DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅

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第一章 不遇職の拳士

第24話「同盟の作戦会議」

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疾風雷電との作戦会議、当日。
翔とリナは、約束の時間に、王都アグウェーの中央広場に面した一等地にそびえ立つ、壮麗な建物へと足を踏み入れた。疾風雷電のギルドハウス。それは、彼らが拠点とする安らぎ亭とは、規模も豪華さも、何もかもが別次元の建造物だった。

大理石の床、天井には巨大なシャンデリアが輝き、壁にはギルドが成し遂げてきた数々の偉業を示す記念の品々が飾られている。行き交うメンバーは、誰もが一流の風格を漂わせていた。たった二人でやってきた翔とリナは、否が応でも、自分たちがこの巨大な組織の「お客様」であることを実感させられた。

「…すごい。これが、トップギルド…」

リナが、圧倒されたように呟く。
彼らは、ギルドの受付で名前を告げると、最上階にあるという作戦司令室へと案内された。
重厚な扉を開けると、そこにはすでに、今回の攻略に参加するであろう、疾風雷電の精鋭たちが集まっていた。中央の円卓を囲むように座るその顔ぶれは、誰もがDPOの最前線を走るトッププレイヤーたちだ。

「よく来てくれたな、ショウ、リナ。さあ、座ってくれ」

上座にいたジョーが、笑顔で二人を招き入れる。しかし、他のメンバーの中には、明らかに二人を訝しむような、あるいは敵意すら感じさせる視線を向けてくる者もいた。

「ジョー。本当に、こいつらと組むのか?」

口火を切ったのは、岩のような巨躯を、全身を覆う白銀の重鎧に包んだ大男だった。その背中には、城門と見紛うほど巨大な盾が背負われている。疾風雷電のメインタンクにして、守りの要、『剛盾ごうじゅんのゲイル』。彼は、ギルドの古参メンバーであり、伝統的な戦術を重んじる、保守的な思想の持ち主として知られていた。

「ああ、そうだ、ゲイル。彼らのギルド『聖域』は、我々の対等な同盟相手だ」

「対等、だと? 聞き捨てならんな。たった二人の、昨日今日できたようなギルドが、我々と対等だと? 冗談もよせ」

ゲイルの言葉には、あからさまな侮蔑が込められていた。彼の隣に座る、斥候らしき軽装の女性や、神官服の女性も、不安そうな顔で翔たちを見ている。

「ゲイル、やめなさい」
その場の空気を変えたのは、ゲイルの反対側に座る、落ち着いた雰囲気の女性だった。彼女は、癒し手であるクレリックの装束を身につけているが、その瞳は、全てを見通すかのように理知的で、鋭い。
「彼らが、オークキングとワイバーンを討伐した実績の持ち主であることは、紛れもない事実です。その力を、まずは我々自身の目で見極めるべきではありませんか?」

彼女は、『千里眼せんりがんのサラ』。疾風雷電の副ギルドマスターであり、パーティの頭脳を担う、最高のヒーラー兼戦術分析官だ。
サラの言葉に、ゲイルは一度は黙ったものの、その表情は納得しているとは言い難かった。
ジョーは、そんなギルド内の不和を断ち切るように、パン、と手を叩いた。

「まあ、細かい話は後だ。まずは、現状の確認から始めよう」

ジョーが円卓の中央にある水晶に触れると、空中に、『忘れられた王の墓所』の立体的な地図が投影された。

「ご存知の通り、このダンジョンの第一階層は、物理攻撃が効かない亡霊ファントムの巣だ。これまでは、うちの神官たちが聖属性魔法で対処してきたが、MPの消費が激しく、第二階層に到達する頃には、いつもガス欠寸前だった。そこで、だ。リナ君」

ジョーは、リナへと視線を向ける。
「君には、純粋な魔法アタッカーとして、この第一階層のファントム殲滅の主軸を担ってもらいたい。君のINT(知力)と魔法スキルなら、うちの神官たちよりも、遥かに効率よく敵を排除できるはずだ」

「…はい! お任せください!」

リナは、期待をかけられたことに、力強く頷いた。
問題は、次だった。

「そして、第二階層『機械仕掛けの庭園』。ここにいる守護者ガーディアンは、逆に魔法攻撃への強い耐性を持つ。我々の物理アタッカーがこれまで挑んできたが、そのあまりの硬さに、有効なダメージを与えられずにいる。そこで、ショウ君、君の出番というわけだが…」

その瞬間、再びゲイルが口を挟んだ。
「待て、ジョー。それは、どういうことだ? ガーディアンの装甲は、俺の知る限り、並の物理攻撃など通じん。魔法が効かないなら、強力なエンチャントが施された武器で、その装甲を砕くしかないはずだ。それを、素手で戦う拳士に任せると言うのか? 彼の拳など、ガーディアンにとっては、蚊が刺した程度にも感じんだろう!」

ゲイルの言葉は、正論だった。ここにいる誰もが、同じ疑問を抱いていた。
シン、と静まり返る司令室。全ての視線が、翔へと注がれる。
だが、翔は、動じなかった。彼は椅子から静かに立ち上がると、ゲイルに向かって、静かに、しかしはっきりと告げた。

「口で言っても、仕方ないな。――試させてもらえないか?」

――――――――――――――――――――

場所は、疾風雷電のギルドハウス地下にある、広大な訓練場へと移っていた。
中央には、巨大な盾を構え、全身から威圧的なオーラを放つゲイル。そして、その反対側には、ただ静かに、自然体で立ち尽くす翔の姿があった。
攻略メンバー全員が、固唾を飲んでその対峙を見守っている。

「いいか、若いの。後悔するなよ。俺の【金剛の構えこんごうのかまえ】は、竜のブレスすら弾く、絶対防御だ。お前の拳など、触れることすらできんぞ!」

ゲイルが叫ぶと、その全身が黄金の光に包まれる。STRとDEFを極限まで高める、彼の最強の防御スキルだった。
だが、翔は、その鉄壁の守りを、真正面から打ち破るつもりなど、毛頭なかった。

「――始め」

ジョーの合図と共に、翔の姿が、その場から掻き消えた。

「なっ!?」

ゲイルが驚愕の声を上げる。翔は、一直線に彼に向かうのではなく、新たに手に入れた『瞬足の具足しゅんそくのブーツ』と、自ら編み出した【空歩】を組み合わせ、予測不可能な三次元的な機動で、ゲイルの視覚を揺さぶる。
右へ、左へ、そして、上へ。
ゲイルが、その巨体に見合わぬ速度で盾を動かし、翔の動きに対応しようとする。だが、翔の動きは、その更に上を行った。

彼は、ゲイルの頭上を飛び越えるように【空歩】で跳躍すると、ゲイルの背後、盾の死角へと回り込んだ。

「――そこだ!」

ゲイルが慌てて振り返る。だが、その時には、すでに翔の冷たい指先が、彼の鎧と兜の、ほんの僅かな隙間――首筋に、触れていた。もしこれが実戦で、翔の指が短剣であったなら、ゲイルの命は、この瞬間に終わっていた。

「……こういうことだ」

訓練場に、静寂が訪れる。
絶対防御を誇るゲイルが、一度も攻撃を交わすことなく、完全に無力化された。その事実に、疾風雷電のメンバーは、言葉を失う。

「…彼の戦い方は、『破壊』じゃない…。『無効化』よ」
最初にその意味を理解したのは、戦術分析官であるサラだった。
「どんなに硬い鎧も、どんなに巨大な盾も、それを装備しているのは生身の人間。その隙間を、急所を、正確に突くことができるのなら、防御力という概念そのものが意味をなさなくなる…。ガーディアンが、もし人間と同じような構造を持つなら、彼は、最高の切り札になるわ…!」

ゲイルは、首筋に翔の指を感じたまま、呆然と立ち尽くしていた。そして、やがて、降参したように、ゆっくりと両手を上げた。

「…俺の、負けだ」

その一言で、ギルド内の不和は、完全に消え去った。
もはや、翔の実力を疑う者は、誰もいない。
ジョーは、満足げな笑みを浮かべ、全員に向かって高らかに宣言した。

「作戦会議は、以上だ! 全員、準備を整えろ!
――明日、夜明けと共に、『忘れられた王の墓所』攻略を開始する!」
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