マイルームから異世界転移?!二つの世界の力を使って成り上がる

破滅

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静かなる日常と、新たな絆

第三十六話  火薬庫の扉、六十秒の攻防

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夜の闇が第七学園不知火兵廠を冷たい沈黙で包んでいた。だがその沈黙は平和のそれではない。獲物を待ち構える肉食獣の息を殺した静けさだ。俺とルリは音や光を吸収する漆黒のステルス・ギアに身を包み、その獣の顎の中へと足を踏み入れていた。

『――翔、聞こえるか』
耳の超小型通信機から、懐かしい親友の声が時空を超えてクリアに聞こえてきた。異世界にいるはずの瀧がテスラが作り出した瘴気の核をアンカーとする超次元通信装置を介して、この作戦の本当の司令塔となっていた。
「ああ。クリアに聞こえる」
『よし。テスラ、そっちの状況は?』
『こっちも問題ないよ。瀧のハッキング・プログラム、順調に作動中。不知火のメインフレームへの裏口(バックドア)構築、第一次フェイズ、完了』
俺の工房で膨大なコンソールを前に指を踊らせているであろうテスラの頼もしい声が続く。
『ルリ、あんたの位置情報はちゃんあんたの学生IDの正規ルート上に偽装してるからね。万一警備員に職務質問されても言い訳できるようにしておきな』
「……分かっている。それより先を急ぐ」
ルリの冷静な声が通信機から響く。
翔(俺)、ルリ、テスラ、そして瀧。四人のそれぞれの場所から、この前代未聞の潜入作戦(ハイス ト)は始まったのだ。

不知火兵廠のキャンパスはもはや学校ではなかった。
定期的に正確なルートを巡回する武装した警備兵。建物の至る所に設置された動体検知センサーと自動追尾式の機銃(セントリーガン)。そしてそれら全てを中央管理室で24時間監視している鉄壁のセキュリティシステム。

だがその鉄壁には俺たちの軍師の目から見ればいくつかの〝綻び〟があった。
『……前方50メートル、巡回班が二人。30秒後に角を曲がる』
瀧の声が俺の頭の中に直接響く。
『お前たちは右手の大型ジェネレーターの影に身を隠せ。……今だ!』
俺とルリはアイコンタクトだけで互いの意思を理解し音もなく影から影へと飛び移る。
瀧の神がかり的なタイミングの指示。ルリのこの場所を知り尽くした最短ルートの選択。そして俺の人並み外れた身体能力と気配察知。
三つの力が完璧に噛み合い、俺たちは誰にも気づかれることなく、まるでこの場所に存在しない幽霊のように目的の地下第7研究ブロックの入り口へとたどり着いた。

そこは厚さ数メートルのチタン合金製の巨大な防爆扉で固く閉ざされていた。
その脇にある認証システムには網膜、声紋、静脈、心拍数までを計測する多重の生体認証ロックがかけられている。
「……ここからは私の権限でも開けられない。この扉の向こうにお目当ての『Z粒子反応炉』がある」
ルリが小声で言った。

タイムリミット
『……いよいよ本番だな』
瀧の声が通信機から緊張の色を帯びて聞こえてきた。
『ルリ、テスラが作ったバイパスモジュールを制御パネルの側面に設置しろ。……テスラ、準備はいいか』
『とっくの昔にね!』
工房のテスラが応える。
『不知火の誇る鉄壁のセキュリティ〝ケルベロス〟。その三つの首を同時にハッキングで眠らせてやる!ブルートフォース(総当たり)方式で第一層の暗号を無理やりこじ開ける!』

『……いいか、翔、ルリ』
瀧の声が一段と低くなる。
『このハッキングがシステムの中枢に異常として検知されるまでのタイムリミットはわずか60秒。それを一秒でも超えれば俺たちの侵入はバレてこの区画は永久にロックダウンされる。……そうなったら翔……』
「分かってる」と俺は答えた。「戦って血路を切り開くしかない」

ルリがバイパスモジュールを制御パネルに吸着させる。
その瞬間、俺の視界の隅にテスラが転送してくれた赤いデジタル数字の絶望的なカウントダウンタイマーが表示された。

【60】

テスラの猛烈なタイピング音だけが通信機から聞こえてくる。

【59】

第一層、プロテクト・コード、解読開始。

【58】

第二層、生体認証データ、偽装シグナル、注入開始。

【57】

緊張で喉がカラカラに乾く。

間一髪
その心臓に悪いカウントダウンが始まった直後だった。
俺たちの背後。今通ってきた長い通路の遥か向こうから、コツコツと複数の規則的な足音がこちらに近づいてくるのが聞こえた。
巡回の警備兵だ。しかも一人や二人ではない。おそらく四人一組(一個分隊)の重武装した巡回部隊。

「……まずいな」
ルリが忌々しげに吐き捨てる。
俺はゆっくりと腰を落とし、いつでも動けるように戦闘態勢に入った。
その手にはまだ沈黙したままのシュタのブレスレットが、この未来都市の無機質な照明を反射して冷たく光っていた。

【46】

足音は徐々に、しかし確実にこちらに近づいてくる。
俺は壁の影に身を潜め息を殺した。

【32】

『……テスラ、まだか!』
瀧の焦った声が響く。
『うるさい!分かってるよ!ここのセキュリティ、設計した奴、頭、おかしいんじゃないの!?』
テスラの悲鳴のような声が返ってくる。

【21】

足音がすぐそこまで来ている。
角を曲がれば俺たちは確実に見つかる。

【15】

万事休すか。
俺が最後の手段――戦闘による強行突破――を覚悟したその時だった。

ガシュン、という静かなロックの解除音。

【10】

目の前の巨大な防爆扉の認証ランプが赤から緑へと変わった。

『――開いた!行け、二人とも!』
テスラの歓喜の叫び。

俺とルリはアイコンタクトだけで互いの意思を疎通させると、音もなく扉の奥へとその身を滑り込ませた。
俺たちが完全に中に入った直後。
防爆扉は再び重々しい音を立てて閉ざされた。

扉の向こう側で警備兵たちが「……ん?何か今物音がしなかったか?」「気のせいだろう」と会話する声が微かに聞こえた。

俺たちはついに不知火兵廠の心臓部へとたどり着いたのだ。
だが本当の危険はここから始まる。
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