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1章

2.俺って、こんなやつでした

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 さぁ、元男子高校生Cがどうなったか、皆さん知りたくないですか?そうでもない?だがしかし聞け。
 あの転生からもう六年。俺は六歳になったのだ!
 心配してた種族だが、人間だった。変な生き物じゃなくて良かったよ。
 ちなみに、赤ん坊の頃はちぐはぐだった精神と身体は、幼い身体の方に若干引っ張られる形で落ち着いた。現在は、考え事をしながら、しかし身体は子どもらしくはしゃぎ回る、なんて一人サーカス現象はなくなった。……三歳くらいまではたまにあった。
 今世の名前は、ロアン・アスター。前世と同じ黒髪に、深い青色の瞳。この瞳の色は結構気に入っている。
 名前でなんとなくお察しかも知れないが、よくある中世ヨーロッパみたいなファンタジー世界に転生したっぽい。
 何故『ぽい』なのかって?まだ六歳だぞ?わかんないことだらけなんだよ。一人で出歩くこともできないからな。情報収集の手段なんて神話とか勇者伝説とかいう絵本か、伝承なんかだ。こういうのは、おまけモリモリ出血大サービスの大盛り特盛てんこ盛りってのが通例だからな。信用できん。
 俺が住んでいるのはセントメラ王国のパドラって街で、両親はここで食堂兼居酒屋を営んでいる。なんつーか、前世のファミレスみたいなもんか?俺も最近店に出て手伝いを始めた。と言っても、昼間、食堂として店を開いている時間だけな。夜になると、居酒屋と化すウチの店は、昼間よりガラの悪いのが入ってきたりするので、流石に子どもの俺がいるのは危ない。別に客がみんな悪人って訳じゃないんだが、酒が入って気が大きくなるヤツも多いからな。面倒事が起きるのは大抵夜だ。
 そんな時は父さんと母さんの出番。とりあえず水をぶっかけるか、ダメそうなら殴るか、問答無用で店の外に放り出すか……。結構な荒治療なのだ。二人とも優しいんだが、怒ると怖い。特に母さん。普段は怒らない分、ブチギレると、命の危険を感じる。俺が怒られていなくても、だ。

「ロアーン。起きてるかー?」

「おきてるよー。きがえておりるからちょっとまってー」

「おー」

 父さんだ。多分もう店の仕込みが終わったんだろう。
 我が家は一階が店、二階が居住スペースになっている。俺より早く起きている父さんと母さんが、店の仕込みやら準備やらをして、それが終わると朝ご飯。俺が起きるのは、このちょっと前だ。
 家族の居住スペースは二階だが、ご飯を作るのは一階、店の厨房なので、大体食べるのも一階だ。そう。店のテーブルだ。
 食べたら片付け、残っている店の準備などをして、朝ご飯の二時間後ぐらいが開店の時間だ。
 一階したに降りていつも使っているテーブルへ向かうと、既に両親と兄さんが席に着いていた。俺も兄さんの隣に座る。
 兄さんは俺より四歳年上で、面倒見が良く、兄弟仲は良い。可愛がってもらえりゃ、そりゃ懐く。

「「「恵みに祈りを」」」

「めぐみにいのりを」

 うん。今日も美味しそう。
 さっきのは、前世で言うところの『いただきます』だな。別にセントメラこの国は宗教色強くないから言わなくても罪だとか罰だとか騒ぐことないんだけど、ま、感謝の気持ちを忘れるなってとこかな。
 今日の朝ご飯は、パンの端っこにスクランブルエッグに、野菜も半分くらいは端の方だな。それから、これまた端っこのお肉。お、この肉は……。

「きょうのひがわりメニューはシウーのサンドイッチだね」

「お、正解。よく分かったわね」

 ふっ。バカにするなよ、母さん。
 我が家の食事は店で出すメニューの材料の余りで作られることが多い。特に朝は仕込みの後、店の料理には使えない食材の端の方を使って父さんか母さんが作ってる。
 それを踏まえて店のメニューと照らし合わせれば、難しいことじゃない。
 両親が営む店、〈アスター〉には、定番メニューと、日替わりメニューがある。定番メニューは、いつでも食べられるもの。日替わりメニューは、いくつかあるメニューの中から、その日に仕入れることができた食材を使って作れる品を出す。
 うん、美味い。

「だって、シウーなんてめったにださないでしょ?だからおぼえてた!」

 それと、パンだな。シウーだけならステーキにするって選択肢もあったが、パンも焼いてるってことは、サンドイッチにするだろう、という予測はできる。
 ……肉が硬い。いや、フォークには刺さったし、質の悪い肉を父さんが仕入れるはずがない。ということは、俺のあごが弱いのか?端の方だし、多少の筋は仕方ないか。

「確かに。ターブやケイの肉に比べたらちょっと高価たかいから、あまり仕入れてないな」

 と、父さんが言う。

「でも、あんまり出さない分、出す日は決まって忙しくなるのよねー。きっと今日も大変ね。頼りにしてるわよ?ロイ、ロアン」

「うん!」

「まっかせて!」

 母さんの笑顔に、兄さんと俺も笑顔で応える。
 そんな会話を聞いていた父さんが、

「さ、早く食べて残りの準備しないと、店開けられないぞ」

 と言った。

「そうね」

「「だね」」

 偶然ハモった兄さんと顔を見合わせて笑い合えば、父さんと母さんも微笑みながらこっちを見ている。
 今日も平和だ。
 朝ご飯と準備が終われば、いよいよ開店の時間だ。

「ちょっと早いけど、まぁいっか。開けちゃお」

 母さん……。相変わらずのテキトーぶりだ。
 が、母さんだけじゃないんだよな。これが。父さんはそうでもないんだけど、この辺の人達は大体テキトーだ。ゆるゆるなのだ。
 俺が買い物について行けば、おまけや値引きは当たり前。『いいよいいよ、持ってけ持ってけ』といっぱいくれる。
 八百屋に行って、主人が狩ったという肉を貰い、肉屋に行けば、奥さんが採ってきた木の実を貰う。『店で売らないの?』と訊いたことがあるんだが、『ウチは八百屋だ』『ウチは肉屋だ』と返ってきた。
 ちなみに、調理器具から剣、鎧まで扱う道具屋のオヤジは、『今日は客が来ねぇなぁ』と言って普段は夜までやってる店を昼過ぎに一度閉め、ウチにご飯を食べに来たことがある。その後また店を開けたらしいが、なんとも自由なオヤジである。父さんは、『人や物を見る目はあるので店に置いてあるのは良い物ばかりだ』と言ってたけど、……どうだかなぁ。
 買い物について行ってるにも関わらず、お金の価値を把握しきれていないのは、主にこれが理由だな。まだ触らせてもらえないってのもあるが、見聞きしてりゃ、それなりに分かる、はずだった。中身は高校生だからな。ゆるゆるオヤジ共め。
 そんでもって、そのゆるゆるは、残念ながら〈アスター〉も例外じゃない。
 開店時間は大体だし、閉店時間は大体の時間すら決まってない。毎週三日目は定休日と決まっているが、それ以外にゲリラ休日がある。ゲリラ休日は、月に二回まで、と決めているらしい。が、前世が日本人の俺からしたら、そもそもゲリラ休日とかふざけてる。『一応、前日までには決めるようにしている』と言っていたけど……。俺は覚えてるぞ。『あ、今日お出かけしようか』と母さんが突然言い出して店を休みにしたことがあることを。
 〈アスター〉には、家族四人の他にも従業員がいるが、来る時間が決まってない。流石に休む場合は前もって教えてもらうようにしているけど、『開店時間からお昼の混む時間より前の間に来てくれればいいよー』とこれまた母さんがテキトー抜かしやがりごさいまして。どうやって給料の計算してんだか。
 まぁ、実際、混んでくるのはお昼前くらいからだし、開店からその時間までは家族四人いればなんとか回せる。そしてありがたいことに、従業員の皆さんは真面目なので、開店から二時間しないうちにちゃんと来てくれる。
 ほら、今日はもう来た。開店したばっかりなのに。……いつもならまだ開店してないのに。
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