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世界樹への道のり
どうも、どうやら闇市場は悪党の巣窟のようです
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ジュッテルの夜は、地上では、宝石のようにきらびやかな光と、活気に満ちた喧騒に包まれている。だが、その、華やかな都市の、すぐ足下。そこには、光の届かない、もう一つの世界が、広がっていた。
「……こっちだ。気ぃつけな。足元が、ぬかるんでる」
エルマの、潜めた声が、暗闇に響く。
俺たちは、職人街の、寂れた路地の奥にある、錆びついたマンホールを抜け、ジュッテルの広大な地下水道へと、その身を投じていた。
鼻を突くのは、澱んだ水の匂いと、黴の匂い。時折、壁のパイプから、水が滴り落ちる、不気味な音が、反響する。シュタが、生活魔法で作り出した、小さな光球だけが、俺たちの、唯一の道標だった。
「ひゃっ……!」
シュタが、小さな悲鳴を上げた。俺たちの足元を、巨大な、ネズミのような魔物が、素早く横切っていったのだ。
「大丈夫か、シュタ」
「は、はい……。大丈夫です」
彼女は、俺の腕に、ぎゅっと、しがみついてくる。その体は、恐怖に、小刻みに震えていた。無理もない。昨日まで、最高級の宿で、天蓋付きのベッドに眠っていたのだ。それが、今や、こんな、汚物と、魔物が蠢く、闇の底を、歩いている。
俺は、彼女の、冷たくなった手を、強く、握り返した。
「心配するな。俺が、必ず、守るから」
俺の言葉に、シュタは、こくりと、力強く、頷いた。その瞳には、恐怖の色を、必死に、意志の力で、ねじ伏せようとする、健気な光が宿っていた。
俺は、『自然の心得』と『魔力感知』スキルを、常に、全開にしていた。この、迷宮のような地下水道の構造を、脳内にマッピングし、同時に、潜んでいる、敵性存在の気配を、探る。
シルフィも、俺のフードの中で、神経を集中させているのがわかった。『共鳴感応』を通して、彼女が感じる、微かな魔力の流れが、俺に、進むべき道を、示してくれていた。
「……ショウ。この先だ」
しばらく、歩き続けた頃だろうか。エルマが、足を止めた。
その先には、それまでの、狭い通路とは、比べ物にならないほどの、巨大な、円形の、空間が、広がっていた。かつて、この都市の、巨大な貯水槽として、使われていた場所らしい。
そして、そこが、俺たちの目的地――下水道の、闇市場。『水底の市場』だった。
そこは、地上の、どんな市場とも、似ていなかった。
活気はない。あるのは、猜疑心と、欲望が、渦巻く、重く、淀んだ、沈黙だけだ。
洞窟のような、だだっ広い空間に、いくつもの、粗末な屋台が、間隔を空けて、並べられている。その、一つ一つを照らすのは、煙たい松明や、怪しげな光を放つ、魔力水晶の、おぼろげな明かりだけだ。
そこに集う者たちもまた、全員が、一様に、深いローブや、マントで、その姿を隠している。暗殺者、賞金稼ぎ、禁術に手を染めた、お尋ね者の魔術師。誰もが、他人に、素性を知られることを、極端に、恐れていた。
屋台に並べられている商品も、地上では、決して、お目にかかれないような、違法な品々ばかりだった。
呪われた魔剣、失われた古代の禁術が記された、魔導書。一滴で、竜さえも、眠らせるという、強力な毒薬。そして、鉄格子のはめられた檻の中には、希少な魔獣や、……あるいは、人間と、そう変わらない姿をした、亜人種の子供たちが、商品として、陳列されていた。
「……ひどい……」
シュタが、息を呑む。
俺は、怒りで、震えそうになる拳を、強く、握りしめた。
これが、この、華やかな大都市の、光の当たらない、現実の姿。
「……今は、我慢しな、ショウ」
エルマが、俺の肩を、ポンと叩いた。
「あたしたちの目的は、違う。今は、ただ、奴らの尻尾を、掴むことだけを、考えな」
俺は、こくりと頷くと、気持ちを、切り替えた。
俺たちも、深く、フードを被り、その、闇市場の、人混みの中へと、紛れ込む。そして、物陰から、この、悪党たちの巣窟に、俺たちが求める、『獲物』が現れるのを、息を殺して、待ち続けた。
どれくらいの、時間が、経っただろうか。
俺の、集中力が、切れかかった、その時だった。
一人の、黒いローブを纏った男が、古代のアーティファクトを扱う、一つの屋台の前で、足を止めた。男は、店主と、小声で、何事か、言葉を交わした後、一つの、小さな、魔力で封印された、木箱を、受け取った。
その、木箱を、懐にしまう、ほんの一瞬。
男の、袖口が、僅かに、めくれた。
(……見つけた)
その袖口には、銀の糸で、蛇が、剣に巻き付く、あの、特徴的な紋章が、刺繍されていた。
『古き理の探求者』。間違いなく、奴らの、一員だ。
男は、幹部ではない。その、落ち着きのない、挙動不審な動きから、ただの、使い走りの、下級構成員であることは、明らかだった。情報を、引き出すには、これ以上ない、格好の、ターゲット。
男は、取引を終えると、周囲を、警戒するように、キョロキョロと見回しながら、闇市場の、中心から外れた、人気のない、脇道へと、その姿を消した。
「……行くぞ」
俺は、シュタとエルマに、通信魔道具を通して、短く、告げる。
「絶対に、見失うな。そして、何があっても、すぐに対応できるように、準備しておけ」
俺たちは、音もなく、壁の、影から影へと、移動する。
そして、闇市場の、喧騒を後にした、男の背中を、一定の距離を保ちながら、静かに、そして、確実に、追跡し始めた。
この、ジュッテルの、最も深い、闇の底で。
俺たちの、反撃の、狼煙を上げるための、最初の、狩りが、今、始まったのだ。
「……こっちだ。気ぃつけな。足元が、ぬかるんでる」
エルマの、潜めた声が、暗闇に響く。
俺たちは、職人街の、寂れた路地の奥にある、錆びついたマンホールを抜け、ジュッテルの広大な地下水道へと、その身を投じていた。
鼻を突くのは、澱んだ水の匂いと、黴の匂い。時折、壁のパイプから、水が滴り落ちる、不気味な音が、反響する。シュタが、生活魔法で作り出した、小さな光球だけが、俺たちの、唯一の道標だった。
「ひゃっ……!」
シュタが、小さな悲鳴を上げた。俺たちの足元を、巨大な、ネズミのような魔物が、素早く横切っていったのだ。
「大丈夫か、シュタ」
「は、はい……。大丈夫です」
彼女は、俺の腕に、ぎゅっと、しがみついてくる。その体は、恐怖に、小刻みに震えていた。無理もない。昨日まで、最高級の宿で、天蓋付きのベッドに眠っていたのだ。それが、今や、こんな、汚物と、魔物が蠢く、闇の底を、歩いている。
俺は、彼女の、冷たくなった手を、強く、握り返した。
「心配するな。俺が、必ず、守るから」
俺の言葉に、シュタは、こくりと、力強く、頷いた。その瞳には、恐怖の色を、必死に、意志の力で、ねじ伏せようとする、健気な光が宿っていた。
俺は、『自然の心得』と『魔力感知』スキルを、常に、全開にしていた。この、迷宮のような地下水道の構造を、脳内にマッピングし、同時に、潜んでいる、敵性存在の気配を、探る。
シルフィも、俺のフードの中で、神経を集中させているのがわかった。『共鳴感応』を通して、彼女が感じる、微かな魔力の流れが、俺に、進むべき道を、示してくれていた。
「……ショウ。この先だ」
しばらく、歩き続けた頃だろうか。エルマが、足を止めた。
その先には、それまでの、狭い通路とは、比べ物にならないほどの、巨大な、円形の、空間が、広がっていた。かつて、この都市の、巨大な貯水槽として、使われていた場所らしい。
そして、そこが、俺たちの目的地――下水道の、闇市場。『水底の市場』だった。
そこは、地上の、どんな市場とも、似ていなかった。
活気はない。あるのは、猜疑心と、欲望が、渦巻く、重く、淀んだ、沈黙だけだ。
洞窟のような、だだっ広い空間に、いくつもの、粗末な屋台が、間隔を空けて、並べられている。その、一つ一つを照らすのは、煙たい松明や、怪しげな光を放つ、魔力水晶の、おぼろげな明かりだけだ。
そこに集う者たちもまた、全員が、一様に、深いローブや、マントで、その姿を隠している。暗殺者、賞金稼ぎ、禁術に手を染めた、お尋ね者の魔術師。誰もが、他人に、素性を知られることを、極端に、恐れていた。
屋台に並べられている商品も、地上では、決して、お目にかかれないような、違法な品々ばかりだった。
呪われた魔剣、失われた古代の禁術が記された、魔導書。一滴で、竜さえも、眠らせるという、強力な毒薬。そして、鉄格子のはめられた檻の中には、希少な魔獣や、……あるいは、人間と、そう変わらない姿をした、亜人種の子供たちが、商品として、陳列されていた。
「……ひどい……」
シュタが、息を呑む。
俺は、怒りで、震えそうになる拳を、強く、握りしめた。
これが、この、華やかな大都市の、光の当たらない、現実の姿。
「……今は、我慢しな、ショウ」
エルマが、俺の肩を、ポンと叩いた。
「あたしたちの目的は、違う。今は、ただ、奴らの尻尾を、掴むことだけを、考えな」
俺は、こくりと頷くと、気持ちを、切り替えた。
俺たちも、深く、フードを被り、その、闇市場の、人混みの中へと、紛れ込む。そして、物陰から、この、悪党たちの巣窟に、俺たちが求める、『獲物』が現れるのを、息を殺して、待ち続けた。
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俺の、集中力が、切れかかった、その時だった。
一人の、黒いローブを纏った男が、古代のアーティファクトを扱う、一つの屋台の前で、足を止めた。男は、店主と、小声で、何事か、言葉を交わした後、一つの、小さな、魔力で封印された、木箱を、受け取った。
その、木箱を、懐にしまう、ほんの一瞬。
男の、袖口が、僅かに、めくれた。
(……見つけた)
その袖口には、銀の糸で、蛇が、剣に巻き付く、あの、特徴的な紋章が、刺繍されていた。
『古き理の探求者』。間違いなく、奴らの、一員だ。
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「絶対に、見失うな。そして、何があっても、すぐに対応できるように、準備しておけ」
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そして、闇市場の、喧騒を後にした、男の背中を、一定の距離を保ちながら、静かに、そして、確実に、追跡し始めた。
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