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君の名と、俺の呼び名は?

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 深夜の緑地公園。

 薄暗くて不気味ではあるが、お互いゴブリンだ、夜目は利くだろう。ここなら潜伏するにも丁度良さそうだ。1人じゃ怖いけど。ぐぎゃあ~


 公園の外からは見えないであろう木陰に潜み、暫く辺りの様子を確認し、特に動きがない事を確かめてから話をする。

 それまで俺の様子を不思議そうに見ていたが、真剣に何かやってるくらいの事は理解できたのか、ちゃんと大人しく声も出さずに身を屈めていた。

 最低限の危機感はあると思っていいのだろうか。騒げば俺に殺られる可能性とかな。ぎゃっぎゃっぎゃっ。ないか。

 真剣な顔してきょろきょろしてれば分かるだろうし、突然腰布姿になったのにも驚いてるのかもな。今も尚。

 だが、説明するのも面倒だ。そこは飛ばして行くぜ。


「さっきはすまなかったな。だが同族が殺られるのは見たくないと思ってな。突然だったが話し掛けさせてもらったぞ」

「お、おお。こっちこそすまなかったな。突然でびっくりしちまって大声出してよ」

 おっ。話が通じて良かった。やはりゴブリンと言えどもそこまで馬鹿じゃなかったか。仲間同士は仲良くしなきゃな。敵は人間だ。他の魔物の事までは知らないが。

「じゃあ、お互い様って事でいいな。俺はゴブオウ。よろしくな」

 握手はしない。野郎と触れ合いたいとも思わない。

「お、おお。ゴブオウなんて立派な名付きだったのか。すまなかった。いや。許して欲しい。いや。許して下さい。俺は名無しのゴブリン。出来ればあんたの下で働きてえ」

 ん?

「お、おお。そうなのか。ちょっと待ってくれ」

「へ、へい。分かりましたぜ」

 おいおい。いきなりそれか。言葉遣いまで変わったぞ。慣れない言葉遣いに自分でも戸惑ってんのか?

 それよりそんな期待の目で見るんじゃねえ。雄に興味はねえんだよ。キモいな。

 ちょっとだけシンキング・タイムが必要だと思って待ってもらってみたが、目付きが変わって、うるうるまでしちゃってこれだ。

 俺にも考える時間が欲しい。うるうるはしていない。おろおろはしてるかも。魔物の生態なんて勿論知らんし、他のゴブリンの特性も知らん。『名付き』と『名無し』の違いがあるってか?

 それだけで下に付きたいとかって、ゴブリンて面白いな。まあ、それだけネームドが上位種って事なんだろうな。その辺の説明も欲しかったけど、それも仕方ない。

 取り敢えずは見ただけじゃ分からんって事か。覇気とか強者のオーラなんてもんは無いのかもな。俺にはか。ぎゃっぎゃっぎゃっ。

 ……

 ま、まあ、1つ1つ確かめて行くしかないってか。

 どうすんべ。

 ……

 ……


 これも経験。やれる事ならやってみた。決して交尾的な事はしていない。気持ちいい事もしていない。心地は良かったな。

 微妙な違い過ぎて自分でもよく分からんが。ぎゃっぎゃっぎゃっ。

 名付けてやった。やってないけど、名付けはした。選択肢にあった職業にも就けてやった。

 職業ってのはまだ違和感があるが、これも慣れるしかない。別に金をやる訳でもないからな。職種とか、役割って方がすんなりくるんだよな。個人的には。まあいいや。


 ちょっとだけぼわんとなって力が増したような事を言ってたが、雄に興味はないので詳細は省く。

 より従順な部下、配下となってくれたようで何よりだった。ナニは寄ってないし酔ってない。ずっとぶらんぶらん。以上。

 でもねえな。話し掛けられる相手が出来たのは嬉しいが、尊敬の度合いが高過ぎる気もしなくもなくて、慣れないのもあって気持ち悪い。

 これがゴブリンじゃなきゃなぐぎゃあ~


「兄貴。大丈夫でやんす。周りに人影はありやせん」

 そう言って、更に腰を低くして俺に報告してくるファイチクン。正式名『ゴブリンファイチクン』。どう呼ぶかは自由で良かった。

 職業はファイターにしてやった。戦えって事だ。時には戦い、時には俺の盾となり死んで行けばいい。頑張って欲しい。言わないけど。


 雄の名前を覚えるつもりはない。だからぱっと見で分かるように、今は一緒でも、装備を見れば判別できるようにしておいた。まだまだ増やす方向で考えてるから。

 色々考えてたけど、結局こうなった。俺の名付けなんてこんなものだ。

 カタカナ表記の名付けだが、魔物だからだろうか、漢字の変換は出来なかった。どうでもいいからいいけど、俺的には『ゴブリンのファイターの1番目』。ちゃんと君付けで『ゴブリンのファイチ君』って感じだ。

 呼ぶ時はファイチクン。

 呼び捨てでも強制的な君付け。いいんじゃない?

 どうだ。これなら少しでも愛着を持てるようにとの苦肉の策だ。俺にとってのな。君付けも懐かしい感じがして新鮮でいい。しつこいようだが、これがゴブリンじゃなきゃなぐぎゃあ~


 俺の呼び名は、ゴブオウ様から始まって、ゴブオウ殿、オウ様、オウ殿、ボス、師匠、社長、先生。何かとさ迷った挙げ句、『兄貴』に落ち着いた。

 お互いにしっくり来たってのが理由だ。

 余りにもトップと分かる呼び名じゃ狙われ易いだろうし、かと言ってそのままの名前も王様と間違われ兼ねない。だからそうさせた。

 それが原因かは知らないが、またしても話し方が変わりやがった。どこを目指してるかは知らないが、迷いはあるようで、時々変な言葉遣いになる。

 お前はチンピラか。ちんこがぴらっぴら。見せるんじゃねえ。こいつの腰布もなんとかしないとな。俺のも出てるからいいか。ぎゃっぎゃっぎゃっ。


 って事で、装備も含めて、やっぱりスポーツ用品店を襲撃する事にした。チェック済みだったから話が早い。

 で、念の為に、連係なんかも考えて、先に行かせて警戒しながら進む事にしたのだが、今のはそれに向けての練習だった。


 ある程度は考える頭脳もあるらしく、しっかり言って聞かせれば、ちゃんと動いてくれる事は分かった。

 逃げたり勝手な行動をしないってのはありがたい。疑ってた訳じゃないけど、確認は必要だ。だから念の為。

 では、行きますか。

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