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1章

1.終わりと始まり

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 どうも、こんにちは。名も無きモブ、男子高校生Cです。
 つってもモブであることに特に不満はない。主人公になれるような、波瀾万丈な人生ではないが、それってつまりは、平凡で、平穏な人生な訳で。
 いいと思うけどな。俺は。今日も平和に下校中だ。
 とは言え、主人公に憧れない訳でもない。俺だって男子だぞ。小さい頃の夢はヒーローだったし。
 あ、でも最近RPGのジョブで気に入ってんのは魔法使いだな。剣士とかもかっこいいよなぁ。素手で戦えて、剣も魔法も使えたら最高なんだけど、そんなのは一周回ってクソゲーだ。
 なんて考えながら電車から降り……くそ。おっさん邪魔だよ。降りようとしてんのわかんだろ。ドアの前陣取るな。退け。

「すいません、降りたいんですけど」

「……チッ」

 おーい。今舌打ちしたなコラ。聞こえてんぞボケ。
 という心の内は隠して、会釈をして電車を降りる。俺はオトナだからな。オマエと違ってなぁ!
 今日は体育もあったし、国語の小テストは満点だったし、部活オフだからゲームしよう、と折角気分良かったのに、おっさんめ。
 と、ぶつくさ言いながら改札を出て歩く。
 駅前の交差点の横断歩道に差し掛かった時、左の方から車が来る音が聞こえてふとそっちを見る。「ちゃんと止まるよな?」みたいな確認をしたくなっちゃうんだよなぁ。
 ……止まるよな?信号、赤だぞ?

「っ!クソが!」

 よく見りゃ寝てんじゃねぇか!目が良くてここまで感謝したのは初めてだ。
 これは突っ込んで来る。だけならまだしも、このままだと俺の少し先を歩いている小学生に激突だ。
 これを見逃せるほどクズになったつもりはない。

「おい、逃げろ!」

 とりあえず叫ぶが、咄嗟に避ける、なんてのを小学校中学年(?)の女の子に求めるのはちょっと無理があるだろう。
 間に合えよ、と思いながら叫ぶと同時にバッグを捨てて走り出す。短距離選手舐めんなよ。……ぶっちゃけ言う程速くないが。
 怪我させたくねぇ、と思いながらも死ぬよりマシだろうと、女の子を突き飛ばす。顔に怪我とかしなきゃいいけd

「!」

 身体に衝撃が走ると同時に景色がグルッと動いた。
 その瞬間、自分が吹っ飛ばされたこと、これだけ飛んだら多分助からないだろうこと、を理解した。
 かろうじて感じる身体の感覚からして、大きく前に出していた右腕と頭は、多分トラックにぶつかってない。ぶつかったのは下半身だろう。多分ね。多分。
 頭が無事なら生きていられる様な気もする、というか、そう思いたくなるが、内臓が一部無事ではない気がする。さらに、大分飛んでるっぽいから、地面に叩きつけられて死ぬだろう。上下左右が分からん上に、受け身の技術は持ち合わせていない。
 受け身が取れたとて、無事では済まないだろうし、そのまま真っ直ぐ走って来たトラックに潰される可能性もある。
 ……こりゃ死ぬな。
 女の子を突き飛ばした俺の右腕が本当に無事なら、あの子は生きてる、よな?
 助けて死ぬなら、まぁ、良いか?……良くはねぇな。
 しかしまぁ、人間の脳みそってすげぇなぁ。一瞬でこんな量の思考をするんだもんなぁ。走馬灯じゃなかったし、目が覚めたら病院のベッドの上でしたとか、ないかなぁ。
 ほら、よくあるじゃん。可愛い彼女が目に涙を浮かべてこっち見て、『よかったぁ』って言ってくれるやつ。
 ……ま、彼女いねぇけど。
 ほんとに最期だったらどうすんだよ。こんなアホな事考えて死ぬのかよ。
 父さん、母さん、ごめんな。でも、女の子助けたから褒め……て…………


 …………


 気が付くと俺は、

「おぎゃー、ふぇっ、ふえ、おぎゃーんぎゃー」

 泣いていた。
 え?は?はぁぁ⁉︎
 ちょ、何?どうなってんの⁉︎
 『よかったぁ』は⁉︎……あ、違う。彼女はいない。じゃあ、あれだ、白衣の天使の微笑み!『目が覚めたんですね』って!笑顔で!言ってくれるだろ⁉︎
 軽くパニックになりながら、手足をバタバタと動かして……
 ん?なんか、こう、違和感。

「ふえっ、ふっ、う」

 俺が少し冷静になってくると、俺も泣き止んで……ええい紛らわしい!
 さっきの違和感、手足が短い感じがしたんだよな。それから、今気付いたが、目が見えん。耳……は、聞こえる、でいいんだと思うが、いかんせん、何を言っているかわからん。人間の声だろう、ということしか分からないのだ。……『人間』の声だよな?
 と、冷静に考えて、ある一つの仮説が立った。
 『転生』したのでは?と。
 これは多分、赤ん坊からやり直しパターンだ。手足が短いのもそうだし、生まれたばかりの時は目が見えないと聞いたことがある。……先天性の病気でないことを祈ろう。今のところ判断しようもないな。
 となれば、疑問が一つ。
 神様って、いないの?
 いや、神様の使いとかでいいんだけどさ、なんか説明ないの?最近の転生系の小説はちゃんと説明あるだろ?ほら、『死んじゃったのは可哀想なので転生させてあげましょう』って。……無し?
 というか、待って。わかってたけど、死んだの?助からないって思ったよ?思ったけどさ、本当に死んじゃったの?
 ……まぁ、なんにせよ、こうなっちまったもんはしょうがねぇ。夢でした、でない限りは戻れないだろう。
 幸か不幸か、生まれたばかり(だろうと思われる)で自我がある。多少生きやすい部分もあるだろう。
 今だって、精神と身体がなんとなく別々だ。どちらも俺であることに変わりはないんだが、なんというか、チグハグな感じがあるんだよな。しっかりと思考してるが、身体は未だにべそかいてる状態だ。生まれたばかりの赤ん坊に難しい顔で考え事されても困るからな。これは、良かったと思う。そのうち馴染む、と思いたい。
 逆に、大変な部分もあるかもしれんが、なるようになるとしか言えんな。
 そもそも、人間に転生した体で考えているが、人間じゃない可能性もあるんだよな。そうするとまた、考えないといけないことが増える、なぁ。……はぁ。
 ……眠くなってきたな。生まれたばかりの赤ん坊(仮)なんて、そう体力のあるもんじゃない。しょうがないか。
 とりあえず俺は新たな生を満喫するってことで。
 おやすみぃ。
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