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交差する世界とランキング戦
第十八話 亀甲の要塞、攻防の天秤
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左脇腹を貫く焼けるような激痛。流れ出る自らの血の熱さに、俺は否応なく現実を突きつけられていた。ステージに片膝をつき必死に呼吸を整える。極大闘技場の観客席から巻き起こる、九重ルリを称える大歓声がやけに遠くに聞こえた。
「……ぐっ……!」
俺はシュタに簡易的な治癒を行わせ、傷口からの出血を強引に塞ぐ。だがルリの弾丸に込められていたであろう特殊なエネルギーが、体内で毒のようにじくじくと痛みを主張し続けていた。ただの弾丸ではない。治癒を阻害し継続的なダメージを与えるための、悪意に満ちた設計。瀧のデータにもここまでの詳細はなかった。
目の前で九重ルリは表情一つ変えず、白の銃に新しいマガジンを装填している。その所作に一切の焦りも油断もない。それは傷を負い、動きの鈍った獲物に対する絶対的な捕食者の余裕だった。
彼女は俺に反撃の機会すら与えるつもりはない。このまま嬲り殺しにする気だ。
このままでは負ける。
回避と反撃を主体としたこれまでの俺の戦い方は、彼女の前では通用しない。俺が動けばその動きを読まれ罠にハマる。俺が止まれば的確な射撃で削り殺される。
八方塞がり。完全に詰んでいる。
――本当に、そうか?
盤面が不利なら新しい駒を投入すればいい。ルールが相手に有利なら、そのルールごと、ステージごとひっくり返してしまえばいい。
俺の脳裏に異世界の荒涼とした渓谷と、あの巨大な亀の姿が浮かび上がった。
そうだ。俺にはまだ残っている。この瞬間のために創り上げた、たった一度きりの究極の切り札が。
究極の切り札、アダマンタス
「シュタ……」
俺は覚悟を決めた。「予定より早いが、やるしかない。切り札を切れ。〝アダマンタス〟を展開する!」
『……了解、マスター。多大なエネルギーを消費します。展開後、私の機能は大幅に制限されますが……よろしいですね?』
「ああ。こいつを凌げなきゃ、次はないんだ!」
俺は最後の力を振り絞って立ち上がると、ステージの床に右の掌を叩きつけた。
「――顕現せよ!『亀甲盾・遍く護るもの』!」
その言葉を合図に世界が一変した。
俺の掌を中心にステージの床から無数の白銀のプレートが、まるで植物が芽吹くように爆発的な速度でせり上がってくる。それらは瞬時に連結し、組み上がり、俺を中心とした半径数メートルの空間を完全に覆い尽くす半球状の巨大なドームを形成した。
ドームの表面は鋼鉄亀の甲羅と同じ、無数のヘキサゴン(六角形)プレートで構成されている。プレートの隙間からはコアとして組み込んだ「水の魔石」のエネルギーが青白い光となって絶えず漏れ出し、ドーム全体がまるで呼吸しているかのようにゆっくりと脈動していた。
それは単なる盾ではなかった。
自己修復能力とエネルギー分散機能、そして内部からの限定的な反撃能力をも備えた、移動可能な要塞。
学園の技術と異世界の神秘が融合して生まれた、俺だけの城。
闘技場全体がどよめきに包まれた。「な、なんだあれは!?」「神崎の智慧武器は万能型だが、あんな能力はデータにないぞ!」観客席の瀧や結衣、そして対戦相手であるルリでさえも、その瞳に初めて、予測不能なものに対する驚きと警戒の色を浮かべていた。
「……要塞、か。面白い」
だがルリの動揺は一瞬だった。彼女は即座に思考を切り替え、その戦術を「動く的を狩る」ものから、「不動の城を攻め落とす」ものへとシフトさせた。彼女は二丁拳銃を構え直し、今度は加減なしの、本気の弾幕を俺の要塞へと叩き込み始めた。
要塞防衛と反撃の兆し
ズダダダダダダダッ!!
徹甲弾がアダマンタスの表面に火花を散らす。凄まじい衝撃音が連続するが、多層構造のプレートが巧みにその運動エネルギーを吸収し分散させていく。
炸裂弾が要塞の側面で爆炎を上げる。だが柔軟に波打つプレートの表面が、その衝撃波を柳のように受け流してしまう。
さらにルリは銃口から緑色の液体を撒き散らす、特殊な腐食弾を撃ち込んできた。プレートがジュウジュウと音を立てて溶け始めるが、損傷したプレートは即座に内側から押し出され、下から新しいプレートが再生してその穴を塞ぐ。
まさに鉄壁。
だがその代償は大きい。シュタのエネルギーゲージが目に見えて減少していく。
『マスター、エネルギー残量、45%。このまま防御に徹した場合、活動限界時間は、あと180秒です』
「分かってる。だから、ただ守るだけじゃ終わらせない!」
俺は要塞の内側で傷の応急処置を終え、呼吸を整える。そして反撃に転じた。
アダマンタスの表面のいくつかのプレートがスライドし、小さな銃眼(ポート)を形成する。そこから俺は氣を練り上げて作った、無数のエネルギーの針を射出した。
ギデオン先輩を打ち破った「穿空閃」の応用。広範囲に拡散させることで威力は落ちているが、その数は数十。要塞から放たれる、無数の迎撃ミサイルだ。
「!」
ルリは初めて回避行動を取らざるを得なくなった。要塞を攻撃する手を休め、俺が放ったエネルギーの針を、正確無比な射撃で一つ一つ撃ち落としていく。
戦いの流れが変わった。
一方的な「狩り」から、互いに牙を剥き出しにする「攻城戦」へと。
だが状況は依然として俺が不利だった。アダマンタスのエネルギーは再生を繰り返すたびに確実に減っていく。このまま消耗戦を続ければ、いずれ要塞は崩壊し、俺は再び無防備な姿を晒すことになる。
(……やるしかない。あの一撃を、ここで)
俺はこの攻防の最中に一つの大博打を思いついていた。
俺は意図的に、要塞の一部分のエネルギー再生を遅らせた。そこへルリの徹甲弾が集中し、ついに数枚のプレートが完全に破壊され、直径1メートルほどのアナが空く。
「……終わりだ」
ルリはその決定的な隙を見逃さなかった。彼女は黒の銃を構え、その銃口にこれまでで最大級のエネルギーを収束させ始める。要塞ごと俺を貫くための、最大の一撃。
俺は要塞の内側で笑っていた。
――喰いついたな、九重ルリ!
必殺のカウンター:重力レンズ
ルリの必殺の一撃が放たれる、その直前。
俺はアダマンタスに最後の命令を下した。
「シュタ!最終形態へ移行!『重力レンズ』!!」
俺が空けた穴の周囲のヘキサゴンプレートが、目まぐるしく再構築を始める。それはギデオン先輩の重力場操作の理論を応用し、鋼鉄亀のエネルギー伝達構造を逆利用したもの。プレートが形成したのは、入ってきたエネルギーを捻じ曲げ、収束させ、そして増幅させて撃ち返す、巨大なレンズだった。
ルリが放った、全てを終わらせるはずだった破壊の光線が、そのレンズの中心へと吸い込まれていく。
「なっ……!?」
ルリの顔に今日初めて、焦りと驚愕の色が浮かんだ。レンズに吸い込まれた彼女自身の攻撃は、その破壊力を何倍にも増幅され、今、まさに、その主である彼女自身へと、牙を剥こうとしていた。
これは俺が仕掛けた最大の罠。
彼女の最強の矛で、彼女自身を討つための、必殺のカウンターだ。
「……ぐっ……!」
俺はシュタに簡易的な治癒を行わせ、傷口からの出血を強引に塞ぐ。だがルリの弾丸に込められていたであろう特殊なエネルギーが、体内で毒のようにじくじくと痛みを主張し続けていた。ただの弾丸ではない。治癒を阻害し継続的なダメージを与えるための、悪意に満ちた設計。瀧のデータにもここまでの詳細はなかった。
目の前で九重ルリは表情一つ変えず、白の銃に新しいマガジンを装填している。その所作に一切の焦りも油断もない。それは傷を負い、動きの鈍った獲物に対する絶対的な捕食者の余裕だった。
彼女は俺に反撃の機会すら与えるつもりはない。このまま嬲り殺しにする気だ。
このままでは負ける。
回避と反撃を主体としたこれまでの俺の戦い方は、彼女の前では通用しない。俺が動けばその動きを読まれ罠にハマる。俺が止まれば的確な射撃で削り殺される。
八方塞がり。完全に詰んでいる。
――本当に、そうか?
盤面が不利なら新しい駒を投入すればいい。ルールが相手に有利なら、そのルールごと、ステージごとひっくり返してしまえばいい。
俺の脳裏に異世界の荒涼とした渓谷と、あの巨大な亀の姿が浮かび上がった。
そうだ。俺にはまだ残っている。この瞬間のために創り上げた、たった一度きりの究極の切り札が。
究極の切り札、アダマンタス
「シュタ……」
俺は覚悟を決めた。「予定より早いが、やるしかない。切り札を切れ。〝アダマンタス〟を展開する!」
『……了解、マスター。多大なエネルギーを消費します。展開後、私の機能は大幅に制限されますが……よろしいですね?』
「ああ。こいつを凌げなきゃ、次はないんだ!」
俺は最後の力を振り絞って立ち上がると、ステージの床に右の掌を叩きつけた。
「――顕現せよ!『亀甲盾・遍く護るもの』!」
その言葉を合図に世界が一変した。
俺の掌を中心にステージの床から無数の白銀のプレートが、まるで植物が芽吹くように爆発的な速度でせり上がってくる。それらは瞬時に連結し、組み上がり、俺を中心とした半径数メートルの空間を完全に覆い尽くす半球状の巨大なドームを形成した。
ドームの表面は鋼鉄亀の甲羅と同じ、無数のヘキサゴン(六角形)プレートで構成されている。プレートの隙間からはコアとして組み込んだ「水の魔石」のエネルギーが青白い光となって絶えず漏れ出し、ドーム全体がまるで呼吸しているかのようにゆっくりと脈動していた。
それは単なる盾ではなかった。
自己修復能力とエネルギー分散機能、そして内部からの限定的な反撃能力をも備えた、移動可能な要塞。
学園の技術と異世界の神秘が融合して生まれた、俺だけの城。
闘技場全体がどよめきに包まれた。「な、なんだあれは!?」「神崎の智慧武器は万能型だが、あんな能力はデータにないぞ!」観客席の瀧や結衣、そして対戦相手であるルリでさえも、その瞳に初めて、予測不能なものに対する驚きと警戒の色を浮かべていた。
「……要塞、か。面白い」
だがルリの動揺は一瞬だった。彼女は即座に思考を切り替え、その戦術を「動く的を狩る」ものから、「不動の城を攻め落とす」ものへとシフトさせた。彼女は二丁拳銃を構え直し、今度は加減なしの、本気の弾幕を俺の要塞へと叩き込み始めた。
要塞防衛と反撃の兆し
ズダダダダダダダッ!!
徹甲弾がアダマンタスの表面に火花を散らす。凄まじい衝撃音が連続するが、多層構造のプレートが巧みにその運動エネルギーを吸収し分散させていく。
炸裂弾が要塞の側面で爆炎を上げる。だが柔軟に波打つプレートの表面が、その衝撃波を柳のように受け流してしまう。
さらにルリは銃口から緑色の液体を撒き散らす、特殊な腐食弾を撃ち込んできた。プレートがジュウジュウと音を立てて溶け始めるが、損傷したプレートは即座に内側から押し出され、下から新しいプレートが再生してその穴を塞ぐ。
まさに鉄壁。
だがその代償は大きい。シュタのエネルギーゲージが目に見えて減少していく。
『マスター、エネルギー残量、45%。このまま防御に徹した場合、活動限界時間は、あと180秒です』
「分かってる。だから、ただ守るだけじゃ終わらせない!」
俺は要塞の内側で傷の応急処置を終え、呼吸を整える。そして反撃に転じた。
アダマンタスの表面のいくつかのプレートがスライドし、小さな銃眼(ポート)を形成する。そこから俺は氣を練り上げて作った、無数のエネルギーの針を射出した。
ギデオン先輩を打ち破った「穿空閃」の応用。広範囲に拡散させることで威力は落ちているが、その数は数十。要塞から放たれる、無数の迎撃ミサイルだ。
「!」
ルリは初めて回避行動を取らざるを得なくなった。要塞を攻撃する手を休め、俺が放ったエネルギーの針を、正確無比な射撃で一つ一つ撃ち落としていく。
戦いの流れが変わった。
一方的な「狩り」から、互いに牙を剥き出しにする「攻城戦」へと。
だが状況は依然として俺が不利だった。アダマンタスのエネルギーは再生を繰り返すたびに確実に減っていく。このまま消耗戦を続ければ、いずれ要塞は崩壊し、俺は再び無防備な姿を晒すことになる。
(……やるしかない。あの一撃を、ここで)
俺はこの攻防の最中に一つの大博打を思いついていた。
俺は意図的に、要塞の一部分のエネルギー再生を遅らせた。そこへルリの徹甲弾が集中し、ついに数枚のプレートが完全に破壊され、直径1メートルほどのアナが空く。
「……終わりだ」
ルリはその決定的な隙を見逃さなかった。彼女は黒の銃を構え、その銃口にこれまでで最大級のエネルギーを収束させ始める。要塞ごと俺を貫くための、最大の一撃。
俺は要塞の内側で笑っていた。
――喰いついたな、九重ルリ!
必殺のカウンター:重力レンズ
ルリの必殺の一撃が放たれる、その直前。
俺はアダマンタスに最後の命令を下した。
「シュタ!最終形態へ移行!『重力レンズ』!!」
俺が空けた穴の周囲のヘキサゴンプレートが、目まぐるしく再構築を始める。それはギデオン先輩の重力場操作の理論を応用し、鋼鉄亀のエネルギー伝達構造を逆利用したもの。プレートが形成したのは、入ってきたエネルギーを捻じ曲げ、収束させ、そして増幅させて撃ち返す、巨大なレンズだった。
ルリが放った、全てを終わらせるはずだった破壊の光線が、そのレンズの中心へと吸い込まれていく。
「なっ……!?」
ルリの顔に今日初めて、焦りと驚愕の色が浮かんだ。レンズに吸い込まれた彼女自身の攻撃は、その破壊力を何倍にも増幅され、今、まさに、その主である彼女自身へと、牙を剥こうとしていた。
これは俺が仕掛けた最大の罠。
彼女の最強の矛で、彼女自身を討つための、必殺のカウンターだ。
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