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第20膳 〆
やっぱり〆にはお米でしょう!タラコのせたり、たまごかけたり
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この世でいちばんおいしいものは何か?
人類史はじまって以来のそんな問いに、あまたの聖人賢者たちが心を砕いてまいりました。
その答えにはさまざまなものがありますが、わたしが大好きなエピソードを二つご紹介したいと思います。
一つ目はかの"東照大権現"、徳川家康にまつわるお話です。
あるとき家康さんは居並ぶ家臣と戦談義をしていましたが、唐突に「この世でいちばんうまいものは何だと思う?」という問いを発します。
剛勇無双の無骨な戦国武者どものこと、
「干し飯」
「焼き味噌」
「生肉」
などが関の山かと思いきや、出るわ出るわ。
「お餅でござろう」
「いいや、寒ブリにて」
「なんの、タコス…もとい、蛸酢こそ」
などなど、みんな口々に自分がいちばん好きなものの名前を挙げはじめました。
はては「ナン」とか「マカロン」とか言いだす人もいて収拾がつかなくなってきたとき、
「そなたはどうか?」
家康さんはかたわらにそっと侍る女性に声をかけたのです。
彼女の名は「お梶の方」。家康さんの寵愛を受け、幾度となく戦場をも共にした側室の一人です。
お梶さんは場が静まるのを待って、ごく控えめにコメントしました。
「お塩、かと存じまする」
ほほう!
「なにゆえかように?」
意表をついた答えに家臣団はもとより、家康さんも身を乗り出します。
「どんなにすばらしい食べ物も、お塩の味がせねば旨うございませぬ」
場内がどよめき、家康さんは満足げに何度もうなずきます。
なるほどなるほど。
機知に富んだ、おみごとな回答です。
「されば、いちばんまずいものは?」
興がのった家康さんは、重ねて問いかけます。
「それもまた、お塩かと」
塩分が強すぎると素材の味を損ない、また塩だけを食べてもおいしくない、というのがその理由です。
なるほどなあ。
こんな聡明なコメントからお梶さんは、戦国の世で男として生まれていたら、一軍の将となったに違いないと評判になったそうです。
二つ目は、わたしの大好きな「一休さん」のお話です。
将軍さまはいつものように悪気なく、一休さんに「この世でいちばんおいしいものが食べたい!」と言い出します。
一休さんは困るふうでもなく、ではご馳走しますゆえ、いついつにお寺にいらっしゃいと答えます。
はてさて、どんな料理を食べさせてくれるのやらと、将軍さまはわくわくしながらお寺の門を叩きました。
しかし、ご馳走の前の作法などと称して、一休さんはなぜか次々と家事労働を申し付けます。
雑巾がけ、薪割り、洗濯、その他諸々……いかに武家の棟梁とて貴族化した将軍さまには重労働です。
やんなきゃいいのに、というのは甘茶でカッポレというものでしょう。
有無をいわさぬ引力というか魔力のようなものが一休さんには備わっていて、将軍さまといえどもそこから逃れることはできないのです。
日頃の不摂生とストレスでぼろぼろの将軍さまでしたが、それでもフラフラになりながら作業を完了しました。
もうらめぇ、とへたりこんだその時、
「お勤めまことにかたじけなく。それでは湯殿をつかわれよ」
まるで仏の啓示のように一休さんがお風呂をすすめます。
たくさん身体を動かして、久しぶりに汗もいっぱいかいて、ほどよい加減のお湯に浸った将軍さまは、身も心もとろとろに溶け出すような心地よさです。
そしてお風呂上がりでさっぱりしたころにはほとんどのカロリーを消費してしまい、胃袋がきゅんっと縮まるような飢餓感に襲われたのです。
すると次の間に一休さんが控えており、
「長らくお待たせもうしました。これに膳をもちましたゆえ、ごゆるりと」
ついに、ようやく、やっとのことの食事です。
「あう、ああ、おああ※▲◎∞%≧∀」
将軍さまは目の前の食べ物をむさぼりました。
うまい。
うまい!
なまらうまい!!
天界に滴るという甘露を、人の食べるものの形に凝らせたかのようなその味わいは、将軍さまとてこれまで口にしたこともないような神気を宿していました。
ちなみにこの「将軍さま」とは室町三代将軍・足利義満。
征夷大将軍と太政大臣という、公武二つの頂きを極めた初の人物です。
明国との貿易を再開し、皇帝より"日本国王"の号を賜った真のスーパーセレブ。
アニメでのまろまろしたおじさま像にだまされてはいけません。
さて、無我夢中心神喪失の状態でお膳をたいらげた将軍さまは、うっとりとその余韻に浸っていました。
「いかがにございましょうや」
かたわらには一休さんが、ややニヤニヤしつつ控えています。
将軍さまはなまらうまかったさっきの料理を口を極めてほめそやし、何なら「左大臣」とでも命名しそうな勢いです。
ところが、うますぎてあっという間に呑んじゃって、どんな料理かさっぱり覚えていません。
その名を問う将軍さまに、じつはただの大根漬けなのですよと明かすことは、みなさんよくご存知のことと思います。
空腹は最上のソース、という教訓をおもしろおかしく描いたお話で、こどものわたしはたいへんエキサイトしてこの回を視聴したことを覚えています。
では、もしわたしが「世界でいちばんおいしいもの」を問われたらなんと答えるか。
シチュエーションを抜きにして、まともに回答するならば……
「お米」。
これっきゃありません。
わたしは、お米が、なにより大好きなのでした。
白くってあまくって、もっちりむにむにした幸せな味。
毎日食べてもあきることなく、それでいて心からほっとする、神秘の穀物です。
わたしの夫も大のお米っ子で、毎年新米の季節になるとふたりしてそわそわしてしまうほどなのです。
お米どころは全国にありますが、わたしが北国育ちのせいもあって、ついつい東北産のものをひいきにしてしまいます。
なかでも最近注目しているのは、わがふるさと北海道で育まれた「道産米」です。
北海道はあまりにも寒冷な気候のため、稲作に適した土地ではないとされてきました。
しかしその挑戦の歴史は古く、17世紀終わり頃に現在の北斗市で稲を植え付けたのが、北海道における水田の発祥とされています。
ところがこれまで道産米は、あまりおいしくないお米の代名詞のように扱われてきました。
しかし長い年月をかけて過酷な環境への耐性と味を両立する品種が開発され、いまや「特A」の評価を得るすばらしいお米が出回っています。
なかでもわたしが好きなのは「ゆめぴりか」というお米です。
"美しい"という意味のアイヌ語である「ピリカ」の名を冠するこのお米は、それはもうびっくりするくらいおいしいものです。
もっちりしっとりした食味に、甘くゆたかな旨みがぎゅっと詰まったすてきな味わいなのです。
夫もゆめぴりかをことのほか気にいり、わたしたちは全力で北海道米を応援することに決めています。
どの時期のお米もおいしいですがやはり新米は格別で、そのみずみずしさたるや「新米をおかずに古米を食べる」という冗談もあながちではありません。
新米が手に入ると、わたしたちは水加減に気をつけて、土鍋で多めに炊くことにしています。
沸騰したら中火で3分、火からおろして10分おいて、今度は弱火で3分加熱。
再び10分蒸らすとできあがり。
ほどよくおこげもできるので、最高の炊き方だと思います。
これは夫のほうが上手なので、いつも彼にお願いするのですが。
炊きあがったつやつやの新米は、ただもうそれだけをたくさん食べたくって、いくつかのごはんのお供だけを用意します。
のりの佃煮とか、梅干しとか、いかの塩辛とか、手作らずのオンパレード。
とくにわたしたちが好きなのは、塩漬けしただけの辛くないタラコと、生たまごです。
いろんな副菜をちょっとずつつまみながら思うさま新米を堪能して、後のほうでちょびっとだけタラコを口に含むのが好きなのです。
小さな小さな粒粒にぎっしり旨みを閉じ込めて、プチプチとした食感とともにお米の甘みを引き出してくれます。
そして最後の一口ぶんだけ、たまごかけごはんにするのを楽しみにしています。
新米になんてことを!とおっしゃる方もおられましょうが、なんだかいけないことをしているみたいでわくわくしちゃいます。
1個のたまごを夫と半分こして、やや改まった雰囲気でおもむろに味わうのです。
「いつか田舎で鶏さんを飼って、うみたてたまごを食べられるといいですねえ」
夫が平和な将来設計を口にします。
「きっと黄身がこんもりしてるんだわ!」
わたしも平和な想像に興奮気味です。
こうして毎年彼と新米を食べられるといいなあ。とも白髪になったり、ちょっとごはんの水加減も多めになったりして、ずうっと楽しく暮らせるといいなあ。
そう心から願います。
好きなものを好きな人と食べること。
これこそがわたしにとっての、「世界でいちばんおいしいもの」なのです。
人類史はじまって以来のそんな問いに、あまたの聖人賢者たちが心を砕いてまいりました。
その答えにはさまざまなものがありますが、わたしが大好きなエピソードを二つご紹介したいと思います。
一つ目はかの"東照大権現"、徳川家康にまつわるお話です。
あるとき家康さんは居並ぶ家臣と戦談義をしていましたが、唐突に「この世でいちばんうまいものは何だと思う?」という問いを発します。
剛勇無双の無骨な戦国武者どものこと、
「干し飯」
「焼き味噌」
「生肉」
などが関の山かと思いきや、出るわ出るわ。
「お餅でござろう」
「いいや、寒ブリにて」
「なんの、タコス…もとい、蛸酢こそ」
などなど、みんな口々に自分がいちばん好きなものの名前を挙げはじめました。
はては「ナン」とか「マカロン」とか言いだす人もいて収拾がつかなくなってきたとき、
「そなたはどうか?」
家康さんはかたわらにそっと侍る女性に声をかけたのです。
彼女の名は「お梶の方」。家康さんの寵愛を受け、幾度となく戦場をも共にした側室の一人です。
お梶さんは場が静まるのを待って、ごく控えめにコメントしました。
「お塩、かと存じまする」
ほほう!
「なにゆえかように?」
意表をついた答えに家臣団はもとより、家康さんも身を乗り出します。
「どんなにすばらしい食べ物も、お塩の味がせねば旨うございませぬ」
場内がどよめき、家康さんは満足げに何度もうなずきます。
なるほどなるほど。
機知に富んだ、おみごとな回答です。
「されば、いちばんまずいものは?」
興がのった家康さんは、重ねて問いかけます。
「それもまた、お塩かと」
塩分が強すぎると素材の味を損ない、また塩だけを食べてもおいしくない、というのがその理由です。
なるほどなあ。
こんな聡明なコメントからお梶さんは、戦国の世で男として生まれていたら、一軍の将となったに違いないと評判になったそうです。
二つ目は、わたしの大好きな「一休さん」のお話です。
将軍さまはいつものように悪気なく、一休さんに「この世でいちばんおいしいものが食べたい!」と言い出します。
一休さんは困るふうでもなく、ではご馳走しますゆえ、いついつにお寺にいらっしゃいと答えます。
はてさて、どんな料理を食べさせてくれるのやらと、将軍さまはわくわくしながらお寺の門を叩きました。
しかし、ご馳走の前の作法などと称して、一休さんはなぜか次々と家事労働を申し付けます。
雑巾がけ、薪割り、洗濯、その他諸々……いかに武家の棟梁とて貴族化した将軍さまには重労働です。
やんなきゃいいのに、というのは甘茶でカッポレというものでしょう。
有無をいわさぬ引力というか魔力のようなものが一休さんには備わっていて、将軍さまといえどもそこから逃れることはできないのです。
日頃の不摂生とストレスでぼろぼろの将軍さまでしたが、それでもフラフラになりながら作業を完了しました。
もうらめぇ、とへたりこんだその時、
「お勤めまことにかたじけなく。それでは湯殿をつかわれよ」
まるで仏の啓示のように一休さんがお風呂をすすめます。
たくさん身体を動かして、久しぶりに汗もいっぱいかいて、ほどよい加減のお湯に浸った将軍さまは、身も心もとろとろに溶け出すような心地よさです。
そしてお風呂上がりでさっぱりしたころにはほとんどのカロリーを消費してしまい、胃袋がきゅんっと縮まるような飢餓感に襲われたのです。
すると次の間に一休さんが控えており、
「長らくお待たせもうしました。これに膳をもちましたゆえ、ごゆるりと」
ついに、ようやく、やっとのことの食事です。
「あう、ああ、おああ※▲◎∞%≧∀」
将軍さまは目の前の食べ物をむさぼりました。
うまい。
うまい!
なまらうまい!!
天界に滴るという甘露を、人の食べるものの形に凝らせたかのようなその味わいは、将軍さまとてこれまで口にしたこともないような神気を宿していました。
ちなみにこの「将軍さま」とは室町三代将軍・足利義満。
征夷大将軍と太政大臣という、公武二つの頂きを極めた初の人物です。
明国との貿易を再開し、皇帝より"日本国王"の号を賜った真のスーパーセレブ。
アニメでのまろまろしたおじさま像にだまされてはいけません。
さて、無我夢中心神喪失の状態でお膳をたいらげた将軍さまは、うっとりとその余韻に浸っていました。
「いかがにございましょうや」
かたわらには一休さんが、ややニヤニヤしつつ控えています。
将軍さまはなまらうまかったさっきの料理を口を極めてほめそやし、何なら「左大臣」とでも命名しそうな勢いです。
ところが、うますぎてあっという間に呑んじゃって、どんな料理かさっぱり覚えていません。
その名を問う将軍さまに、じつはただの大根漬けなのですよと明かすことは、みなさんよくご存知のことと思います。
空腹は最上のソース、という教訓をおもしろおかしく描いたお話で、こどものわたしはたいへんエキサイトしてこの回を視聴したことを覚えています。
では、もしわたしが「世界でいちばんおいしいもの」を問われたらなんと答えるか。
シチュエーションを抜きにして、まともに回答するならば……
「お米」。
これっきゃありません。
わたしは、お米が、なにより大好きなのでした。
白くってあまくって、もっちりむにむにした幸せな味。
毎日食べてもあきることなく、それでいて心からほっとする、神秘の穀物です。
わたしの夫も大のお米っ子で、毎年新米の季節になるとふたりしてそわそわしてしまうほどなのです。
お米どころは全国にありますが、わたしが北国育ちのせいもあって、ついつい東北産のものをひいきにしてしまいます。
なかでも最近注目しているのは、わがふるさと北海道で育まれた「道産米」です。
北海道はあまりにも寒冷な気候のため、稲作に適した土地ではないとされてきました。
しかしその挑戦の歴史は古く、17世紀終わり頃に現在の北斗市で稲を植え付けたのが、北海道における水田の発祥とされています。
ところがこれまで道産米は、あまりおいしくないお米の代名詞のように扱われてきました。
しかし長い年月をかけて過酷な環境への耐性と味を両立する品種が開発され、いまや「特A」の評価を得るすばらしいお米が出回っています。
なかでもわたしが好きなのは「ゆめぴりか」というお米です。
"美しい"という意味のアイヌ語である「ピリカ」の名を冠するこのお米は、それはもうびっくりするくらいおいしいものです。
もっちりしっとりした食味に、甘くゆたかな旨みがぎゅっと詰まったすてきな味わいなのです。
夫もゆめぴりかをことのほか気にいり、わたしたちは全力で北海道米を応援することに決めています。
どの時期のお米もおいしいですがやはり新米は格別で、そのみずみずしさたるや「新米をおかずに古米を食べる」という冗談もあながちではありません。
新米が手に入ると、わたしたちは水加減に気をつけて、土鍋で多めに炊くことにしています。
沸騰したら中火で3分、火からおろして10分おいて、今度は弱火で3分加熱。
再び10分蒸らすとできあがり。
ほどよくおこげもできるので、最高の炊き方だと思います。
これは夫のほうが上手なので、いつも彼にお願いするのですが。
炊きあがったつやつやの新米は、ただもうそれだけをたくさん食べたくって、いくつかのごはんのお供だけを用意します。
のりの佃煮とか、梅干しとか、いかの塩辛とか、手作らずのオンパレード。
とくにわたしたちが好きなのは、塩漬けしただけの辛くないタラコと、生たまごです。
いろんな副菜をちょっとずつつまみながら思うさま新米を堪能して、後のほうでちょびっとだけタラコを口に含むのが好きなのです。
小さな小さな粒粒にぎっしり旨みを閉じ込めて、プチプチとした食感とともにお米の甘みを引き出してくれます。
そして最後の一口ぶんだけ、たまごかけごはんにするのを楽しみにしています。
新米になんてことを!とおっしゃる方もおられましょうが、なんだかいけないことをしているみたいでわくわくしちゃいます。
1個のたまごを夫と半分こして、やや改まった雰囲気でおもむろに味わうのです。
「いつか田舎で鶏さんを飼って、うみたてたまごを食べられるといいですねえ」
夫が平和な将来設計を口にします。
「きっと黄身がこんもりしてるんだわ!」
わたしも平和な想像に興奮気味です。
こうして毎年彼と新米を食べられるといいなあ。とも白髪になったり、ちょっとごはんの水加減も多めになったりして、ずうっと楽しく暮らせるといいなあ。
そう心から願います。
好きなものを好きな人と食べること。
これこそがわたしにとっての、「世界でいちばんおいしいもの」なのです。
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