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1章
11.俺、新入生になる
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貴族の坊ちゃんを引っ叩いてから、約一年と半年後。
今日は、初等学校の入学式の日だ。
なんと、俺は死んでない。何があったのか、貴族様の事情なんて知らないが、とりあえず生きてる。
まぁ、首の皮が一枚繋がっているだけで、ぶっちゃけいつ死んでもおかしくはないと思っているが。
ビクビクしてたってしょうがない。何したって、しなくたって、死ぬ時は死ぬ。領主様に何か言われたら、そん時考えるとして、今んとこ特に考えずに生きている。……そうしないと心臓保たない。
「ロアン、ごめんねー。入学式、行けなくて」
「いいって。何回も聞いたよ、母さん」
自室で準備してると、母さんが入ってきた。店があるんだからしょうがない。ずっと前から分かってたことだし、入学式なんて、話聞いて終わりだろ?やっと魔法の勉強が出来るから、学校に行くこと自体は楽しみだが、今日の入学式は別にね……。
「代わりに、夜はお店閉めて家族でパーティーね」
それも聞いた。
「そんなことより、ノックして」
母さんはしょっちゅうノックせずに扉を開ける。入学式に来れないことより、こっちを謝って欲しい。
「あら、失礼。次から気を付けるわ」
なんて。それももう何回も聞いた。……はぁ。
「ロアン、準備できた?」
今度はロイ兄が部屋を覗いて声をかけてきた。
今日の入学式は、ロイ兄が付き添いだ。一人で行けるって言ったのに、ダメだってさ。
「もうちょっと待ってー」
答えながら、最後の荷物をバッグに入れ、口を閉める。上着を羽織ったら準備オーケー。
「よし、大丈夫」
「じゃ、行こうか」
三人揃って階段を降りる。
玄関の前まで来ると、父さんとムルカ兄とハノさん、それにメイラ姉もいた。メイラ姉は、長い赤毛を三つ編みにした、〈アスター〉の従業員の一人だ。
「メイラ姉、今日は授業じゃないの?」
メイラ姉は、高等学校に通っているから授業のある日は仕事休みのはずだけど……。
ちなみに、ロイ兄も今年から高等学校に通う。
「あら、あたしが来るの、嫌?」
メイラ姉は、不機嫌そうな顔してそう言った。
「違う、違う。そうじゃなくって……」
俺が慌てると、メイラ姉はニコッと笑って言った。
「ふふっ。大丈夫。先生には言ってあるから」
「もう!意地悪!」
一連のやり取りに、周りにいたみんなが笑う。
もう知らん!ロイ兄も置いてく!
「行ってきます!」
頬を膨らませて、家を出ようとすると、母さんに止められた。
「あぁ、待って待って」
その声に振り向くと、みんな笑顔で言ってくれた。
「「入学おめでとう」」
って。
「……ありがと。行ってきます!」
ちょっと照れるけど、やっぱり祝ってもらえるのは嬉しいよな。今度は笑顔で言って、家を出る。
学校までは、歩いて行ける。近いから。
初等学校は、それぞれの村や街の大きさ、あとは人数か。それによって数が違う。
パドラは領都、つまり領主が住む街だ。ファフニース領の中では、広い方から数えた方がどう考えても早いのに、初等学校は二校しかない。パドラの東の方と、西の方。その分大きいらしいけど。
どっちに通ってもいいんだけど、近い方に通う人がほとんどだと思う。『友達と一緒にしたい』とか、逆に、『コイツと一緒にいたくない』とか、そういう人はわざわざ遠い方に通ったりするらしい。
「ロイ兄、入学式見るの?」
「ん?そのつもりだよ。終わったらどこかでお昼ご飯食べて良いって。母さんからお金もらってるんだ。家で食べてもいいけど、どうする?」
そんなの決まってる。ロイ兄も分かってるくせに、聞かないでよね。
「もちろん、食べて帰るよ。デザートも食べていい?」
「いいけど、食べ過ぎないでね。夜は父さん達がご馳走用意するって言ってたから」
「はーい」
こんな調子で、お昼は何が食べたいだとか、店はどこにするだとか話していたら、学校の門の前まで来た。
門の前は、先生だろうか、丈の長い……スカート?ワンピースって言うんだっけ?を着た女性が立っていた。
「新入生ね。入学おめでとうございます。あなたはあちら。向こうにも先生がいるので、指示に従って下さいね」
女性はそう言って、門から見て左の方を指差した。一部手前の建物の陰に隠れているが、よく見ると、何人か人がいるのが見えた。
「分かりました」
そう頷いて、ロイ兄はどうするのかと見上げると、女性はロイ兄に言った。
「ロイ君は真っ直ぐね。入学式、見て行くんでしょう?」
「はい」
一瞬、『およ?』と思ったが、ロイ兄だってここに通ってたんだ。この女性が学校関係者なら知ってても不思議じゃないな。
「じゃあ、ロアン。ここで一旦お別れだ。式とその後の説明とか、全部終わったらここに来てね。多分、僕が先に来れると思うけど、いなかったらここで待ってて」
「分かった。また後でねー」
ロイ兄に手を振って、新入生の集合場所と思われる建物に向かう。
とーもだちひゃっくにんでっきるっかなー。……いや、百人はいらないかも。
とは言え、友達は欲しい。今までは、店に来た同年代の子達と話したりはしたが、『友達』と言うより、どうしても『お客さん』の意識が抜けなかった。学校でなら、『お客さん』として店に来てくれてた子とも、『友達』になれるかもしれない。
目的地に到着すると、今度は男性が立っていた。
「入学おめでとう!ここから入って左に待機室がある。時間になるまでそこで待っていてくれ」
「分かりました」
説明を聞いて返事をし、建物に入る。待機室……結構でかいな。新入生の人数も、思ったよりいる。これでまだ全員じゃないんだよな。
どんな子がいるんだろうか、仲良くなれそうな子はいるだろうか、と部屋を見回していると、後ろから声をかけられた。
「おい、そこにいると邪魔だぞ。僕が入れないじゃないか。早く退け」
今日は、初等学校の入学式の日だ。
なんと、俺は死んでない。何があったのか、貴族様の事情なんて知らないが、とりあえず生きてる。
まぁ、首の皮が一枚繋がっているだけで、ぶっちゃけいつ死んでもおかしくはないと思っているが。
ビクビクしてたってしょうがない。何したって、しなくたって、死ぬ時は死ぬ。領主様に何か言われたら、そん時考えるとして、今んとこ特に考えずに生きている。……そうしないと心臓保たない。
「ロアン、ごめんねー。入学式、行けなくて」
「いいって。何回も聞いたよ、母さん」
自室で準備してると、母さんが入ってきた。店があるんだからしょうがない。ずっと前から分かってたことだし、入学式なんて、話聞いて終わりだろ?やっと魔法の勉強が出来るから、学校に行くこと自体は楽しみだが、今日の入学式は別にね……。
「代わりに、夜はお店閉めて家族でパーティーね」
それも聞いた。
「そんなことより、ノックして」
母さんはしょっちゅうノックせずに扉を開ける。入学式に来れないことより、こっちを謝って欲しい。
「あら、失礼。次から気を付けるわ」
なんて。それももう何回も聞いた。……はぁ。
「ロアン、準備できた?」
今度はロイ兄が部屋を覗いて声をかけてきた。
今日の入学式は、ロイ兄が付き添いだ。一人で行けるって言ったのに、ダメだってさ。
「もうちょっと待ってー」
答えながら、最後の荷物をバッグに入れ、口を閉める。上着を羽織ったら準備オーケー。
「よし、大丈夫」
「じゃ、行こうか」
三人揃って階段を降りる。
玄関の前まで来ると、父さんとムルカ兄とハノさん、それにメイラ姉もいた。メイラ姉は、長い赤毛を三つ編みにした、〈アスター〉の従業員の一人だ。
「メイラ姉、今日は授業じゃないの?」
メイラ姉は、高等学校に通っているから授業のある日は仕事休みのはずだけど……。
ちなみに、ロイ兄も今年から高等学校に通う。
「あら、あたしが来るの、嫌?」
メイラ姉は、不機嫌そうな顔してそう言った。
「違う、違う。そうじゃなくって……」
俺が慌てると、メイラ姉はニコッと笑って言った。
「ふふっ。大丈夫。先生には言ってあるから」
「もう!意地悪!」
一連のやり取りに、周りにいたみんなが笑う。
もう知らん!ロイ兄も置いてく!
「行ってきます!」
頬を膨らませて、家を出ようとすると、母さんに止められた。
「あぁ、待って待って」
その声に振り向くと、みんな笑顔で言ってくれた。
「「入学おめでとう」」
って。
「……ありがと。行ってきます!」
ちょっと照れるけど、やっぱり祝ってもらえるのは嬉しいよな。今度は笑顔で言って、家を出る。
学校までは、歩いて行ける。近いから。
初等学校は、それぞれの村や街の大きさ、あとは人数か。それによって数が違う。
パドラは領都、つまり領主が住む街だ。ファフニース領の中では、広い方から数えた方がどう考えても早いのに、初等学校は二校しかない。パドラの東の方と、西の方。その分大きいらしいけど。
どっちに通ってもいいんだけど、近い方に通う人がほとんどだと思う。『友達と一緒にしたい』とか、逆に、『コイツと一緒にいたくない』とか、そういう人はわざわざ遠い方に通ったりするらしい。
「ロイ兄、入学式見るの?」
「ん?そのつもりだよ。終わったらどこかでお昼ご飯食べて良いって。母さんからお金もらってるんだ。家で食べてもいいけど、どうする?」
そんなの決まってる。ロイ兄も分かってるくせに、聞かないでよね。
「もちろん、食べて帰るよ。デザートも食べていい?」
「いいけど、食べ過ぎないでね。夜は父さん達がご馳走用意するって言ってたから」
「はーい」
こんな調子で、お昼は何が食べたいだとか、店はどこにするだとか話していたら、学校の門の前まで来た。
門の前は、先生だろうか、丈の長い……スカート?ワンピースって言うんだっけ?を着た女性が立っていた。
「新入生ね。入学おめでとうございます。あなたはあちら。向こうにも先生がいるので、指示に従って下さいね」
女性はそう言って、門から見て左の方を指差した。一部手前の建物の陰に隠れているが、よく見ると、何人か人がいるのが見えた。
「分かりました」
そう頷いて、ロイ兄はどうするのかと見上げると、女性はロイ兄に言った。
「ロイ君は真っ直ぐね。入学式、見て行くんでしょう?」
「はい」
一瞬、『およ?』と思ったが、ロイ兄だってここに通ってたんだ。この女性が学校関係者なら知ってても不思議じゃないな。
「じゃあ、ロアン。ここで一旦お別れだ。式とその後の説明とか、全部終わったらここに来てね。多分、僕が先に来れると思うけど、いなかったらここで待ってて」
「分かった。また後でねー」
ロイ兄に手を振って、新入生の集合場所と思われる建物に向かう。
とーもだちひゃっくにんでっきるっかなー。……いや、百人はいらないかも。
とは言え、友達は欲しい。今までは、店に来た同年代の子達と話したりはしたが、『友達』と言うより、どうしても『お客さん』の意識が抜けなかった。学校でなら、『お客さん』として店に来てくれてた子とも、『友達』になれるかもしれない。
目的地に到着すると、今度は男性が立っていた。
「入学おめでとう!ここから入って左に待機室がある。時間になるまでそこで待っていてくれ」
「分かりました」
説明を聞いて返事をし、建物に入る。待機室……結構でかいな。新入生の人数も、思ったよりいる。これでまだ全員じゃないんだよな。
どんな子がいるんだろうか、仲良くなれそうな子はいるだろうか、と部屋を見回していると、後ろから声をかけられた。
「おい、そこにいると邪魔だぞ。僕が入れないじゃないか。早く退け」
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