DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅

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第一章 不遇職の拳士

第26話「慟哭の番人」

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『忘れられた王の墓所』第一階層、嘆きの回廊。
翔とリナの連携を新たな戦術の核とすることで、疾風雷電と聖域の合同攻略パーティは、驚異的な速度でその歩みを進めていた。
リナが放つ聖なる光が闇を祓い、翔が振るう守護の拳が仲間を守る。物理攻撃が効かないという、この階層最大のギミックは、彼ら二人の前ではもはや障害足り得なかった。疾風雷電のメンバーたちも、当初の疑念を完全に払拭し、今や二人に絶対的な信頼を寄せていた。

「すごいな、あの二人…。まるで、長年連れ添ったコンビのようだ」
タンクのゲイルが、翔の動きに見惚れたように呟く。

「ええ。ショウ君の予測と体捌き、リナさんの魔法火力と精度。どちらか一方が欠けても、この戦術は成り立ちません。まさに、奇跡の歯車ですね」
副ギルドマスターのサラも、冷静な分析の中に、隠しきれない称賛を滲ませていた。

回廊を進むにつれて、すすり泣きの声は次第に大きくなり、出現する亡霊ファントムの質も変化していった。これまでの人型の霊だけでなく、かつてこの王墓を守っていたのであろう、巨大な獣の霊や、重々しい鎧を纏った騎士の霊、『慟哭の騎士どうこくのきし』が姿を現し始めたのだ。
それらの強力な霊体は、リナの通常魔法一撃では浄化しきれず、パーティは何度か危機的な状況に陥った。だが、その度に翔が神業的な動きで敵の攻撃を受け流し、時間を稼ぎ、その間にリナが次弾を叩き込む、という完璧な連携で、全ての困難を乗り越えていった。

そして、長い回廊を抜けた先で、彼らはついに、この階層の元凶が待つ、巨大な円形の広間へとたどり着いた。
広間の中央には、黒い霧のようなものが渦巻いていた。その霧は、無数の苦悶の表情を浮かべた霊体で構成されており、それらが寄り集まって、一つの巨大な「塊」を形成している。塊の中心部からは、ひときわ大きく、絶望的な慟哭が響き渡っていた。

「あれが、第一階層の番人…『慟哭の番人どうこくのばんにん』か…!」

ジョーが、緊張の滲む声で言った。
番人がその存在を主張するかのように、咆哮を上げる。それは、プレイヤーの精神を直接削り取る、強力な呪いの波動だった。

パーティ全体に【悲哀】のステータス異常が付与されます。
パーティ全体のMPが、持続的に減少していきます。

「ヒーラーは、全体のステータス異常解除と、MP回復支援を最優先! タンクは、周囲に召喚される雑魚霊体の処理を! アタッカーは、リナ君の護衛に集中しろ!」

ジョーの的確な指示が飛ぶ。
番人は、その巨体から次々と小型のファントムを生み出し、パーティへとけしかけてくる。ゲイルたちが、その雑魚霊体を必死に食い止める。
リナは、パーティの生命線であるヒーラーたちの負担を少しでも減らすべく、番人の本体へと、最大級の攻撃魔法を放った。

「天光よ!――【アークライト】!」
聖なる光が、番人の本体へと直撃する。だが、光は、その黒い霧の表面で拡散し、決定的なダメージを与えるには至らなかった。

「ダメだわ! 中心部にある核を直接叩かないと…! でも、そのためには、もっと強力な、詠唱時間の長い魔法が必要になる…!」

リナが、悔しそうに叫ぶ。
その間にも、番人が召喚する雑魚霊体の数は増え続け、ゲイルたちの防衛線は、少しずつ後退を始めていた。このままでは、ジリ貧だ。

その絶望的な状況を、翔は冷静に見つめていた。そして、彼は、この戦局を打開するための、唯一の方法を導き出す。

「ジョーさん!」
翔が、叫んだ。
「全員、リナの護衛に集中してくれ! ここの敵は、俺が一人で引き受ける!」

「なっ…! ショウ君、無茶だ! 君一人で、あの数を…!?」

「いいから、頼む!」

その真剣な眼差しに、ジョオは一瞬ためらったが、すぐに頷いた。
「…わかった! 君を信じよう! 全員、リナ君の護衛に回れ! 彼女の詠唱を、何があっても死守するんだ!」

翔は、パーティの面々がリナの周囲に防御陣形を敷くのを確認すると、一人、前方へと躍り出た。そして、番人と、その周囲に群がる全ての霊体に向かって、高らかに宣言した。

「――お前たちの相手は、この俺だ!」

彼は、装備した『豚鬼王の籠手オークキング・ガントレット』の特殊効果、【王の咆哮キングス・ロア】を発動させる。凄まじい覇気の波動が、周囲の雑魚霊体を一瞬だけ怯ませる。
その隙に、翔は敵集団のど真ん中へと突っ込んだ。
彼の目的は、敵を倒すことではない。敵の攻撃、その全てを自分一身に引きつけ、リナが究極魔法を完成させるための「時間」を稼ぐこと。それは、あまりにも無謀で、自殺行為に等しい役割だった。

ファントムたちの、無数の霊的な爪や牙が、四方八方から翔へと襲いかかる。
だが、彼は、その全てを捌いてみせた。
【空歩】で宙を舞い、敵の頭上を飛び越え、神崎流の体術で攻撃を受け流し、時に自らの肉体を盾にして、後方への攻撃を寸断する。
それでも、捌ききれない攻撃が、彼の体を少しずつ蝕んでいく。HPが、危険な領域まで削られていく。

「サラさん! ショウ君にヒールを集中させて!」

「わかっています!」

ヒーラーであるサラの回復魔法が、雨のように翔へと降り注ぐ。ダメージを受け、回復し、またダメージを受ける。その壮絶な攻防は、まさしく死闘だった。
翔は、薄れゆく意識の中で、ただ一点、背後で膨大な魔力を練り上げているであろう、相棒の存在だけを信じていた。

(まだか、リナ…!)

そして、ついに、その時は来た。
リナの全身から、これまでとは比較にならない、眩いばかりの聖なる光が溢れ出す。

「ショウ、ありがとう…! もう、大丈夫よ!」
彼女の澄んだ声が、翔の耳に届く。
「一条の聖光となりて、闇を貫け! 私の最強魔法…喰らいなさい!――【聖光の一矢ホーリー・アロー】!」

リナの杖先から放たれたのは、もはや魔法というよりは、神の裁きそのものだった。極限まで圧縮された聖なるエネルギーの矢が、空間そのものを歪ませながら、慟哭の番人の核目掛けて、一直線に突き進む。

ギャアアアアアアアアアアアアッ!!!

番人は、これまでとは比較にならない、断末魔の絶叫を上げた。
聖光の矢は、その邪悪な存在を、核の一点から完全に蒸発させていく。
やがて、番人の巨体は跡形もなく消え去り、同時に、回廊全体を包んでいた、あの忌まわしいすすり泣きの声が、ぴたり、と止んだ。
静寂が、訪れる。
第一階層は、完全に、沈黙した。

パーティの誰もが、言葉を失って立ち尽くしていた。
そして、その視線の先には、満身創痍で膝をつきながらも、確かに立っている、一人の拳士の姿があった。
彼は、一撃のダメージも与えていない。だが、ここにいる誰もが理解していた。
この勝利は、たった一人、彼が稼いだ時間のおかげなのだと。

翔は、駆け寄ってきたリナに支えられながら、ゆっくりと顔を上げた。
目の前には、第二階層へと続く、巨大な扉が、その口を開けて待っている。
彼らの挑戦は、まだ終わらない。
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