃に、完璧に対応しようとしすぎている。だから、思考が追いつかなくなる。違うんだ、小僧。戦いとは、全てを受け止めることじゃねぇ。捨てるべき攻撃を見極め、受けるべき攻撃を捌き、そして、唯一の勝機に全てを懸けることだ。……その見極めができるようになるまで、お前はここで、俺に殴られ続けろ」
再び、地獄が始まった。
俺は、ガルドさんの嵐のような猛攻の中で、必死に考え、感じ、そして動いた。
この攻撃は、受けても致命傷にはならない。
この攻撃は、回避に専念すべきだ。
この攻撃を捌けば、次の瞬間に、ほんの僅かな隙が生まれる――!
何度も、何度も、打ちのめされた。だが、その度に、俺は何かを学び、何かを掴み取っていった。
やがて、日が落ち、訓練場の空が、燃えるような赤色に染まる。
俺の体力も、魔力も、もう限界だった。意識も朦朧とし始めている。
「……これで、終いだ」
ガルドさんが、それまでとは比べ物にならないほどの魔力を、木剣に込めた。彼の得意とする、『王国剣術』の奥義の一つ。無数の斬撃が、同時に襲い掛かってくるかのような、幻惑の連撃。
もう、目で追うことはできない。思考することも、できない。
(――ああ、ここまでか)
諦めの感情が、脳裏をよぎった、その瞬間。
俺の体は、完全に、意識の手綱から解き放たれた。
考えるな。感じろ。
昨日、俺の体が覚えた、あの感覚。
無数の斬撃の中から、ただ一つだけ、本物の殺意を宿した、真実の一撃。その流れを、魂が感じ取る。
俺は、その一撃を、ブロックしようとも、避けようともしなかった。
ただ、その攻撃が放たれる、コンマ一秒先の未来へ、俺の体を滑り込ませる。そして、全ての力を、ただ一点に。
俺の蒼白い光を纏ったナマクラが、ガルドさんの紅蓮の剣閃と、すれ違う。
チッ、と。
何かが、軽く触れ合うような、小さな音がした。
全ての動きが、止まった。
静寂が、訓練場を支配する。
ガルドさんは、剣を振り抜いた体勢のまま、ゆっくりと、自分の頬に手をやった。その指先に、一筋の、赤い線がついていた。
血。
俺の剣が、初めて、鬼のガルドの肌を、ほんの僅かに、切り裂いたのだ。
ガルドさんは、指先についた自らの血を、信じられないもののように見つめていた。
そして、ゆっくりと顔を上げ、俺を見る。
その顔に、怒りはなかった。
代わりに浮かんでいたのは、心の底から楽しそうな、子供のような、そして、どこまでも獰猛な、鬼の笑みだった。
「へっ……へへっ……。ハッハハハハハハハハハハ!」
ガルドさんの、腹の底からの、 joyous な爆笑が、夕暮れの空に響き渡った。
「やりやがったな、この化け物小僧がァ!ついに、この俺に、一撃入れやがった!」
その笑い声を聞きながら、俺は、ついに糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。
全身はボロボロだ。だが、その心は、今までにないほどの、達成感で満たされていた。
本物の強さへの扉を、俺は、今、確かに、この手でこじ開けたのだ。
キィィィィィィンッ!!
金属同士が擦れ合うような、甲高い絶叫が鼓膜を突き刺す。凄まじい衝撃が、剣を、腕を、そして俺の全身を駆け巡った。足元の地面が蜘蛛の巣のようにひび割れ、俺の体は数メートルも後方へと吹き飛ばされる。両腕は完全に痺れ、感覚がない。
だが――俺は、立っていた。そして、この手の中の剣は、折れていなかった。
「は……ははっ……!」
驚きと、興奮。自分の手で掴み取った、新たな力。その実感に、俺の口からは、思わず乾いた笑みがこぼれた。昨日までは、彼の風圧だけで吹き飛ばされていたのだ。それが今、俺は、鬼のガルドの一撃を、正面から受け止めてみせた。
その俺の顔を見て、ガルドさんは、さらに楽しそうに、その口の端を吊り上げた。
「ハッハハハ!いいぜ、小僧!それでこそ、俺が鍛える甲斐があるってもんだ!――第二幕の始まりだ!」
ガルドさんの体が、再び動く。今度は、単発の攻撃ではない。流れるような、しかし一撃一撃が必殺の威力を持つ、恐るべき連続攻撃。紅蓮の剣が、嵐のように俺へと襲い掛かってきた。
俺は、必死にそれに食らいついた。
ガルドさんの剣が上段から振り下ろされれば、俺は午前中に学んだ防御の型で、剣を斜めに滑らせて威力を受け流す。
横薙ぎが来れば、バックステップで距離を取りながら、剣の腹でその軌道を逸らす。
突きが来れば、最小限の動きで半身をずらし、カウンターを狙う――が、それはまだ、俺にはできなかった。
キィン!ガンッ!ガギンッ!
訓練場に、魔力を纏った剣同士がぶつかり合う、けたたましい音が鳴り響く。火花が散り、衝撃波が周囲の空気を震わせた。
それは、もはや訓練とは呼べない。本物の、真剣勝負だった。
俺は、完全に防戦一方だった。だが、ただの防戦ではない。ガルドさんは、その猛攻の中に、的確な「教え」を織り交ぜてきていた。
「動きが硬ぇ!ブロックでただ止めるんじゃねぇ!相手の力の流れを感じろ!その流れに乗って、受け流し、相手の体勢を崩せ!」
言われた通りに、横薙ぎを剣の腹で受け、円を描くようにして力を逸らす。すると、ガルドさんの巨体が、ほんの僅かに、ぐらりと揺れた。
(……これか!)
「そうだ!だが、そこで満足するな!崩れた体勢は、最高の隙だ!そこにお前の牙を叩き込め!」
ガルドさんは、体勢を立て直しながら、さらに速い追撃を放ってくる。
「敵の剣だけを見るな、小僧!目を見ろ!肩の動き、腰の捻り、足の踏み込み!攻撃の兆候は、刃が動くよりも遥か前から始まってるんだ!」
俺は、彼の言葉を、一言一句聞き逃すまいと、極限まで集中力を高める。彼の全身の動き、その全てから、次の一手を読み取ろうとする。それは、図書館で得た知識と、昨日体に刻み込まれた死の記憶、そして、今この瞬間の実戦経験が、渾然一体となっていく、凄まじい体験だった。
だが、やはり、Aランクの壁は厚い。
俺の思考が、反応が、ほんの一瞬だけ遅れた隙を、ガルドさんは決して見逃してはくれなかった。
「――甘ぇんだよ!」
俺が防御の型を取るよりも速く、ガルドさんの木剣の腹が、俺の胴を横殴りに強打した。
「ぐぉっ……!」
息が詰まる。魔力の鎧を纏っていても、内臓まで揺さぶられるような衝撃。俺の体は、再び地面に叩きつけられた。
「……立て」
ガルドさんの、非情な声。
俺は、咳き込みながら、それでも立ち上がった。口の端から、鉄の味がする。
「今の攻撃、なぜ避けられなかったかわかるか?」
「……俺の、反応が、遅れたから……」
「半分正解で、半分間違いだ」
ガルドさんは、木剣を構え直しながら言った。
「お前は、俺の全ての攻撃に、完璧に対応しようとしすぎている。だから、思考が追いつかなくなる。違うんだ、小僧。戦いとは、全てを受け止めることじゃねぇ。捨てるべき攻撃を見極め、受けるべき攻撃を捌き、そして、唯一の勝機に全てを懸けることだ。……その見極めができるようになるまで、お前はここで、俺に殴られ続けろ」
再び、地獄が始まった。
俺は、ガルドさんの嵐のような猛攻の中で、必死に考え、感じ、そして動いた。
この攻撃は、受けても致命傷にはならない。
この攻撃は、回避に専念すべきだ。
この攻撃を捌けば、次の瞬間に、ほんの僅かな隙が生まれる――!
何度も、何度も、打ちのめされた。だが、その度に、俺は何かを学び、何かを掴み取っていった。
やがて、日が落ち、訓練場の空が、燃えるような赤色に染まる。
俺の体力も、魔力も、もう限界だった。意識も朦朧とし始めている。
「……これで、終いだ」
ガルドさんが、それまでとは比べ物にならないほどの魔力を、木剣に込めた。彼の得意とする、『王国剣術』の奥義の一つ。無数の斬撃が、同時に襲い掛かってくるかのような、幻惑の連撃。
もう、目で追うことはできない。思考することも、できない。
(――ああ、ここまでか)
諦めの感情が、脳裏をよぎった、その瞬間。
俺の体は、完全に、意識の手綱から解き放たれた。
考えるな。感じろ。
昨日、俺の体が覚えた、あの感覚。
無数の斬撃の中から、ただ一つだけ、本物の殺意を宿した、真実の一撃。その流れを、魂が感じ取る。
俺は、その一撃を、ブロックしようとも、避けようともしなかった。
ただ、その攻撃が放たれる、コンマ一秒先の未来へ、俺の体を滑り込ませる。そして、全ての力を、ただ一点に。
俺の蒼白い光を纏ったナマクラが、ガルドさんの紅蓮の剣閃と、すれ違う。
チッ、と。
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全ての動きが、止まった。
静寂が、訓練場を支配する。
ガルドさんは、剣を振り抜いた体勢のまま、ゆっくりと、自分の頬に手をやった。その指先に、一筋の、赤い線がついていた。
血。
俺の剣が、初めて、鬼のガルドの肌を、ほんの僅かに、切り裂いたのだ。
ガルドさんは、指先についた自らの血を、信じられないもののように見つめていた。
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その笑い声を聞きながら、俺は、ついに糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。
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