転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

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1章

57.スラ、イム?

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 茂みから出てた長い耳が、突然赤いゲル状の何かに包まれた。『ピキャッ』という鳴き声と共に、ラビットは赤い何かに飲み込まれてしまったようだ。

「……な、何だ?」

「分からない。ラミ、ネリー、下がって」

 全員が警戒体勢を取り、ルマは女子二人を下がらせる。

「アレクも下がっとけ」

 ぶっちゃけ、アレクに何かあるのが一番マズイ。他の三人も分かってるようで、ルマは前に出て、ラミが後ろからアレクを引っ張った。

「何を言っている。民を守るのが貴族の役目だ」

 アレクはそう言って、ラミの手を払い、下がろうとしない。
 その心構えは大変立派なんだが、アレク本人が前線に出る必要はないんじゃないか?

「!」

 ガサガサッと音がして、茂みが動く。
 緊張が走るなか、茂みから出て来たのは……。

「……?」

 一瞬、全員の動きが止まる。

「……スラ、イム?」

 アレクが、疑問形でその正体を口にする。
 スライムについては、俺達も授業で習ってる。ウィルオウィスプ、シルフ、ゴーレムと並ぶ、最強とも言われる魔物の一種だ。
 他の魔物と違い、四大源力の、火、水、風、土、それぞれに魔力が宿って凝縮されて魔物化したもの。つまり、力の塊である。しかし、恐るべきは攻撃力にあらず。一番恐ろしいのは、その回復力だ。魔物の中で、四種だけが、自己回復能力を持っている。
 そもそも、この四種の魔物は形を自由に変えるため、物理攻撃は効かないと言っていい。その上、彼らの生命力の源は、世界を支える力そのもの。そこかしこに溢れかえっている。彼らの得意なフィールドにいたなら、傷を付けたところで、瞬時に回復してしまう。
 スライムなら、水場。海の近くや湖にいることが多いが、池でも、水溜りでも、何でもいい。草木に付いた朝露でさえ、回復の助けになるのだから。
 王国騎士だろうと、一流の冒険者だろうと、倒すのは至難の業だ。

「だけど……」

 ラミが言う。
 そう!『だけど』なのだ。
 スライムが水場から離れることは、そう多くない。が、スライムが珍しい魔物かと聞かれれば、そうでもない。確かに、こんな森の入り口付近に現れることは稀だが、無いとは言えない。
 だかしかし!そんなことより!もっと重大なことがある。

「なんで、赤いんだろう……」

 ルマが呟く。
 それ!赤いの!
 スライムは水の魔物なので、個体差はあるが、水色か青い色をしている。……はずなのだが。

「……スライムじゃ、ない、とか?」

 ネリーがそう言うのも無理はない。そう思える程の、例外なのだ。研究者の間でどう言われているのかは知らないが、少なくとも、俺は『赤いスライム』なんて話は聞いたことがない。
 でも。

「色以外の特徴は、どう考えても、スライムだよなぁ」

 丸くて、ぷよんぷよんしてて、半透明。前世でもゲームや小説でお馴染みの、スライムとそっくりだ。色以外は。

「「……」」

 スライムもこっちを向いて、動きを止めた。人間がいるとは思わなかったのかもしれない。

「ど、どうするの?倒すの?」

 ラミ、いくら勉強苦手って言っても、スライムを倒せないことくらい分かってるでしょ。動揺し過ぎ。

「いや、無理無理」

 俺が否定すると、ルマとアレクも続いて言った。

「逃げる一択、かな」

「いくらこの辺りに水場が無いとは言え、僕達の実力じゃ、スライムは倒せないしな」

 と、なると、問題は。

「じゃあ、どうやって逃げるの?」

 ネリーの言う通り。それなんだよなぁ。
 背中を向ければ、その瞬間に襲われる可能性がある。魔物と対峙した場合、やってはいけないことだ。
 幸い、ウィルオウィスプ、スライム、シルフ、ゴーレムの四種は、穏やかな性格で、こちらから攻撃しなければ、何もされないはずだ。ゆっくり後ろに下がれば、大丈夫なはず……。

「あれ?逃げちゃうの?」

 ⁉︎

「もしかして、ビビってる?」

「喋った!」

 四種の魔物が、他の魔物より知能が高いことは知ってたが、喋るなんて聞いてない。喋れる程頭いいってことだよな。

「早く逃げたいけど……」

 ルマがゆっくりと下がる。
 それに合わせて、全員が同じようにゆっくりと後ろへ下がって、スライムと距離を取る。

「ぷぷっ。水辺から離れたスライムなんかにビビっちゃってさ」

 確かに、水場から離れたスライムは、本来の実力の半分も発揮出来ないだろう。それは、他の三種も同じ。彼らの特性に合ったフィールドから離れれば、彼らの力は激減だ。
 が。

「それでも、スライムだし……」

「今のボクでも倒せそうな雑魚じゃん」

 と、煽ってくるが。どう考えても挑発だし、乗る理由もない。明らかに変異種で、どれだけ危険か分からない。そもそも、スライムが喋るとか、知能がある時点で、他の魔物よりかなりの脅威になることは分かりきっている。
 そして、常日頃から、偉そうな態度を取られてるので、今さらこんなものに乗るやつはここには……

「なんだと!僕が弱いと言うのか!」

 いた。

「僕を馬鹿にするなよ。スライムになんて、負けるわけがないだろう!」

 いやいや。スライムになんて、勝てるわけがないだろ。

「行け!」

 アレクは、掛け声と共に、風の魔法を放つ。
 スライムはひらりとかわし、

「当たんない、当たんない!」

 と、さらに挑発し、森の奥へと入っていく。

「このっ!命令だ!行くぞ、お前達!」

 アレクはそう言って、スライムを追いかけて行ってしまった。
……いつも思ってんだけど、お前の命令は、号令なんだよ。そんなに安売りしていいやつなの?

「……やばくない?」

 とラミ。

「……うん」

「だね」

 とネリーと俺。

「はぁー……。追いかけるぞ」

「はいよー」

「うん!」

「りょーかい」

 ため息を吐きながら言うルマに、ラミ、ネリー、俺が応える。
俺達四人は、スライムを追いかけるアレクを追って、森を進んで行った。
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