マイルームから異世界転移?!二つの世界の力を使って成り上がる

破滅

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静かなる日常と、新たな絆

第三十五話  奇跡の設計図、最初の材料

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テスラ・アイゼンハルト。機巧院が誇る若き天才は、今の俺にとって唯一の希望だ。彼女との出会いから一夜明けた木曜の夕刻、俺は再び彼女の混沌の城――個人工房の分厚い防爆扉の前に立っていた。北海道・北見市の6月の夕暮れはまだ肌寒さを感じることもあるが、工房の中から漏れ聞こえる機械の駆動音とテスラの熱っぽい独り言は、そんな外気とは無関係の灼熱の情熱を宿していた。

「――来たね、神崎翔。さあ見てよ!私たちの奇跡への第一歩を!」

俺が入るなりテスラは興奮を隠しきれない様子で工房の中央を指差した。そこには巨大で、この世のものとは思えないほど複雑な青い光の設計図がホログラムとして浮かび上がっていた。無数の数式、エネルギーの流れを示すベクトル、そして幾何学的な構造体。それはまるで一つの銀河を精密に再現したかのような神の領域の設計図だった。

「こ、これが……?」
「そう!私が昨夜徹夜で組み上げた、理論上の『安定化時空ワームホール発生装置』の設計図だよ!」
テスラは得意げに胸を張った。「あんたの話に出てきた『次元の裂け目』だの『ゲート』だのっていう不安定な自然現象を、科学の力で人為的に、そして安定的に再現するための理論モデルさ。まあ、あんたに分かるようにちょー簡単に説明すると、この装置を完成させるには大きく分けて三つの絶望的に入手困難なモノが必要になる」

彼女はホログラムのパーツを一つずつ指で示しながら説明を始めた。

「第一に、『安定した巨大エネルギー源』。話にならないくらい途方もない量のエネルギーだよ。この学園都市全体が一日に消費する電力をたった一マイクロ秒に凝縮して叩き込む必要がある。もちろん機巧院のメインリアクターに不正アクセスなんてすれば一瞬で私たちは拘束されておしまい」

「第二に、『次元の定着材(アンカー)』。つまり俺たちが行きたい『異世界』の座標を示すための道しるべだね。これがないとゲートの出口がどこに繋がるか分からない。恒星のど真ん中か何もない真空空間に放り出されておしまい」

「そして第三に、『共振フレーム』。ゲート発生時に起こる凄まじい時空の歪みに耐えられるだけの物理的な器だよ。そこらへんの金属じゃ原子レベルで分解されておしまい。……どう?見事に全部〝おしまい〟だろ?」

テスラは悪戯っぽく笑った。だがその瞳は本気だった。彼女はこの不可能だらけの設計図を本気で実現させようとしている。

「……いや」俺は首を横に振った。「一つだけある」
「え?」
俺はバックパックから厳重に何重ものエネルギー遮断ケースに収められた、あの『瘴気の核』を取り出した。ケースを開けた瞬間、工房内の空気が澱み冷える。禍々しい紫黒の水晶がテスラの作り出した未来的な空間の中で異様な存在感を放っていた。

「……これ……まさか……」
「ああ。俺が向こうの世界から唯一持ち帰ってきた〝置き土産〟だ。これが次元のアンカーになるんじゃないか?」

テスラの顔が興奮と、そして科学者としての恐怖に引きつった。「……混沌とした次元の結晶化した〝種〟……!あんた、本当に歩く厄災製造機だね!危なすぎる……危なすぎるけど……!そう、これなら最高のアンカーになる!むしろこれ以上のものはない!」

一つ、道が拓けた。だが問題は残りの二つだ。巨大なエネルギー源と特殊な素材。どちらも俺やテスラのようなただの学生がどうこうできるレベルのものではない。
「……完全に手詰まりか……」
俺たちが頭を抱えたその時だった。

ピピッ、と俺のタブレットが短い着信音を鳴らした。そこに表示された名前に俺は目を見開いた。差出人は九重ルリ。決勝戦で死闘を繰り広げたあの〝災厄の魔弾〟からだった。メッセージはあまりにも簡潔だった。

『医務室の屋上。一人で来い』

好敵手からの誘い
夕日が学園都市を茜色に染めていた。俺は言われた通り一人で医務室の屋上へと向かった。そこに彼女は一人で静かに手すりに寄りかかって沈みゆく夕日を眺めていた。
「……何の用だ、九重先輩」
「……神崎翔」

彼女はゆっくりとこちらに向き直った。その表情は試合の時と同じ、能面のような無表情。だがその瞳の奥には何か強い葛藤の色が浮かんでいるように見えた。

「……お前のあの最後の技。そしてギデオン・レオンハルトを破った、あの不可解な一撃。お前の力は、この学園都市のどのカテゴリーにも属さない〝異質なもの〟だ。違うか?」

彼女は俺の秘密を暴こうとしているのではなかった。ただ純粋な技術者としての探求心。そして敗者としての渇望。「……私は負けた。そして負けた理由が理解できない。それが何よりも我慢ならない」
彼女はそう言うと、一つの意外な提案を口にした。「……取引をしよう、神崎翔」
「取引?」
「そうだ。私の学園、不知火兵廠は世間からはただの〝兵器屋〟だと蔑まれている。だが私たちの技術――特にエネルギーシステムに関するそれは、七大学園のどこにも負けない自負がある。……私は私の学園の本当の価値を証明したい。そのためにあんたの、その〝異質な力〟の秘密の一端が知りたい」

彼女はそこで言葉を区切ると、信じられないことを言った。「あんたは今、途方もないエネルギー源を探している。違うか?……私の学園の地下研究施設には、極秘裏に開発が進められている次世代の実験用リアクターがある。理論上この学園都市のメインリアクターを遥かに凌駕する出力を叩き出す、極めて不安定な代物……」
彼女が言っているのはおそらく、機巧院の理論論文でしか存在しないはずの幻の動力炉。「――『Z粒子反応炉(ゼータ・リアクター)』」

俺の耳についていたテスラが仕込んだ超小型通信機から、彼女の息を呑む音が聞こえた。『……Z粒子反応炉が実在したなんて……!もしそれが手に入るなら……!』

「私がそのリアクターへあんたを手引きしてやる」とルリは言った。「その代わり、見せてもらうぞ。あんたが私の知らない世界の理(ルール)をどうやって捻じ曲げるのかをな」

もはや俺に断るという選択肢はなかった。元・好敵手(ライバル)からのあまりにも危険で、そしてあまりにも魅力的な悪魔の囁き。俺たちのシュタを救うための不可能任務は、今や他の学園の最高機密を盗み出すという犯罪計画(ハイス ト)へと変貌しようとしていた。

俺は夕日に染まる彼女に黙って右手を差し出した。「……取引、成立だ。九重先輩」

彼女はその手を強く握り返した。こうして、俺と天才技術者と、そして災厄の魔弾と呼ばれた元・敵との奇妙な秘密の同盟が結ばれた。シュタを取り戻す。そのただ一つの目的のために。
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